セックス経済論 (9) 女性のセクシュアリティの抑制

女性のセクシュアリティの抑制

多くの文化で女性のセクシュアリティ1が抑制されているとされます。まあ女性の性的な活動は好ましくないとか、性的な魅力をみせびらかすような服装はつつましくないとか、極端なケースでは女性の性的な快楽を削減するために性器に外科手術を施す(FGM)とか。

昨日飯山陽先生の『イスラム教再考』という本めくったんですが、後ろの方はイスラム文化がものすごく女性抑圧的だっていうことを力説していてあそこらの人達たいへんだなとか考えてました。

ふつうの解釈は、そういうふうな女性のセクシュアリティの抑制は、まさに男性の女性支配のあらわれである、っていうふうに解釈される。男性が自分の彼女や妻とかが自分以外の相手を誘ったりセックスしたりするのがいやだから、男性は結託して女性の抑圧している。それはこれはこれでまあ一応筋が通っているように見える。フェミニズム理論でも、(2000年ぐらいまでの)一般的な進化心理学理論でもまあそういう感じ。

こういう発想の背後には、女性のセックスの抑制が 誰の得になるのか 、を考えるという姿勢があります。”cui bono?”ってやつで、犯罪を操作するときなどに、それが誰の利益になるのか考えれば犯人の推定ができる、みたいな発想ですね。女性のセックスの抑制は男性の利益になるのだから、おそらく男性(男性支配)が犯人にちがいない。

ところがバウ先生たちのセックス経済論では、いやいや、女性もお互いのセックスを抑制することで、全体としてけっこう利益を得ていますよ、むしろ女性の利益じゃないっすか、みたいなことを考えるわけです。これは、中東とかの原油産出国が、お互いの輸出量を制限することで原油の値段をつりあげるのに似ている。

証拠はどこにあるのか、っていうと、Baumeister & Twenge 2002ってやつですね。

  • 思春期女子の性的抑制(セクシーな格好の非難とか)は、父親ではなく母親によるものであり、同級生とかの男子ではなく女性どうしによるものである
  • いわゆるヤリマン女子に対する非難も男性より女性によるものが強い
  • ボーイフレンドは自分のガールフレンドとのセックスを抑制せず、むしろ多く求める
  • 婚前セックスを非難する傾向は女性の方が強い
  • 婚外セックスのダブルスタンダード(男性は許されるが女性は許されない)的発想も女性の方が強い、先進国のダブルスタンダードを認めない現代女性も、自分以外の他の女性たちの方が男性よりダブルスタンダードを認める傾向にあると考えている

など。また、FGMの習慣があるような女性の性欲や性的活動を強く抑制する文化では、女性は男性よりはるかに社会的・経済的・政治的地位が低い。これのバウ先生的解釈として、女性は男性よりはるかに劣悪な環境で生活しているので、自分たちの性的能力から最大の利益を獲得しなければならず、そのために他の女性の性的活動を抑制して値段をつりあげる必要があるからだ、ってなことになる。うーん。

まあとにかくセックスを「安い」値段で男性に与える女性は女性から嫌われ制裁を受けちゃうわけですが、それはまさにセックスの価格維持のためだ、みたいな話になるわけですわ。でも個人としてはみんなが堅い行動をとっているときに、ルール破りして柔軟なセックス活動をおこなえば他より先に優秀なお客さんを確保できたりするわけで、ここに女性の性的活動の難しさがある。

まあ前に書いた心理学者たちの「セクシー化」批判みたいなのも、あんまり女性がセクシーなのは好ましくない、という判断が背景にあるのかもしれないですね。

セックス革命

まああとは1970年前後のセックス革命について。避妊技術が一般化して、婚前・婚外セックスが一般的になると、女性のセックスが値崩れおこしてしまい、女性は非常にむずかしい問題に直面することになった。当時のフェミニストの間でもこの革命の評価はさまざまですね。2000年前後でもテレビ Sex and the City でも、結婚を考えながら男性とどうセックスするのかっていう駆け引きやら取引やら戦略やら相談やらでたいへんで、2020年代もそれは変わらんでしょうな。

まあほかにもおもしろいネタはあるんですが、とりあえず「セックス経済論」一回おしまい。バウマイスター先生関係の細かいおもしろいネタは別にあつかうことがあると思います。

【シリーズ】

脚注:

1

ここでは女性の性的な活動や欲求、そして性的な魅力などをひっくるめてセクシュアリティって表現しています。

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