成績評価についての内緒の話

授業について、大学教員はみんな気にしてるけど正直に話し合うことがめったにない、という話題はかなり多いのですが、成績評価も実はその一つです。実は採点はどうするべきかっていうのが大学当局や他の教員から指示されることはめったにないのです。

21世紀になってから、文科省や大学基準協会とかその手の関係から、「成績評価はちゃんとするように」っていう指示が降りているらしく、もちろん成績評価はちゃんとしなければならないしちゃんとしたいわけですが、むずかしいところが多い。そのなかでも「点数」をどうすりゃいいかというのはよくわかってない人が多いと思う。20世紀に非常勤講師していたころは、ABC(優良可)不可、ぐらいでつけろということだったので、まあそういうのはそんなに難しくないのですが、最近は100点満点でつけろ、ということになってるところが多いと思うのですが、記号式試験一発で採点というのならまだしも、記述式試験では微妙なところがあり、レポートだとなおさらむずかしい。

私が専任教員になったころ(21世紀初頭)に参考にさせてもらった名古屋大学の「成長するティップス先生」でも、評価はちゃんとしようとしていろんなティップスが紹介されています。まあとにかく採点基準を学生様にはっきり示すのが大事ですね。これはまあ多くの先生がやってると思う。実際、教員のあたまのなかにはまああるていど基準があって、「こういうのだったら〜点ぐらい減点、こういうの書いてくれたら〜点ぐらい加点」っというのでだいたいでつけてるんじゃないかと思います。

ティプス先生の評価のページ → https://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/tips/basics/grade/index.html

むずかしい、というか私がいままでよくわかっていなかったのは、 点数をどういうふうに分布させればよいのか 、という問題で、これについてはいろいろ探したけど参考になるものがぜんぜんなかった。あったら教えてください。20年近くよくわからないままで点数つけてるんですからほんとうにやばい。

というので、情報提供の意味で最近私がやってみている手法を書いておきます。

まず条件ですが、一番大事なのは誰を落とすべきか、どういう人に単位を出すべきか、ですね。これは先生によってずいぶん違いがあるんじゃないかと思う。教員にとって「楽単(単位楽勝科目)」とかって呼ばれるのは不名誉なことなので、そんなに簡単に単位は出したくないのですが、しかし一方で多くの学生様が単位取れないような授業をすることも誉められることではない。勉強が苦手な人は苦手な人なりに、学生様がそれぞれなにか学びのある授業であるべきだから、そんな簡単に単位を落とすわけにもいかない。でもまあ実際には、レポートでもテストでも、落とすべき人は落とすべきだとすぐわかるんですけどね。ははは。でもやはりちゃんと学生様たちをそれぞれ評価して、適切な順位をつけるのは大事だと思う。人数が多い場合は、学生様たちが、自分が集団のなかでどれくらいの位置にいるのかがわかるようであるべきだ。

もうひとつ、評価「S」に相当するトップクラスの人々にとっては、成績はとても重要なはずです。多くの私学では、奨学金や授業免除とかの関係がありますし、卒業式とかで「卒業生代表!〜さん!」とかってやる権利を獲得するために重要だったりもする。なんでも高得点つけりゃいいってわけではないですね。

成績表は、その人が集団のなかでどれくらいの位置にいるのかがわかるように、そしてトップの人々の人数はあるていど絞り、また単位出せない人々にはそれを納得してもらう必要がある。とかってことを考えると、いわゆる絶対評価よりは相対評価をしたい。

というわけで、ここ数年はいわゆる中高の「偏差値」に近い相対評価にしています。ただし、中高の「偏差値」は50点が平均ですが、それでは成績表には書けないので調整する必要がある。

たとえばレポートを3回課した講義科目だとする。人数が多いとこれ採点するのだけでもたいへん。とりあえずそれぞれを100点満点ぐらいで評価します。私は1回ごとに、採点が終ったらその分布(ヒストグラム)出すようにしています。そうすると自分がどれくらいの位置にいるのか学生様はわかるし。

1回目、2回目、3回目の点数をそのまんま足し算してもいいんですが、私の場合は1:2:3とか2:3:4とかの重みであつかうことにするので、

総合点 = ( 1回目の点数 + (2回目の点数×2) + (3回目の点数×3) ) / 6

とかにする。まあそれぞれの採点がそれなりにできていれば、このまま成績表に書きこんでしまってもいいのですが、それだと絶対評価っぽいので、もうすこし工夫したい。

んでそれの平均(average)と標準偏差(stdev)をスプレッドシートで計算する。あ、このとき、レポート出してなかったり、「このひと人は落とさないとだめだ」って判断した人々、つまり 最初から落とすつもりの人の点数は抜いておきます

最終的な点数は、

(学生様の総合点 – 全体の平均点) / 標準偏差 × 「秘密の倍率」+ 「設定する平均点」 (点数はスプレッドシートに四捨五入してもらう)

「設定する平均点」は75点とか80点とか、とりえず 私が成績分布として公表したいと考える 平均点。「秘密の倍率」がミソで、この倍率を高くすると評価点数がばらけるし、低くすると狭い範囲に集中する感じになる。値の取り方によって、100点をはるかに越えちゃう人が出ちゃったり、60点に満たない人が大量に出たりするので、適当に調整してみます。(上の式は、いわゆる「偏差値」を出す計算式ですね。偏差値の場合は、「秘密の倍率」が10、「設定する平均点」は50点になる。)

これが正しいのか正しくないのかは実はよくわからない。上の方はともかく、下の方は重大なので、60点に少し足りない、ぐらいの人が出ても目をつぶって60点とかつけちゃったりもするのは秘密です。

まあとりあえず、そういうインチキくさいことををすると、こんな感じの分布にすることができます。まあこういうの見せときゃ学生様もあんまり文句は言わないようです。なんとなく釣鐘型になるのは、偏差値っぽい評価だからでもあるけど、3回のレポートで評価してるからですね。たくさんやればやるほど釣鐘に近くなる。

histgram2021.png

上の奴は、平均点は高めに81点にしました。

この方法が統計的に正しいのかどうかよくわからない。できれば各回の点数を単に足すんじゃなくて、各回ごとに偏差値っぽいのを出してそれをなんかしたい気もするけど、数学的にどうすりゃいいのかわからないので現状はこんな感じ。数学や統計が得意な人はもっとまともなことやってると思うんですが、我々超人文系はなにもわからないからこれくらいでもがんばってる方だと思います。

あと、1、2、3回目のレポートの相関とってみたり、学年や学部・学科で分けてみたりして傾向を見てみたりして、全体としてまともな評価ができてるか考えようとはしているのですが、データ見ても私が正しいことを考えているのかどうかわからない。ほんとに統計は勉強しときゃよかったです。

考えかたがまちがってたら指摘おねがいします。また、こうした評価に関するよい手引きがあれば教えてください。

(追記) 大学では相対評価よりは絶対評価をするべきだ、っていう考え方も強いのはわかっているつもりです。毎回のレポートのフィードバックはいちおう絶対評価っぽくなってるから、最終的な評価は相対評価っぽくした方がいいのか、みたいな話。

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