進化心理学者のデヴィッド・バス先生が新しい本 When Men Behave Badly 出して、ファンなので苦手な英語で読むわけですが、おもしろいっすね。
この本、バス先生にはめずらしくかなり社会的・実践的なところまで切りこんでて注目されます。#MeTooとかの社会運動に対する進化心理学者としての答でもある。バス先生は基本的にそういうのからけっこう距離とってたんですが、『殺してやる』あたりでは薄めに展開し、今回のではかなりしっかり性犯罪とかの抑制のことを考えている。
国内でツイッタとかで「進化心理学によれば〜」とかってやってる人々ってなんというか保守的というか反フェミニズム、反ポリコレ、反左翼、反「リベラル」みたいなところがあるんですが、この新刊でバス先生はかなりフェミニズム・ポリコレ寄りの論説を展開していて、成熟してるなーっていう感じがします。
そういうのの紹介は私よりもっと専門的な知識があって得意な人々がたくさんいるのでおまかせするしかないのですが、おもしろいところをちょっとだけ。
性暴力というか、レイプっていうのは(例外はあるにしても)だいたい男性が女性におこなうもので、それって進化の観点からするとどうなんだ、というのは進化心理学の最大の論争点の一つです。男性が女性をレイプするのはそれ自体が進化的な適応なのか、それとも他の適応の副産物なのか、という問題ですね。
このブログでも何回が紹介しているソーンヒルとパーマーの『人はなぜレイプするか』(原著は2000)でもこれは大問題で、ソーンヒル先生が適応だろう派、パーマー先生が副産物ちゃうか派のようです(共著なので実はこれ私ははっきり理解してなかった)。
ソーンヒル先生が適応だろうと考えるのは、有罪になったレイプ犯は社会的地位が低かったり魅力が薄かったりすることが多いので、そうした不利な立場にある男性が繁殖のチャンスを求めてレイプや強制をするのだろう、みたいな感じのはずです。
バス先生はこれに対して、MeTooで有名になったハーヴェイ・ワインスタインとかそういう権力もった連中もレイプやセクハラしまくる、ってな話をたくさんもちだしてきて、それがおもしろいです。ちなみに、進化心理学の仮説というか説明の方法はたしかにおもしろいんですが、私が進化心理学の本読むときは、そうしたきれいで単純な説明そのものより、進化心理学者たちが参照する個別のデータみたいなのの方に魅力を感じてます。そのいくつか。
(1) Linda Mealey先生によると、レイプの定義にあうようなことをしたことのある大学生男子は、それ意外の学生に比べて、 人気があり、地位が高く、同意してセックスする相手も多い 。そうした上位学生は下位学生に比べて他人の苦痛に共感的でない。 上位マッチョ男がレイプしやすい 仮説。1
(2) 社会的上位男性がたくさん強制的にセックスするという資料は歴史上たくさんある。領主とか聖職者とか。(トランプ元大統領とか)
(3) Martin Lalumièree先生たちによれば、「身体的な力をつかって、望んでいないように見える相手とセックスしたことがありますか」のような質問をすると、 配偶者獲得に成功している、つまりセックスパートナーとかが多い男性ほどイエスと答える 。(あ、これ読んだことあるわ)2
(4) シリアルキラーのポール・ベルナルドのように、イケメンでモテモテなのにレイプ犯という実例は多い。あら、ほんとにけっこうイケてるわ。
こわいですね。モテる男とかイケメンとか権力者とかには気をつけましょう。
レイプ適応仮説については、ちょうど偉いShorebird先生が解説してくれていますので、こんな駄文読んでないでそちら見てください。
シリーズ
脚注:
Mealey, L. (2003) “Combating Rape Views of an Evolutionary Psychologist,” in Evolutional Psychology and VIolence. Greenwood Publishing Group, p. 83.
Lalumière, M. L. and Lalumiere, M. L. (2005) The causes of rape: Understanding individual differences in male propensity for sexual aggression. American Psychological Association Washington, DC.
Views: 152
コメント