バス先生の新刊が出たよ(5) セックスニュートラルな性犯罪対策法はあんまりよくないかもしれない

SNSでの刑法による性犯罪対策の話題はまだ続いいて、こんどは「従来の法制度は男性によって云々」とかっていう話が話題になってますが、まあこのタイプの主張は実はそれはそれなりに聞くべきところがあるんですよね。

今紹介しているバス先生の新刊でも、バス先生は性暴力をめぐる法制度やそれに類似した制度について軽く触れています。専門じゃないからそんなにつっこんだ話はしてないですが、重要な指摘がある。

彼の勤務しているテキサス大にはストーカー防止の規定みたいなのがあるみたいですが、それによれば、ストーカー行為っていうのは「特定の人物に向けられた、通常人/合理的な人(reasonable person)に自他の安全に対する恐怖をもよおさせるような行為、あるいは大きな情動的苦痛を与える行為」とされてるらしい。

この通常人/合理的な人 reasonable personっていうのは英米の法律関係の議論ではずっと問題になってるやつですね。以前はこれは reasonable manとかって表現されていた。ここでのreasonableっていうのは、rationalとは違う 。rationalにあたる「合理的」っていうのは、「論理と事実に照らして正しく判断するような」とか「自分の利益を最大化するような」という意味で使われることがあるけど、そういうのは仮想的なもので、われわれはそんなに論理的でもなければ現実世界の事実もさして知らないし、自分の利益を最大化するなんてこともできずにへんなことばっかりしている。そうじゃなくて、まずまず ふつうの人平均的な注意力や判断力をもって行動することができる人 、ぐらいの意味です。法律とかっていうのはふつうの人がふつうに生活するために作られているところがあるので、いろんなスーパーマン的な能力を要求したりはしない。

うえのテキサス大では、「ふつうの人がこわがるようなつきまとい行為」を規制(クラスに出てくるなとか、停職や停学や出入り禁止にするとか)しようとしているわけです。

しかし、 通常の女性が恐れることは通常の男性が恐れるようなこととは異なっている かもしれない。つまり、ある種のことがらについては女性の方が敏感で恐怖しやすいかもしれません。そして実際に性暴力関係は女性の方がはるかに恐怖を感じやすく、また被害にあったときのダメージが大きい。元カノにつきまとわれても男子はそんなに気にしないかもしれないが、女性にはとても恐怖である、みたいな。レイプはもちろんのこと、女性が痴漢被害にあったときのイヤさ加減というを男性はよくわかってない可能性がある、というかほぼ確実にわかっとらん。

セックスニュートラルな立法、被害者が男性であれ女性であれ、また加害者が男性であれ女性であれ、同じように扱う形の立法が現代の主流になっているわけですが、バス先生は「 セックスニュートラルな法律は女性に害を及ぼす可能性がある 」ってはっきりいってます。ストーカーの恐怖みたいなのを判断するのに、「合理的な/通常の 男性 」が一人で考えたりするのがやばいのはもちろんのこと、陪審員みたいなのが合理的な男性と合理的女性がメンバーの 半々でも 十分に女性の恐怖に対応した判断をすることができないかもしれない、ってバス先生は考えてるわけです。

歴史的に法律とかを制定する際には男性メンバーが多かったので、そうしが女性の恐怖や被害後の心境とかに現行の法律がうまく対応していない、っていうのは十分ありそうな話で、そういうので性暴力まわりの法律を見直しましょう、っていうのはそれはそれでちゃんとした言い分ではあるわけです。

あとまあいわゆる「貫通」penetration、性器セックス性犯罪を、他のタイプの性犯罪からどれくらい区別するべきか、みたいなところにも関係しますね。「それは重要な違いだ」っていう人もいれば「グラデーションみたいなのだから特別扱いする必要はない」みたいな発想もあるわけですが、そこらへんも心理的学なデータにちゃんともとづいて議論してみたらいいと思う。

「法の有効性は、それがもとにする人間の本性のモデルがどの程度正確かということに依存する」(Owen Jones)1というのは性犯罪対策にはとても重要なことだとバス先生は考えてるし、私もそう思います。

脚注:

1

Jones, O.D., 1999. Sex, culture, and the biology of rape: Toward explanation and prevention. Cal L. Rev., 87, p.827. これは長いけど非常に重要なのでみんな読むべきです。https://heinonline.org/HOL/Page?handle=hein.journals/calr87&div=35&g_sent=1&casa_token=&collection=journals

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。