実際この『ダーティハリー』のおもしろさは、キャラハンというヒーローかつアンチヒーローの造形が魅力的なところにあるわけで、映画の主な感想はそこらへんに集中するのが普通に思えますわね。プラスとマイナスが極端。エピソードをひろっていってどういう人物なのかを考える必要がある。
- 刑事として有能なのは前のエントリで書いたとおり
- 最初の銀行強盗のエピソードからわかるのは、犯罪者に先に発砲させて、大砲みたいな拳銃で反撃して殺してしまう、というキャラハンの危険な戦略。警察の方から先に撃っちゃだめなわけですわね。そういう最低限は一応守ってる。銀行強盗も無力化されてる場合にわざわざ殺そうとはしない(いちおう残弾はちゃんと数えてるんしょ)。まあ犯罪者を殺しそこねて残念ぐらいは考えてるかもしれないけど。
- 足を撃たれて出血したときに、ズボンを切るのはやめろ、もったいない、みたいな会話があり、お金はあんまりない質素な生活をしていることが伺える。まあ基本ぼろぼろの服装だしね。安い給料でなんで自分の生命を危険にさらしているのだ。
- 飛び降りを救助するとき侮辱して自分に飛び付かせてるけど、あれも危い。自分の命を大事にしましょう。あんなおっさんの生命にどんな価値があるというのだ……
- 覗き魔と勘違いされるあたり、実はああいうのが好きなのではないかという感じがしてダーティー
- 勘違いされて街のタフなおじさんたちにボコボコにされるんだけど、反撃はしない(すりゃできたろうに)。自分を殴ったおっさんたちに「もう行け」とか言うもんだから、部下のチコが困惑している。勘違いとはいえ、捜査中の警官を襲撃してきたんだから少し反撃したり逮捕したりしてもよいのかもしれないし、チコは最初はそのつもりだったんだろうけど、そうじゃないわけですわ。これがキャラハンの自警団みたいな人々に対する共感によるものなのか、あるいは実は覗きも楽しんでいたから罪悪感があるからなのかはよくわからない。 深みがあるエピソード よねえ
- 新人刑事のチコの教育もちゃんとやってるっぽい。最後の方は一人前の刑事っぽくなってるけど、チコはおそらく辞職しちゃうわけよね。あそこのまわりの描写はもうすこし見たかったけど、時間の関係でなにか省略されちる感じ。チコはキャラハンの無謀なやりかたを認めながらも、妻のある自分には無理だ、って悟ったわけよね
- 誘拐された少女のブラジャーがどうのこうの、ってやってるシーンがあって、ちょっと派手めな感じで、派手目な女子だったのかな、みたいな印象がある。ポルノ街の描写とかもあり、キャラハン自身はそうしたロサンジェルスの性的な放埒みたいなのに対して微妙な態度をとってるように見える。最初に殺されたのも富裕層女子だったりするし、まあスコルピオとキャラハンはなにか共通にもってるものがあるんじゃないのかなあ
- アイルランド系警官、カトリック、っていう設定はアメリカ内部でいろいろありそうでよくわからんですね。まあ警官ごときはアメリカの支配者層とは言えないのだと思う
- 抜かれた歯を見て、キャラハンは誘拐された少女はもう死んでるだろうって言うわけだけど、それでもほんのすこしの可能性にかけてスコルピオを殺さず確保しようとするわけよね
- スコルピオに 電話であちこち移動させられるところが名場面 だわねえ。あれはイライラする。サスペンスを求める観客はあそこに十分サスペンスがないって感じるかもしれないけど、あれはサスペンスじゃなくて、スコルピオの悪辣さと、キャラハンとチコの 我慢、辛抱 、そういうのを見せている。私だったら「もういいや、女の子一人ぐらい殺してもらったら次逮捕できるし、こんだけやったら証拠も集まるっしょ」とか考えちゃうけど、人命第一なのよねえ。えらい。チコが来たときにスコルピオは殺せるわけだけど、少女のために殺さない
- 北村先生は、動けなくしたスコルピオにミランダ警告しなかったのは政治行動じゃない、って言うんだけど、そりゃ政治行動なんかじゃなくて、少女の居場所をなんとかして聞き出すためになんでもする気だからですよね。 罪のない人命がかかっている緊急の場合には 、犯罪者の 人権なんか認めません 、被疑者の人権より人命が優先されます、っていうはっきりした立場だと思う。ここを単に無能だから、職務怠慢だから、って解釈しちゃうのは 私には理解できません 。
- この件についてはアンコレ先生がブログ書いてますね → https://www.anlyznews.com/2024/09/blog-post_7.html 。アンコレ先生はミランダ警告しないのが合理的だからだ、っていう解釈で、それはそれでいいんですが、私はそもそもキャラハンは拷問さえするつもりなので(そして実際にしている)、もう罪のない人命のためならなにをしてもしょうがないと考えてるわけですね。狂信者です。警察やめてもらってください。
- (追記)「あいつはまた人を殺す」「なぜわかる?」「あいつはそれが好きだからだ」っていう会話があるんですが、おもわず「お前も犯罪者殺すの好きだからわかるんだよな」ってつっこみたくなりました。
- 最後、少年を人質にとられているのに発砲する、これが最大の謎で、いくら射撃がうまくたって巨大拳銃ぶっぱなしたら狙い通りに飛ばないことはあるわけで、っていうか狙いが少々はずれても殺せるのが44マグナムなわけで、少年に向けて発砲したっていうのは少年を自分で殺すことになる可能性も考えていたはずなのよね。私はこれが最後に警察バッジを捨てた理由の一つなんじゃないかという気がするんだけど、みんなどう解釈しますか?(銃の腕前に絶対の自信があるスーパーマン、という設定なのか)
まあ他にもいろいろキャラハンという頭のおかしい魅力的な人物の描写はあって、そういうのいろいろ反芻しながら楽しみたいですね。
- 『ダーティハリー』の感想についての私の感想は最高ではないだろう (1)
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