おまけの妊娠中絶本ブックガイド

順不同で。常に書きかけです。

  • パウロ六世 (1969)『フマーネ・ヴィテ(人間の生命):適切な産児の調整について』、神林宏和訳、中央出版社。ヴァチカンの公式見解です。入手難しいかもしれないからPDFでばらまきたいような気もするけど、だめだろうなあ。ネットに http://japan-lifeissues.net/writers/doc/hv/hv_01humanaevitae-ja1.html があるのですが、このページを運用している団体「聖母献身宣教会」がどういう団体であるか私はわかっていません。
  • 田中美津『いのちの女たち:とり乱しのウーマン・リブ論』(パンドラ、2010)。70年代の国内のウーマンリブ運動に強烈なインパクトを与えた1冊です。必読。
  • キャロル・ギリガン (1986) 『もう一つの声』(川島書店)。女性にとっての中絶という体験を分析した非常に重要な本です。しかし翻訳がちょっと……
  • 加藤尚武・飯田亘之編『バイオエシックスの基礎』(東海大学出版会、1988)。国内の生命倫理学の出発点となった一冊。トムソンとトゥーリーの論文に加え、エンゲルハートの「医学における人格の概念」、プチェッティの「〈ひと〉のいのち」、ファインバーグの「人格性の概念」、ワーノックの「体外受精をめぐる倫理的問題」などの有名論文が収録されています。
  • 森岡正博『生命学への招待』(勁草書房、1988)、 『生命学に何ができるか』(勁草書房、2001)。どちらも「パーソン論」についての国内の理解に非常に強い影響力をもちました。必読ですが、非常にオリジナルな著者ですので注意が必要。
  • 佐藤和夫・伊坂青司・竹内章郎(1988)『生命の倫理を問う』(大月書店)。あまり読まれてないかもしれませんが、妊娠中絶や優生思想について独自の立場から議論されています。
  • 島田〓(アキ、火偏に華)子(1988)『生命の倫理を考える:バイオエシックスの思想』(北樹出版)。カトリックの立場から生命や人格について論じています。1995年に増補改訂版。
  • 加茂直樹・塚崎智編『生命倫理学の現在』(世界思想社、1989)。まだ売れているらしい驚異の1冊。大きなインパクトがありました。だいたい国内の生命倫理学の論調の基本を作った感じ。収録されている平石敏隆「人工妊娠中絶」、水谷雅彦「生命の価値」などが国内の標準的な理解を形成しました。
  • マイケル・J・ゴーマン『初代教会と中絶』(すぐ書房、1990)。キリスト教初期における中絶のあつかいを研究しています。
  • マイケル・ロックウッド編『現代医療の道徳的ジレンマ』(晃洋書房、1990)。これに掲載されているロックウッドの「生命はいつ始まるか」も国内の初期の生命倫理学に大きな影響を及ぼしました……はずなのですがそうでもないかも。
  • ピーター・シンガー(1991)『実践の倫理』。第1版。これが誤解されてシンガーが典型的な「パーソン論者」にされてしまいました。重要ですが、パーソン論としてはあんまり典型ではありません。1999年に第2版。読むなら第2版を。
  • 加茂直樹(1991)『生命倫理と現代社会』(世界思想社)。「生命の価値についてのノート:シンガーの議論をめぐって」などが収録されています。
  • 荻野美穂、『生殖の政治学』(山川出版社、1994)および『中絶論争とアメリカ社会』(岩波書店、2001)。米国においてフェミニストたちがどのようにして中絶の権利を獲得したのかを詳述。どちらも良書、必読。『中絶とアメリカ社会』ではロー対ウェイドについても触れられています。
  • 浅井美智子・柘植あづみ編(1995)『つくられる生殖神話』(制作同人社)。土屋貴志「産まれてこなかった方がよかったいのち」とは:障害新生児の治療停止を支える価値観」が収録されています。
  • ロジャー・ローゼンブラット『中絶:生命をどう考えるか』,(晶文社、1996)。それほど深くない。あんまり記憶にありません。荻野先生ので充分だろう。……いや、読み直すとけっこう重要なことも言ってます。歴史的な考察とかはすぐれてる。
  • 江原由美子編『生殖技術とジェンダー』。1990年代に中絶反対派の井上達夫氏と女性の権利の擁護派の加藤秀一氏の間で行なわれた論戦が収録されている。
  • 立岩真也『私的所有論』(勁草書房, 1997)。トムソンの議論が紹介されているが、新訳と比較してほしい。
  • ロナルド・ドゥオーキン『ライフズ・ドミニオン:中絶と尊厳死そして個人の自由』(信山社, 1998)。難解ですが重要。しかし胎児は憲法上「人」じゃないってところから出発してしまっている。
  • ピーター・シンガー『実践の倫理』(昭和堂、1999)。必読。1章を妊娠中絶の問題にあてています。ただしシンガー自身は中絶の問題そのものにはそれほどオリジナルな貢献はしていません。(動物の問題との連続性を指摘した点では高く評価されます)またいわゆる「パーソン論」を直接に採用しているわけではありません。
  • 中谷瑾子『21世紀につなぐ生命と法と倫理:生命の始期をめぐる諸問題』(有斐閣、1999)。
  • 高橋隆雄編(1999) 『遺伝子時代の倫理』(九州大学出版会)。八幡英幸「「生命倫理」の課題としての「人の誕生」」が収録されています。
  • 加藤尚武(1999)『脳死・クローン・遺伝子治療』(PHP出版)。一部で妊娠中絶を扱っていますが、いろいろミスリーディングなので注意。「……人工妊娠中絶を正当化しようとしても、アメリカの人工妊娠中絶反対論は非常に橋梁で、相次いで反論が発表された。その代表的な議論に「トゥーリィの理論が正しいとしても、胎児は潜在的には人格なのだから、その生存を否定すれば、未来の人格を否定することになる」というものがある。それに応じたのがファインバーグの潜在性否定論であった。」(p.177)など、歴史的にはっきりまちがっています。
