まあというわけで、酒を飲んで酔っ払ったからといって、行動の責任がなくなるわけではないような感じです。(場合によっては)同意したことや酔っ払ったことは非難に値するという意味で「責任がある」ということになりそうです。
しかし、んじゃ酔っ払ってした同意はぜんぶ有効validなのか、というとそうでもないかもしれない。同意の責任はあるけど同意は有効じゃないよ、だからそういう同意をした人とセックスした人を非難したり罰したりすることは可能かもしれない。
ここはわかりにくいかもしれませんね。くりかえしになりますが、まずまあ基本的に同意してない人とセックスするのは非難されるべきことなわけです。それはたとえば相手の身体の統合性bodily integrityとかを毀損する行為かもしれない。デフォルトではダメだってことです。そういうデフォルトではダメな行為が、本人の同意があることによって非難の必要がない行為になる。医者が患者にメスを入れたりするのもそういうもんですわね。セックスも手術も、ひょっとすると非道徳的にも道徳的にもすばらしい行為になるかもしれない。同意にはこんなふうにある行為の道徳性を変更する効力がある。これがHeidi Hurd先生なんかはこういうのを「同意の道徳的魔法」moral magic of consentとかって呼んでます。
で、強迫されてした同意とかはそういう同意の魔力をもってない無効な同意です。酔っ払ってした同意もそういう類のものかもしれない。つまり、行為の責任と、同意の効力は別のことなわけです。同意に「責任」があるからといってその同意が有効だということには直接にはならない。まあふつうに考えれば同意に責任があるなら同意は有効だろうと言いたくなりますが、ここで考えてみるのが哲学ですわね。
別の言い方をすると、無効かもしれない同意した責任というのは当人にあるわけで、それを非難されたり(おそらく可能性はほとんどないですが)法的に罰されたりすることはあるかもしれない。しかし、その同意をもとにして、その相手とセックスすることはまた道徳的に非難したり罰したりすることが可能かもしれないわけです。こっちの「酔っ払いとセックスしたら罰する」ってのは十分ありえる考え方です。
スーザンエストリッチ先生というレイプまわりで非常に有名なフェミニスト法学者は、車に鍵をかけわすれたからといって、車を盗む許可を与えたわけではない、って言ってます。鍵をかけわすれたことは非難できるかもしれませんが、だからといって、車盗んだ人が悪くないってことにはならんですよね。車盗むのはほとんど常に悪い。酔っ払ってしたことに責任があるからといって、酔っ払った人とセックスすることが悪くないってことにはならんのんです。
車泥棒の例を続ければ、AさんがBさんに車を貸して、Bさんが鍵をかけわすれてCが車泥棒したとき、AさんがBさんに「なんで鍵かけなかったんだ!」って非難するのは理にかなっているけど、だからといって車盗まれた責任がぜんぶBさんにあるわけではないし、Cの車泥棒が非難できなくなるわけでもない、ということです。
んじゃ、酔っ払っての同意は有効なのか、酔っ払った相手とセックスするのは問題ないのかどうか。ワートハイマー先生なんかに言わせると、これはけっきょくわれわれの社会でおこなわれているさまざまな「同意」のコンテクストによるのだ、ってことになります。
たとえば酔っ払ってした商業契約とかどうなるか、みたいなのはおもしろい例ですわね。日本の民法ではどうなってるしょうか。
米国の法律だと、古くは酔っ払った人がおこなった契約は、「ひどく薬物の影響を受けて取引の性質や帰結を理解できなかった場合」には無効にすることができたみたいすが、現在はもっと緩くて「契約の相手方が、酔った人物が取引について合理的な仕方で行為することができないと知る理由があった」ときのみ無効にすることができる、みたいな感じらしいです。これは相手がぐでんぐでんになってるな、ってことがわからないとだめだってことですわね。セックスでいえば、相手がもうなにがなにやらわからん状態だろう、ぐらいに思える程度に酔っ払ってないとならんということになりそうで、自発的に服脱いだり脱がせたりいろんなあれやこれやとかしてたら「そういうひとなんだろうなあ」とか思ってしまいそうですね。よくわかりませんけど。
でもこういう商取引をセックスまわりに適用してだいじょうぶなのかな、とかって不安は残りますね。セックスは商取引とは違うのではないか。セックスはセックスとしての同意のありかたがあるんではないのかな、という話になります。
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