モノやサービスの値段というのはどうやって決まるかというと、高校でも習う需要と供給のバランスによる。漠然とした話ではありますが、供給が少なく需要が多い(強い)と値段は上がるし、その逆だと値段が下がる。
女性はセックスを提供することでなるべくよい資源を入手したいし、男性はなるべく少ない資源で獲得したい。ところが、この個人間の交易の値段は、他のプレイヤーがどう行動するかに大きく影響されるわけですね。ここがおもしろいところです。
セックスというのは基本的に近くにいる会える人としかできないので、その市場はごくローカルで、その値段というか相場はローカルに決まります。高校生のクラスとか、大学生サークルとか、ヤングアダルト社会人コンパとか、おじさんお姉さんの習い事とか、まあ人々というのはだいたい集団になって生活しているので、そのローカルな範囲で、他の人がどういう行動をとるかによってセックスの値段は変わる。ある時代のある集団(たとえば1930年代のアメリカ)では、女性の大部分が高価な婚約指輪もらってからじゃないとセックスさせないとすれば、そこの女性は婚約指輪もらえる公算が高い。でも2000年代のアメリカの大学みたいに、他の女性が簡単にセックスさせるようになると、ちゃんと結婚申し込んで婚約指輪くれないとセックスさせません、みたいなことを言ってると、ときどきデートしたり、パーティーでエスコートしてくれたり、ボディーガード役してくれる男性もいなくなってしまう。
そういうわけで、セックスの売り手である女性も競争せざるをえないわけです。でもあんまり女性のセックスの値段が安くなってしまうと利得がなくなってしまうから、女性は安売りする女性に集団的にプレッシャーをかけて安売りを牽制しなければならない。これが女性たちが簡単にセックスを提供する女性たちを非難する理由である、と。
バウマイスター&ヴォース先生によれば、男性は安いセックスをもとめるので、気軽にセックスさせてくれる女性は「いい子」であるわけですが、それでも他の男性と女性を共有するのはたいていの場合さまざまな理由から望まないので、特定の女性をめぐって競争せざるをえない。となると、人気のある女性はより高い値段で売ることができる。
ここで重要なポイントとして、けっきょくこうした値段をめぐる交渉というのは、一対一で決まるわけではなく、他の人々がどういうふうに行動しているかの知識に依存するわけです。そのコミュニティでどんな人がどんな人とどれくらいの「値段」で交際したりセックスしたりしているのか、というのは、男性にとっても女性にとっても重要な情報なので、まあ噂話とか雑誌とかツイッターとかで相場とかを調査するわけですね。情報戦みたいなことも起こるわけで、男性は女性にたいして「他の女性はかんたんにセックスさせている」という情報を流そうとするし、女性は男性に対して「そんな簡単でない、むしろもっと高い」という情報を与えようとする。これはグループとしても個人としてもそうっしょね。
まあここらへん、当然そうだよな、ってな感じですね。あまりにも常識的すぎて、これ「理論」なの?っていう感じではあります。
まああらましはこんなもん。先生たちは「証拠は山ほどある!」と主張しておられますが、フェミニスト心理学者(たとえば Laurie Rudman先生)なんかはかなり厳しく批判しておられます。
今回書くのに参照したのは、これのVohs先生による”Sexual Economics”の項。なんでも最初は専門事典見るのがいいですね。(実は悪質なサイトがオンラインで丸パクしてるのを発見してしまいました……通報したい)
【シリーズ】
- セックス経済論 (1)「男性による女性の支配」とは別の考え方はどうだろう
- セックス経済論 (2) ごく当然のあらまし
- セックス経済論 (3) しかし値段は簡単には決まらない
- セックス経済論 (4) 証拠とされるものを見てみよう、まず売買春
- セックス経済論 (5) 結婚と交際
- セックス経済論 (6) 性暴力/男性不足
- セックス経済論 (7) セックスに対する態度の性差、特にポルノと売買春
- セックス経済論 (8) セフレ/名誉か汚名か/女性間攻撃/結婚勾配
- セックス経済論 (9) 女性のセクシュアリティの抑制
- セックス経済論 (10) ちょっとだけコメント
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