  • 村松聡『ヒトはいつ人になるのか:生命倫理から人格へ』(日本評論社、2001)。パーソン論を検討しています。本書のトゥーリーやウォレンの議論と比較してみてください。
  • 長島隆・盛永審一郎編(2001)『生殖医学と生命倫理』(太陽出版)。高畑明尚「生殖医療と女性の権利:人工妊娠中絶を転回点として」、盛永審一郎「着床前診断に対する倫理的視座」、秋葉悦子「「ヒト胚」の法的地位と尊厳」、尾崎恭一「胚研究における人間概念」ほかこの時期の重要な論文が収録されています。このシリーズ(生命倫理コロッキウム)は良質です。
  • 岡本裕一朗『意義あり!生命・環境倫理学』(ナカニシヤ出版、2002)。トゥーリーの議論が紹介されている。トゥーリーのもとの論文と注意深く読み比べてほしい。
  • 斉藤有紀子編『母体保護法とわたしたち』(明石書店、2002)。フェミニストが中絶の問題について微妙な立場におかれていることがわかりやすい。
  • 江原由美子『自己決定権とジェンダー』(岩波書店, 2002)。日本のフェミニストの代表的な立場であると思われる。
  • 高橋隆雄編(2002)『ヒトの生命と人間の尊厳』(九州大学出版会)。このシリーズ(熊本大学生命倫理論集)は一般に良質です。八幡英幸「「人の生命の萌芽」は「尊厳」を持つか」などが収録されています。
  • 徳永哲也『はじめて学ぶ生命・環境倫理』(ナカニシヤ出版,2003)。1章を妊娠中絶の問題にあてています。穏健で標準的。
  • 山根純佳『産む産まないは女の権利か』(勁草書房, 2004)。トムソンの議論を紹介しているが、新訳と比較してほしい。トムソンの重要な論点が抜けていると思われる。
  • 小林亜津子(2004)『看護のための生命倫理』(ナカニシヤ出版)。やや保守よりの良書。減胎手術や選択的妊娠中絶が論じられています。2010年に第二版。
  • 葛生栄二郎・河見誠『いのちの法と倫理』(法律文化社、2004)。法学の観点から中絶についてけっこうな量を割いて論じています。あれ、私がもっているのは版が古いようです。
  • 宮坂道夫『医療倫理学の方法』(医学書院、2005)。目新しい「ナラティブアプローチ」で非常におもしろいですが、やはり「人格を持つ」という用語法を使ってしまっています。
  • ウィリアム・R・ラフルーア『水子〈中絶〉をめぐる日本文化の底流』(青木書店, 2006)。比較宗教学・宗教民俗学アプローチ。中絶の罪悪感などについて興味深い知見あり。
  • ドゥルシラ・コーネル『イマジナリーな領域:中絶,ポルノグラフィ,セクシュアル・ハラスメント』(お茶の水書房, 2006)。難解。他の本先に読んだ方がいいでしょう。
  • 緒方房子『アメリカの中絶問題:出口なき論争』(明石書房, 2006)。荻野先生とだいたい同じ内容を扱っている。
  • 加藤秀一『“個”からはじめる生命論』(NHKブックス、2007)。森岡正博先生と同じく、オリジナルな人です。非常におもしろいですが、注意しながら読んでください。
  • ディアナ・ノーグレン『中絶と避妊の政治学』(青木書店, 2008)。日本の人口政策についての研究。良書。
  • 村上喜良『基礎から学ぶ生命倫理学』(勁草書房、2008)。中絶に1章使っています。基本的に良書なのですが、「人格を持つ」のような表現を使ってしまっていますので注意。
  • アルバート・ジョンセン、『生命倫理学の誕生』(勁草書房、2009)。生命倫理学がどのようにして成立したのかを詳細に論じた一冊。研究者必読。
  • 岩田重則『いのちをめぐる近代史:堕胎から人工妊娠中絶へ』(吉川弘文堂,2009)。歴史学・歴史社会学的なアプローチ。第二次大戦ぐらいまで。
  • 秋葉悦子『人の始まりをめぐる真理の考察』(毎日新聞社、2010)。カトリックの代表的な立場をわかりやすく紹介しています。
  • 小林亜津子『看護のための生命倫理』(改訂版)(ナカニシヤ出版、2010)。標準的だけどちょっと保守的な感じ。初版は2004年。
  • 日比野由利・柳原良江編『テクノロジーとヘルスケア:女性身体へのポリティクス』(生活書院、2011)。水島希「1970年代における人工妊娠中絶の実態と批判:女性活動家たちによる問題の定位とその含意」、杵淵恵美子「妊娠中絶を希望する女性の心理とケアの状況」他、フェミニストの観点からさまざまな考察が行なわれています。
  • 野崎泰伸(2011)『生を肯定する倫理へ:障害学の視点から』(現代書舘)。障害学の立場からピーター・シンガーらの立場を批判しています。
  • 小林亜津子(2011)『はじめて学ぶ生命倫理:「いのち」は誰が決めるのか』(ちくまプリマー新書)。生命倫理の基本的な問題をやさしく紹介しています。
  • 岩田健太郎(2011)『ためらいのリアル医療倫理』(技術評論社)。中絶の問題は主観的なものにすぎないと主張しており、おすすめできません。しかし現場の医師の感覚としてはこういうものかもしれません。
  • 辻村みよ子『代理母問題を考える』。米国の中絶についての憲法裁判について淡々と書いている。
  • 柘植あづみ(2012)『生殖技術』。女性の身体の自己決定権で押そうとしているようですが、うまくいってるのかどうか。
  • 小林直三(2013) 『中絶権の憲法哲学的研究:アメリカ憲法判例を踏まえて』(法律文化社)。ドゥルシラ・コーネルの議論を援用した中絶容認派。パーソン論の扱いとかは私は納得できません。
  • 塚原久美(2014)『中絶技術とリプロダクティブ・ライツ:フェミニスト倫理の視点から』 (勁草書房)。トムソンの翻訳を担当した塚原さんの力作です。日本の中絶技術の問題や中絶をとりまく議論の問題点が浮き彫りにされています。

