吉岡剛彦「「法は家庭に入らず」を考える:DV防止法に基づいて」
法学者らしいしっかりした文章で、私が特にコメントすべきことはないです。勉強になりました。「法は家庭に入らず」てことになってたけど、実はDVはやばいので、法的な制度もつかってちゃんと対策しましょう、ってことだと思う。うしろの方の辻村みよ子先生が警察などの介入に対して「根本的批判」しているっていうのはどうなんだろう。警察その他にもちゃんとジェンダー問題に対する意識を教育しないとやばいことになりますよ、ぐらいではないんかな。「立憲主義的リテラシー」っていうのはうまいアナロジーなのかどうかよくわからない。
梅澤彩「生殖補助医療と親子:親子法の再検討」
生殖補助医療を使った新しい形の親子関係を法的にどうするか、って話。これも法学者らしい淡々とした文章で、コメントしなきゃならない箇所は少ない。でも嫡出推定制度・父子関係の否定のところは実はもっとつっこむべきだと思う。現代の進化心理学者たちが推定するところでは、女性の婚外セックスと妊娠はこれまで思われていたよりかなり多く、全人口の10%ぐらいがおそらく、現に父親とされている男性の遺伝的な子どもではないらしい。DNA検査が安価になって実子かどうかかなり確実にわかるようになっているけど、それによって父子関係を否定するのはかなり難しい(っていうかたしか無理)、っていうのはいまホットな話題のはずなので、こういうタイプの本では詳しくやってほしかった気がする。
久保田裕之「共同生活体としての家族」
「家族」ってのを考えるのはいろいろ難しいので血縁とかセックスとか生殖とか抜きのシェアハウスとかの「共同生活」ってのだけとりだしてみると、そっから家族ってものを考えるヒントが得られるんちゃうか、っていうやつ。方針としておもしろいですね。共同生活では、どういうふうにして互酬関係が成立しますか。まあこれ、昔の共産コミューンとかに関係していておもしろい。でももっと身近なシェアハウスをみてみよう、ってことだと思う。まず問題になるのが冷蔵庫で、みたいなのはやっぱり具体的でおもしろいですよね。知見や結論がどうなっているかこういうの社会学系の論文読みなれてないからよくわからないけど、多様な利益を共有した方が結びつきは強くなる、でもやっぱりセックスや血縁をともなわない共同生活はむずかしい、みたいな感じなんかな。「子は鎹」みたいな結論になるのかしら。
奥田太郎「家族であるために何が必要なのか:哲学的観点から考える」
「家族とは何か」という問いに答えるため、「家族」の必要十分条件をさぐる、みたいな感じなんでしょうか。奥田先生は常々こうした「定義」や「カテゴリー」の話が好きなんだけど、私はその感じがいつもちょっとわかりにくい。
議論は明確でわかりやすい。家族って何だか実はそんな簡単にはわからない、っていう一連の話をしてから、山極寿一先生の類人猿・人類学の知見をつかって、家族には自然的基盤がある、その基盤は父子関係の不確定性に対応するものだ、みたいな感じ。まあ人類学や進化学系統の基本的な立場ですわね。でもこれは「家族」の定義とかカテゴリーとはあんまり関係ないような気がする。家族の成立条件は、血縁と契約と社会的承認だ、ってことになる。これが揃うととりあえず家族になるのか(十分条件)、これがそろわないと家族じゃないのか(必要条件)かっていうのはよくわからない。おそらく十分条件でしかないと思う。
さらに家族の社会的機能についてセックスとか生殖とか経済とか教育とかあげられるけど、そういう機能は現代社会ではだんだん「家族」以外のものに外注されるようになって、残るのは「子どもの社会化」と「成人のパーソナリティーの安定」ですよってことになる。「パーソナリティの安定」の方が説明が必要な気がするけど、まあだいたいわかる。いろいろやってきたけど、これからは家族のありかたはさらにもっと選択するものになりますよ、ていう感じ。
ちょっと大きな「社会哲学」って感じでいろんなことが入っていて、奥田先生が裏にどういう問題意識をもっているのかっていうのははっきりしない。なにかもっと具体的な問題を考えているようには思うんだけど。私自身は「家族とは何か」みたいな問いを立てることがないので感じがわかにくい。っていうか、「家族とは何か」を考えたくなるときっていうのはどういうときなんだろうか、と思うです。
まあたとえば保守派の政府が、「家族を重視することを憲法に書くぞ!」って時、それは正当なのか、なぜ「家族」を重視する憲法や政策が必要なのか、そのときどういう「家族」を重視するとか保護するとかっていうのがよいのか、みたいな問題が生じるわけですわね。そういうの考えてるのかなあ。
あとこういう話だと、必ず「これからは新しい家族の形が」って話になるけど、私自身はそういうのはかなり懐疑的で、たしかに離婚と再婚、同性カップルなどはもっと一般的になるだろうけど、一夫一婦(大人2人)を中心にした核家族、みたいなのはやっぱりずっと主流でありつづけるだろうと思ってます。
というわけでおしまい。おもしろいコラムもけっこう収録されていて、ここでは触れられないけど勉強になりました。『愛』の巻は哲学史している感じ。『性』の巻は全体に教育的で実践的なので学生様に読ませたい。『家族』のはもうちょっと具体的な話として学生様がわかりやすい形だとよかったかと思います。
私がこういうの書くと、ディスりぎみっていうか過剰に批判的になってしまう傾向があるんですが、それは心の狭い私の問題で本や論文の問題ではなく、どれもおもしろく勉強になるのでちょっとでも興味をもった人は先入観なしに読んでみてください。私はこう読む、っていうのを書いてみて、この手の話をあんまり知らなかったかもしれない一部の人に関心もってほしかった、それくらいです。
全体としてこのシリーズは野心的で、ぜひ継続してほしいものです。私なんかだと、愛やセックスまわりだと、このブログでもわかるように、浮気やら不倫やら性暴力やらポルノやら売買春やら、もっと「親密な関係のダークな側面」みたいなのに関心もってしまうんですが、そういうのはちょっと偏ってるなあ、みたいなのも自覚して反省するきっかけになりました。献本ほんとにありがとうございました。
この分野これから盛んになるといいなあ。編者の先生たちはえらい!ぜひ3冊買って応援してあげてください。
- ナカニシヤ出版「愛・性・結婚の哲学」を読みましょう (1)
- ナカニシヤ出版「愛・性・結婚の哲学」を読みましょう (2)
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- ナカニシヤ出版「愛・性・家族の哲学」を読みましょう (6)
- ナカニシヤ出版「愛・家族・性の哲学」を読みましょう (7)
- ナカニシヤ出版「愛・性・家族の哲学」を読みましょう (8)
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