男らしさへの旅 (4) 女性はもっとパワフルなはずだ

前のエントリうまく書けてないので、もう一回チャレンジ。

「支配」の原語は?

もう一回、「男性支配」に戻って、多賀先生のやつ再度引用。

われわれの社会では、実体的利益をより多く得られる立場や権威ある地位の大部分を男性が占めていたり、そうした利益や権威を得る機会が女性に比べて圧倒的に男性に多く開かれていたりする。このように、男性が女性に対して圧倒的に優位な立場にある社会状況を、ここでは「男性支配」という概念でとらえることにしたい。(多賀 2016, pp. 34-45)

やっぱりこの「支配」っていう訳語はあんまり適切じゃないじゃないですかね。対応する英語はdominanceで、ruleやgovernではない。

dominanceはなにかを比較する概念で、なにかと比較して優勢にあること、より力(権力)があること、目につくことですわね。制度的な支配とかそういうのではなく、単に数が多いとか、数が少なくともリソースの大部分をもってるとか、そういう感じになると思います。動詞のdominateとなると、これは「支配する」という語感に近いものになって、誰か他人をコントロールしたり強い影響力をもったりすることを指す。とくにまあ意に沿わない形で影響力を行使したりすることを指しますね。まさに支配だ。

「覇権的男性性」とかっていう表現に出てくる覇権的 hegemonicというのは、いろいろあるなかで一つが圧倒的に(なんらかの点で)優位・優勢であり、また強い影響力をもつという意味で支配的でもあることを指していると思う。

さて、大学教授とか、大企業の社長とか、議員とか、まだ男性の方がずっと多いので、たしかに男性優位だとは言える。しかしこの優位・支配というのは「女性をコントロールする」のような意味での「支配」ではない。もちろん数が多かったり高い地位にあれば他人をコントロールすることも容易になるでしょう。全体として、先進国の社会は、社会全体でも企業その他の団体でも、たいてい男性優位でしょうね。(美容業界や看護師や助産婦さんの世界なんかは違うかもしれない)

では家庭はどうか。小手川先生や平山先生が見ているように、男性支配、男性が優位であり、女性に強い影響を与えているだろうか、っていうのが最大の疑問なわけです。

女性は実はもっとパワフルなはずだ

このシリーズで名前をあげている日本の社会学・哲学の先生たちは、男性が稼ぎを資本にして女性をコントロールしている、と考えている。しかし、私のアイドルのパーリア先生や、キャサリン・ハキム先生なんかは、少なくとも家庭のようなプライベートな場所では第二波フェミニストたちが思っているより女性はずっとパワフルだと主張しています。

ハキム先生をちょっと引用しますね。

社会学的な調査は今のところパートナー間のエコノミックキャピタルの比較に焦点を当て、二人の平等性と力関係を評価している。欧州の国では(スカンディナビア諸国でさえ)、女性は普通、第二の稼ぎ手にすぎず、平均して家計所得への貢献は3分の1程度だ。夫は妻の約2倍の収入を得ていることになり、ときには収入の全部を賄う場合もある。フェミニストなどはこうした数字が男性支配(male dominance)と「性差別」(gender inequality)を示すものだと言いがちだが、その裏付け証拠はほとんどない。(p. 167)

この「証拠はほとんどない」には注がついていて、1984年の米国デトロイト州での社会調査が参照されています。それによれば、夫婦の相対的な収入も、妻の職の有無も、家庭内での力の配分には相関していないし、また結婚がうまくいくかどうかにも相関していない。さらには、身体的な魅力だけでも、家庭内での力関係にはリンクしていない、とされています。この資料(Whyte 1990, 1990, pp.153-4, 161, 169)はネットで手に入るみたいなので、私は見ませんが力のある人は確認してみてください。

先に社会保障・人口問題研究所の家庭内の意思決定の調査を見ましたが、あれのもっと詳しい版ですかね。とにかく、経済力によって男性が女性をコントール(支配)しているとか、影響力の点において優勢にあるとかっていうのは、裏づけがないかもしれません。

んじゃ男女の力関係はなにで決まってるのか?ハキム先生の推測はこうです。

男女関係に関する調査や結婚カウンセラーの本によると、一般に妻が駆け引きの材料に使うのは主にセックスで、お金ではない。妻たちは夫の協力を得ようと、セックスをちらつかせたり拒否したりする。夫は大抵妻よりセックスを望み、性風俗サービスの利用は恥ずべきこととされているので、この戦略は効果的だ。(pp. 167-168)

ははは。そうなんですか?他にも、フェミニストなんかが反対することが多い海外からのメイルオーダー花嫁なんかも家庭内ではかなりパワフルなようです。どうなんでしょうね。

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