ブックガイド:ポップ音楽の歌詞に関する書籍

ちょっとポップ音楽の歌詞に関する本を整理していたので、紹介しておきます。

歌詞の読み込み

畑中良輔 『日本名歌曲百選 詩の分析と解釈』(2002)

古典的な日本語歌曲を題材にして詩として解釈・解説するものだが、いまだに見るべきところがある。以下の引用を見よ!

日本歌曲は、日本語で書かれているために、「当然、意味は分かるはずだ」と決めてかかってしまう傾向があります。そして、実は詩の本意をよく理解していなかったり、特にはまったく誤解したままで、歌ったり聴いたりてしまうという結果になりやすいのです。

見慣れない、聴き慣れない語が用いられているというくらいのことでしたら、辞書をひいてみることで、おおむね解決できますが、古語が用いられていたり、比喩をはじめ、対句、押韻、倒置文といった修辞技巧が駆使されていたり、古典のさりげない引用があったり、さらに、時代背景との関わりの中でとらえなくてはならないことがあったり、などといった場合ですと、理解しようとしてもなかなか思うにまかせないことも出て決ます。

実は現代のポップ曲でも、歌詞をちゃんと解釈するというのはけっこう難しい。

難波江和英『恋するJポップ:平成における恋愛のディスクール』(2004)。文学研究者によるもの。知られていないが、歌詞解釈がすぐれている。

石原千秋『Jポップの作詞術』(2005)。国語教育の一貫としての歌詞解釈。テキストのみ。キーワード三つを選ぶという手法は、中高の国語・音楽教育に導入されたようで大きな影響力があった。

山田敏弘『あの歌詞は、なぜ心に残るのか─Jポップの日本語力』 (2014) 。国語学者によるもの。

細馬宏通『うたのしくみ』(2014)『うたのしくみ 増補完全版』。楽曲の形式や、母音・子音などの細かい部分にまで言及した名著。

佐藤良明 『J-POP進化論』(1999)『ニッポンの歌はどう変わったか:増補改訂J-POP進化論』(2019)

歌謡曲

歌謡曲の歌詞は昭和の時代からかなり論じられている。

なかにし礼 『歌謡曲から「昭和」を読む』(2011)

高護『歌謡曲:時代を彩った歌たち』(2011)

1970-80年代のトップ作詞家である阿久悠もかなり多くの作詞術、作詞の秘密や批評の文章を書いている。その他類書は多い。

洋楽

ボブ・ディランやビートルズなどを代表するフォーク・ロックの歌詞はメッセージが重要であり、また英語教育とのかかわりで日本語の楽曲よりはるかに多くの鑑賞書・解説書がある。

町山智浩『本当はこんな歌』(2013)

泉山真奈美『英詞を味わう』(2015)

バラカン『ロックの英詞を読む』(2016)

下のシリーズはとてもおもしろい。

自分たちの関心にひきよせるためにポップスを使う

歌詞を解釈するというよりは、自分たちが論じたい話題をひきだすための源泉としてポップ音楽の歌詞を利用する流れもある。

ミュージシャンインタビュー

江森丈晃『音楽とことば』 (2013) 磯部涼『新しい音楽とことば』(2014) はアーティストのインタビューから、それぞれの歌詞についての考え方と作詞術を紹介している。

作品論・アーティスト論

1990年代の沢井昭治 『B’zに学ぶ作詞レッスン』(1996)『スピッツに学ぶ作詞レッスン』(1996)『ミスチルに学ぶ作詞レッスン』(1996)『マイラバに学ぶ作詞レッスン』(1996) が、個別のアーティストの詞を検討しながら作詞法を考えていて興味深い。

2000年代初頭の見崎鉄 『Jポップの日本語:歌詞論』(2002) は非常にすぐれた歌詞分析の著作であり、のちの個別のアーティスト・作詞家をあつかった『盗んだバイクと壊れたガラス 尾崎豊の歌詞論』(2018)『阿久悠神話解体』(2009)もよい。

丹生敦『林檎コンプレックス:椎名林檎的解体新書』 (2003) 。椎名林檎の歌詞を解釈している。

2010年代後半のスージー鈴木の一連の著作は、80年代のポップ音楽の魅力をサウンド・歌詞ともに十分に語っていて優れている。 『1979年の歌謡曲』(2015)『1984年の歌謡曲』(2017) 『サザンオールスターズ 1978-1985』(2017)『イントロの法則80’s』(2018)『80年代音楽解体新書』(2019) 『チェッカーズの音楽とその時代』(2019)

おまけ:レトリック

瀬戸賢一『日本語のレトリック』(2002)。読みやすく、レトリック早見表がついていて便利。

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