セックス経済論 (6) 性暴力/男性不足

  • Baumeister, R. F., & Vohs, K. D. (2004). Sexual Economics: Sex as Female Resource for Social Exchange in Heterosexual Interactions: Personality and Social Psychology Review: An Official Journal of the Society for Personality and Social Psychology, Inc, 8(4), 339–363.

性暴力

セックス経済論だと、セックスは財である、って考えかたなので、レイプとか痴漢とかっていうのは強盗やスリに似た犯罪ってことになってしまい、これはおそらく被害者の被害感情とかにそぐわないので不快に思う人はいると思いますね。

しかしこれは加害者の方を考える上では役に立つかもしれない。暴力的性犯罪の加害者は男性が圧倒的なわけで、そうしたものは標準フェミニズムみたいなのでは「男性の支配欲」みたいなのによって説明するわけですが、それでは具合が悪いことは前に一連のエントリーに書きました。基本的にはなんのために「支配」するのかわからんし、そうした男性たちが特に若く魅力的な女性を支配の対象にしようとするのかが説明しにくい。

むしろ、セックス経済論の観点からすると、そうした加害者になりやすい男性は、セックス交易のルールを無視・軽視して、男女の性的な関係一般を各種の手段によって搾取的にしようとするするような傾向の人々だ、と考えることができるわけです。ここでたとえばいわゆる恋愛工学系ナンパ師たちと、痴漢やレイプ犯との類似性、そして男性学の人々が気にしている「男性性と支配(欲)」の関係が見えてくるところがある1。(また、被害者の方としても、「強制された性交は暴力的な形で行なわれようと柔らかな物腰で言い寄られる形をとろうと強姦は強姦だ」(キャスリン・バリー)、「女性の意に反するセックスはぜんぶレイプ」とかのフェミニスト的意識も一部説明するじゃないか思う。)

こうした男性の傾向はいろんな調査研究から見えてくるわけです。デートレイプなどの加害者は、自分は被害者女性と一定期間デートしていろいろ投資したのだからセックスする権利がある、のような発想をすることが知られています。特にナルシスト傾向の男性は、自分は他人からの奉仕を受けるに値すると考えるので、強制的なセックスをしやすい。デートレイプなどが生じやすいのは、男性の性的な期待(「今日はできるだろう」みたいなやつ)が挫折させられたときだということもよく知られています。でもこういうやばい男性の思考にも、「〜に値する」deserveというかたちで、「交換」という発想がはいってるわけですわ。

ストーカーとかもおそらくそうですよね。お金や時間つかえばつかうほどやばい。学生様には「気のない男子にはお金は使わせない方がよい」ってなことは時々お説教したくなります。

あとレイプ発生率と社会での女性の地位みたいな話もあるんですが、これは証拠がまだ弱い。

戦争などで男性不足になるとどうなるか

セックス経済論はセックスの需要と供給で社会を見るので、需要が減ると値段が下がるとか、供給が減ると値段が上がる、というのは強い根拠になります。

古いですが、Goodentag & Secord (1983) Too many women? っていう研究があるんですね。これは女性が少ない(マイノリティ)である場合には女性のセックスの価値が高くなるので、セックス規範(相場)は女性の選好(欲求・好み)に沿うものになり、女性が多くて男性が少ない場合(女性がマジョリティ)の場合は男性の選好に沿うものになる、というけっこう意外というか、ある立場にとってはパラドックス的な発見です。

西部劇の時代のアメリカ西部や、現代の中国では女性が少なくなってるので、女性は敬意をもって扱われ地位が高くなり、婚前・婚外セックスは減る。コミュニティで女性が比率的に多くなると、女性はセックスの見返りに多くを求められなくなり、性的にはゆるい社会的雰囲気になり、カジュアルセックスや婚前・婚外セックスなどが増える。アメリカだと低所得者層コミュニティとか女性の方が多いみたいです。

バウマイスター&ヴォースの2012年の論文では Regnerus & Uecker (2011) Premarital Sex in America っていう研究をとりあげていて、これによれば、2000年代のアメリカの大学キャンパスなんかも女性の方が数的にマジョリティになってしまい、性的にはかなりルーズになってたみたいですね。Hook-up Cultureとしてけっこういろんな研究者が注目しています。男女で大酒飲んでセックス、みたいな男子が好むセックスパターンが広がって、いやな目にあったり、性的な被害に会う女子も増える。大学キャンパスでのRape Culture批判みたいな話はそのあとに来るわけです。

あと、国別に比較すると、男性が相対的に希少な国の方が十代女性の妊娠が多いというデータがある。男性の数が少ないんだから妊娠の数も減りそうなはずなんですが、増えちゃうのはなんでかっていうと、男性の意見が通りやすくなって男性が望むようなセックスをさせてしまうからですね。

ここらへん、「社会の(数的)マジョリティが規範を決定してますよ」みたいな発想だと説明できないし、「数じゃなくて支配者層が規範を決定してます」みたいなのもあやしい。そうじゃなく、市場原理で決まってるのだ!それをセックス経済論なら説明できますよ、っていうのがミソです。ここは他にもいろいろおもしろい話があります。

男女比が性的規範に与える影響については、次が日本語で読めます。

先進国のフックアップ文化についてはあんまり日本語の本はない気がする。

【シリーズ】

脚注:

1

セックス同意の論文も読んでください。 http://hdl.handle.net/11173/2419

Visits: 40

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です