ポルノとか痴漢とか常にSNSで話題になっているわけですが、ときどき「男の性欲はそんなに強いのか、それはどういうものか」「女も男と同じくらい性欲を感じている」「だから性犯罪するのは性欲ではなく支配欲なのだ」とかいろんなことがいわれたりします。
たしかに「性欲が強い」とかっていうのは、いったい何を言ってるんですかね。ふつうに考えて、性欲とかってのは内的に感じるものだろうから、他人がどれくらい強い性欲を感じているかっていうのはよくわからない。いま道歩いている中学生とか老人とかがものすごく強い性欲を抱えて悩んでいる、とか考えるとなんかおかしいですね。
ちょっと探してみると、Baumeister, Catanese and Vohs (2001) “Is There a Gender Difference in Strength of Sex Drive?”って論文がけっこう有名らしい。
これ、”Sex Drive”、「性衝動」に男女差があるかってわけで、上のようにわれわれが「性欲が強い」って言ってるときの性欲と完全に一致するかどうかはよくわからんけど、まあこまけーことはいいんだよ。
バウマイスター先生たちによれば、われわれが「性衝動」(あるいは「性欲が強い」っていうとき)について語るときは、最低三つぐらいの意味がある。まず、(1) 性的動機ね。セックスするとへの動機を頻繁に強く持つひとは性衝動が強いと言える。まあこれふつうの意味ですね。
ただ他に、(2) 性的キャパシティ sexual capacity、どれくらいセックスできるか、どれくらいで飽きたり疲れたりしてできなくなる、っていうのもあるぞ、と。おもしろいですね。飽くことなき性欲、1日に5回も10回もなんかするようなひとも性欲強いって言われそう。いわゆる性豪。絶倫。
さらに、(3) 性的享楽 sexual enjoyment、つまり、どれくらいセックスを楽しいと思うか。特に他の活動とくらべてセックスからどれくらい楽しみを得るか。性欲が強い、セックスが好きで好きで、とかってときに、1ヶ月に1回でいいけどそのときはものすごく楽しめる、みたいなひともいて、こういうひとも「自分は性欲が強いなあ」っておもうかもしれませんね。
バウマイスター先生挙げてるのはこの三つだけど、んじゃ「性的刺激に敏感である、反応しやすい」とかってもあるかもしれんな、とか思いますが、まあバウマイスター先生たちがやりたいのは、とりあえず上の(1)の性的動因・動機としての性的衝動、その人の行動につながる動機の男女差についての研究を見てみましょう、ってことです。
まあこういうのは自己評価で「あなたはどれくらい性欲が強いですか、1〜7で答えてください」ってのであんまり信頼できないことになりそうなので、いろんな尺度で検討してみないとならん。
先生たちが見た研究だと
- 性的なことをどれくらいの頻度で考えるか、性的な空想どれくらいするか、それに自発的に性的に興奮することがどれくらいあるか
- 自分の生活でどれくらいの頻度でセックスしたいと思うか。
- セックスパートナーを(同時に、あるいは一定期間で、あるいは生涯で)何人ほしいか、つまり何人とセックスしたいか。
- どれくらい頻繁にマスターベーションするか。
- セックスしない生活をどれくらいいやがるか。たとえばある種の宗教者とかセックスしちゃだめだったりできなかったりしますわね。結婚してないとかパートナーがいないとかもセックスできないことが多い。そういう生活をどれだけ避けようとしますか。
- 生涯のいつ頃から性欲を意識したりマスターベーションやセックスを始めるか。
- セックスの機会を求めるか回避するか、誘いかけるか断るか。
- 各種のセックスのバラエティをどれくらい好むか。性欲が強い人はいろんなパターンを試してみるかもしれない。パートナーが脱衣するのを見る、オーラルセックスをする/受ける、アナル刺激、道具を使う、その他まあいろいろあります。
- セックスするためにどれだけのリソースを費やすか。デート相手におごったり、エロ本を買ったりいくら使いますか、ってことね。もちろん時間や体力その他のリソースも使う。
- セックスやその表現に対して好意的ですか否定的ですか。性欲強い人は猥談とかエロ本とかカジュアルセックスとか不倫とかそういうのに対して好意的なんじゃないか。
- 性欲が低い状態あるいはセックスできない状態がどれくらいあるか。性機能障害とか問題なわけですが、そういう状態になりやすいひとは性欲それほど強くないかもしれない。
- 他にも自己評価とか。
まあいろんな尺度で男女を比較してみて、こりゃあきらかに男性の方がセックスまわりのことを考える回数も時間も長いし、たくさんセックスしたいし、セックスパートナーもいっぱいもちたいし、いっぱいマスターベーションするし、セックスできない生活を避けようとするし、色気づくのも早いし、セックスをもとめて誘いかけるし、いろんなバラエティをためそうとするし、各種リソースを浪費するし、セックスやそのまわりの表現や各種慣行に好意的だし、性的に不活発な期間が短いし、自己評価でもやっぱり性欲強いって答えます、ということです。男ってフケツ!
ちなみに、私のお気に入りのキャサリン・ハキム先生も男性の性行動を社会学的データから研究して、男の方が性欲たくさんもっててセックス不足に悩んでる、って結論してます。2011年なのでバウマイスター先生たちより10年あと。
http://www.catherinehakim.org/wp-content/uploads/2011/06/2015-IntSoc-MaleSexualDeficit.pdf
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