気づいたことを簡単にコメント。
大人になってまで胸を焦がして
時めいたり傷付いたり慌ててばっかり
ここ、ジャズの曲でいう「バース」(verse)になってて、うしろの歌詞の流れとは一応独立で、それ以降の歌の内容を前置き・要約しているんですね。ふつうはうしろの歌本体の「リフレイン」あるいは「コーラス」と呼ばれる部分とは別のメロディー・コード進行使うんだけど、この曲ではそれではくどいのでおなじものを使ってるんだと思う。
バースがいいのは、これが一番有名かな。楽器だけでやるときもバースのメロディーを前奏っぽくやるのがふつう。
この世にあって欲しい物を作るよ
小さくて慎ましくて無くなる瞬間
こっから本論。この主人公は無くなる瞬間を作るお仕事です。もちろん音楽。ドルフィー先生のこの一言が有名ですね。
“When you hear music, after it’s over, it’s gone in the air. You can never capture it again.” 「音楽は終ったら宙に消えてなくなってしまう。二度ととりもどせない」ものすごく有名。ちなみに、このYou don’t know what love isは聞いておきなさい。
こんな時代じゃあ手間暇掛けようが
掛けなかろうが終いには一緒くた
きっと違いの分かる人は居ます
そう信じて丁寧に拵えて居ましょう
音楽とか簡単につくれる時代になって、上質なものも粗悪なものも流通していて、聞く方も大量に聞いてるもんだから違いがわからなくなってるけど、音楽好きはいるからがんばりましょう。どっかの映画監督みたいなのはだめですよ、と。
あの人に愛して貰えない今日を
正面切って進もうにも難しいがしかし
さっきは説明しませんでしたが、ここのキーはEbメジャー(変ホ長調)、ふつうにI-IV-II-Vl-Iという進行なんですが、ちょっとだけ工夫されていて、IIのところが部分的にIIm7-5っていうマイナーキー(変ホ単調)の進行が入ってるんですね。モーダルインターチェンジって技。まあふつうだけど、IIm7-5-Vと聞くとマイナーコードに決着するのな、って予想されるけどEbメジャーに落ちつくところがちょっとした工夫。あとまあ最初のところとかピアノいろいろやっててコピーしようと思うと面倒ですね。たとえばふつうはEbで4小節同じように鳴らすだけでOKのところを、Eb△7 → Eb+5 (aug) → Eb6 → Eb7 → Abって細かく装飾してます。こういう細かい工夫があちこちにあってなんかコテコテ。
実感したいです
喉元過ぎればほら酸いも甘いもどっちもおいしいと
これが人生 私の人生 鱈腹味わいたい
誰かを愛したい 私の自由
この人生は夢だらけ
このサビのところは前でちょっと予告されていた単調Ebマイナーに部分的に転調しているというか、実はこの部分はジャズでよくやられる「枯葉」(枯葉よ〜枯葉よ〜)の前半部と同じ進行なんですよね。
まあジャズミュージシャンが好きなスムーズな進行で、キーがEbmなら(フラット多すぎ!)
Abm7 – Db7 – Gb – Cb – Fm7-5 – B7(b9) – Ebm (- Eb7) みたいな進行。女芸人の人生歌うのにサビが「枯葉」っていうのはなんか諧謔も入ってるんですかね。
ベースとかもジャズらしくウォーキングしていてかっこいい。そして「人生は夢だらけ!」で一発爆発!ゴージャズなモダンジャズビッグバンドサウンド。これかっこよくて、はじめて聞いたときシビれました。編曲は村田陽一先生。ベイシーというよりはサド・メルとかその後継以降のモダンなサウンドよねえ。後半でキーがEbマイナーからAbマイナー(というかG#マイナー)に転調してます。なんでこんな複雑なキーつかうんだ!ヘタクソには弾けないではないか!(おそらくわざとやってる)
この世にあって欲しい物があるよ
大きくて勇ましくて動かない永遠
こんな時代じゃあそりゃあ新しかろう
良かろうだろうが古い物は尊い
ずっと自然に年を取りたいです
そう貴方のように居たいです富士山
歌詞は「大きい」「勇ましい」「古いのが尊い」とかでなんか伝統主義者か右翼みたいなの連想して、最後の「富士山」でずっこけるのがいいですよね。私何回聞いてもずっこけます。そう、政治がどうのこうのなんてこまかいこと考えないで、富士山みたいにゆったりしたいですわ。
3拍子ではあるけどそれと2拍子が複合されてる「ジャズワルツ」っていうリズムに変更されている。このテンポのやつ、紹介するべき適当なのがすぐにはおもいうかばないけど、とりあえずコルトレーンとかがやったやつですね。(あんまりよい例じゃないのであとでいれかえます。)
これ、マーヴィンゲイ先生のWhat’s goin’ onを3拍子にしてるんだけど、この3拍子と2拍子が複合した感じがジャズでかっこいい。
二度と会えない人の幸せなんて
遠くから願おうにも洒落臭いがしかし
痛感したいです
近寄れば悲しく離れれば楽しく見えてくるでしょう
それは人生 私の人生 誰の物でもない
奪われるものか 私は自由
この人生は夢だらけ
最後のところはE△7 on Bb→Ebm7 on Bb → F/Eb とかかっこいいモダンな響き。
他にも歌唱法、アクセントのつけかた、吐息の入れ方とか、スキャット、伴奏に音えらびや対旋律まで、細部まで工夫された名曲です。ものすごく手間暇かけられたものは何回聞いても新鮮な驚きがある。みんなも気にいった曲は何回も聞いてください。
Views: 911
コメント