続きます。

重要な洋書

  • Mary Anne Warren, Moral Status: Obligations to Persons and other Living Things, Oxford University Press, 1997. 基本書です。
  • Louis Pojman and Francis J. Beckwith (eds.), The Abortion Controversy: 25 Years After Roe V. Wade : A Reader, Wadsworth Publishing, 1998。バランスのよい良書。研究者必読。
  • Susan Dwyer and Joel Feinberg (eds.), The Problem of Abortion, Wadworth Publishing, 1996. 哲学的な中絶議論を紹介するアンソロジー。ちょっと古いかもしれないが、主要なものをおさえられる。
  • David Boonin, A Defense of Abortion, Cambridge University Press, 2003。トムソンのサマリア人の議論はまだイケる、とがんばっています。他の各種のプロチョイス・プロライフの立場も詳細に吟味。おすすめ。
  • Jeff McMahan, The Ethics of Killing: Problems at the Margins of Life, Oxford University Press, 2002. マーキスの議論を反駁しようとすると、中絶の議論がこんな複雑な哲学的議論になってしまうという……重要だが哲学関係者専用。
  • Michael Tooley, Celia Wolf-Devine, Philip E. Devine, & Alison Jagger, Abortion: Three Perspectives, Oxford University Press, 2009. プロライフ、プロチョイス、そしてフェミニズムが真っ向対決。

続く

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