セックス経済論 (7) セックスに対する態度の性差、特にポルノと売買春

  • Baumeister, R. F., & Vohs, K. D. (2004). Sexual Economics: Sex as Female Resource for Social Exchange in Heterosexual Interactions: Personality and Social Psychology Review, 8(4), 339–363.

セックスに対する態度の性差

セックスを商品とした男女の交易、っていう観点からすると、男女の間にはセックスに対する態度の差があるはずだ。まあこれもほとんど自明というか常識なわけですが、バウ先生たちはあれやこれや態度の差をあげていきます。セックスの値段が安いと男性が得、高くなると女性が得なので、それぞれそういう態度をとっているだろう、っていうのが理論からの予測になります。んでそういう証拠はたくさんある。

  • カジュアルセックス(すぐにセックスしてぱっと別れる、いわゆるワンチャン)は、圧倒的に男性の方が望むかたち。有名な実験はClark and Hatfield (1989)で、大学キャンパスで魅力的なルックスの男女が異性に対して「今日うちに来てセックスしませんか」って声かけるやつ。ものすごい有名ですね。ひっかかるのは男ばっかり。
  • 男性器は直接にその名前を呼ばれるが、女性器は婉曲的にしか表現されない。おもしろいのは、女性器は、産婦人科学の授業でもあんまり直接には呼ばれないとか。男のは安くてそこらにころがってるけど、女性のは名前を呼べないほど貴重です、とかそういうのだろうか……1

さて、売買春とポルノ。前にも書いたようにヴィクトリア朝時代は女性たちがセックスの値段を非常に高くつりあげた時代なのですが、Cott (1979)によれば、売春とポルノを競争相手として意識して、強い反対運動を行なったわけです。ポルノや売買春が簡単に手に入り、とりあえず男性の性的な欲求が満たされやすくなれば、女性のセックス全体の値段が下がってしまう。そうしたわけで、19世紀後半は非常に強い反売春・反ポルノ運動があったし、それは日本にも輸入されましたね(矯風会とか)。

現代でもポルノに反対したり、禁止したりするべきだという態度は女性の方がかなり強い(もちろん男性にも一定数いますが)。いまだにネットでもよく見る光景です。映画でのヌードとかに反対するのも女性の方が多い。一般に、性的な表現に反対するのは女性の方がかなり多いわけです。

こうしたポルノや売買春といった「性の商品化」(あるいは「性的モノ化」「セクシー化」)に反対する思想的背景というのはなかなか込みいっています。ある種のフェミニストは、女性をポルノ的に描くのは女性に対する侮辱だとか女性を貶めるものだ(degrading)だっていうふうに主張します。でもこれ、なぜヌードやポルノが女性を貶め格下げするのか、というのは私自身けっこう悩まされた問題で、いまだによくわからない。それ以上の説明がない場合が多いから。そこで、バウ先生たちの解釈はこうです。

あるエロティックなフィルムが男女を平等なかたちでセックスしているのを描いているとしよう。なぜそれが女性を格下げするもので、男性についてはそうでない、ということになるだろうか? しかし、仮にセックスが女性の資源だということならばヘテロセックスの描写は、本質的に、男性が女性から何かを得ているという事態の描写ということになる。もし男性が女性におかえしになにかを与えていなければ、そのフィルムが描写しているのは、女性の性的な贈り物がとても低い価値しかないということであり、それはフェミニストの不満が示唆するように、実質的に女性を貶めることになるのだ。(p.354)

わあ、これはおもしろい!ポルノとか(特に現代のものは)セックスしている現場ばっかり(”Gonzo”、ハメ撮り)で、その前後に男性が求愛したり奉仕したりお返ししたりするところが描かれてないので、タダでセックスさせてもらっている形になってるから女性に対する敬意を表現していない!女性だけがあらわれるピンナップとかもタダで見られるので格下げだ!一方、長い恋愛映画とかだとその一部にセックスこみでもかまわん、むしろいい、なんといっても愛とコミットメントがあるから!

ポルノに比較して売買春はもっと強く反対され非難される傾向があるわけです。バウ先生たちがあげてる調査では女性の2/3以上、男性は半分以下。売買春はOKだっていう男性は女性の3倍。何度もいうように、売買春が許容されていることは、ローカルな相場での他の女性のセックスの値段を下げる。

一部の女性の利益ということでは、売買春は合法化した方がその女性たちの利益になる。非合法であるがゆえの大きな危険を減らし、また安全や集客のために世話にならねばならないポン引きたちにむしりとられる分け前を減らすことができるから。んじゃなぜ(当事者ではない)女性たちの多くが売買春の合法化に反対する傾向があるのか。当事者女性の利益を考えるなら、フェミニストたちは合法化に賛成するべきだと思われるけど、なかなかそうはならない。なぜか。

その理由を説明するには、バウ先生たちのセックス経済論がよいだろう、というわけです。女性のセックスの値段が全体に下ってしまうのは女性全体の不利益になるので、価格を下げる可能性のある売買春には賛成しにくいからだろう、と。まあこれはまだまだ研究途上なので、他の解釈もよく考えみる必要はあるけど、セックス経済論は有望でしょ、ってなことでした。おもしろいですね。

【シリーズ】

脚注:

1

榎本俊二先生の下品マンガもわりと好きなんですが、あれも男子のそれは大量に出てくるけど女子のは描けないっぽいですよね。ははは。

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