んでやはり警察という組織の内部でのキャラハンの地位みたいなのが問題になるわけなんですよね。これは時代も国もちがうからわかりにくいですね。
市長と警察所長はキャラハンに法を遵守しない、あるいはギリギリのところで活動する傾向があることははっきりわかっているわけで、それなのにキャラハンにスコルピオに金を運んでいけ、それも一人で、武器ももたずに、と命令する。これ、まずキャラハンが苦しめられるだけでなく殺される可能性は相当あるわけだし、 キャラハンに「死んでこい」って言ってるようなもん ですわね。ひどい。そうでなければ、逆に「うまくできるんだったら スコルピオを始末してこい 」という暗黙のメッセージも入ってるかもしれない。キャラハンが人殺し平気なのはわかってるんだから、スコルピオ一人ぐらい殺してきてもらって、うまくいったら警察の手柄、うまくいかなかったらキャラハンの暴走っていう形にしたらいいし、キャラハン死んだら名誉の殉職にしてもいいし馬鹿の犬死あつかいにしてもいい。その場合、 少女一人ぐらいの犠牲の追加はしょうがない 、ぐらいの態度なのかもしれない。これはさすがにキャラハンも特攻隊するわけにはいかんし、なにより 自分としては死んでるとは思ってるけど万が一生きてるかもしれない罪のない少女の命を救わないとならん ので、上司に内緒で信頼できる相棒になってるチコを連れていくわけですね。ここらへんいろいろ困難や矛盾をかかえてなんとか職務(それ自体犯罪者の逮捕や殲滅と人命の保護という矛盾を含んでる)を果たそうとする姿がまあ感動的というかかっこいいわけです。チコとの師弟関係とかなしい別れはもうちょっと描いてほしかったなあ。
北村先生はリアリティに何度も言及するし、プロットの穴にはいろいろヒントがあるとおっしゃるわけで、まあリアリティは大事なときは大事かもしれんけど、昔の映画ってのは娯楽性重視で穴だらけ、みたいなのはよくある話じゃないですかね。ミステリとかホラーとかSFとか、首尾よく主人公たちが悪役に勝利しても、いったいこれどういうふうに法的に処理すんの?みたいな話って山ほどあると思う(たとえば『ダイハード』の主人公は法的にはどうなるんじゃろか)。むしろ映画はリアルじゃないところがあってこその映画だって話さえありそうだしねえ。まあ映画にどの程度の「リアリティ」を求めるか、っていうのはジャンルによってなかなか微妙なところがありますね。ってんで前に書いた鑑賞する態度としての「ジャンル」の話にもどることになるけど面倒なのでもう戻りません。
まあ、てな感じでまったくの映画素人が、北村先生の感想/批評とそれに対するコメントを見てから『ダーティハリー』をはじめて見て適当に考えたこと、反芻していることを書いてみました。『ダーティハリー』はおもしろいけど、超A級作品、不滅のS級作品にあるような時代を越えた普遍性みたいなのはいまいち足りないかもしれなくて、まあA級アクション映画ですわね。おそらくのちの同種の作品に与えた影響はものすごくでかいのもわかりました。そういう影響力も考えにいれると単体ではA級作品だけど歴史的にはS級、みたいな評価もありですかね。まあ50年も前の作品ってのはそういう歴史的理解も含めて楽しみたい気もします。
まあなんにしても、映画の感想とかっていうのは勝手なことを言ったり書いたりして楽しみたいですね。そういう意味では、北村先生がいろいろ好きなことを言うという企画はそれはそれでいいのではないかと思うし、みんなも見習って好きなことをどんどん書いたらいいんじゃないですかね。私自身は先生の記事をきっかけにして出てきた解釈その他にいろいろ学ぶところがありました。北村先生自身の感想も、「え、そう見るものなの?」みたいな驚きがあってよかった。『ダーティハリー』、同じ初見で見てこれほど印象や解釈がちがうなら、みんなでいろいろ語りあう価値がある。我々は、本当に基本的な映画の見方さえわかってないのかもしれないし、見方もぜんぜんちがうのだろう。そういう意味で、先生のあのシリーズはとても興味深いものです。『猿の惑星』は見てないし見る予定もないので評価できませんが、私が中学生か高校生ぐらいのときに見た『酔拳』の感想も実はすごく驚きました。それにしても、映画ってほんとうにいいものですね、それでは、さよなら、さよなら、さよなら。
- 『ダーティハリー』の感想についての私の感想は最高ではないだろう (1)
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