島岡まな先生の例の記事についてまじめに考えたい学部生向けの注意書き (1)

前のエントリでとりあげた島岡まな先生の記事について、特にそうした問題にまじめな関心のある学部生ぐらいの人に向けての注意書きです。ぜひこれを機会に勉強しましょう。

(1ページ目)日本の中絶手術は、子宮の胎児を掻き出す「掻把(そうは)」が一般的だ。だが、先進国では服薬で済ませる方法が主流になっている。

これは塚原久美先生という方が積極的に問題にしていることです。日本で(まだ比較的)多い掻爬法による(初期妊娠の)中絶はWHOなどが推奨する吸引法に比較して危険なので、吸引法に置きかえられるべきだ、という話です。ただし、先生自身はお医者ではないので医学的見地としてどうなのか私はあんまり自信がない。母性保護法指定医の先生たちの世代や地域差もあるらしいので、まあいずれは先進国と同じような傾向になるだろうと私は考えています。

(1ページ目)「〜25年ほど前、ここ大阪に来てから流産したとき〜「手術には夫の同意が要る」と病院に言われた」

流産とかたいへんでお気の毒な経験なのですが、ここらへんの記述はわかりにくいところがあって注意が必要です。(1) 出血して妊娠中絶することになったのかどうか(あるいは単なる全身麻酔かけるときの代理同意者の手配の問題か)。(2) 日本では妊娠中絶には配偶者の同意が必要だということになってるのですが、これは(私の理解では)日本の法律では中絶(堕胎)は堕胎罪で禁止されているが母体保護法で一定の条件下では可とされていて、そのなかに配偶者の同意が入っているわけですが、その理由は配偶者にも利害があること、また胎児の利害も考えるべきかもしれないことを反映しているのだと思います。さらに、配偶者の同意の存在についてはそんなに融通が効かないものではないでしょうが、医療関係者側としては法で決まってることなのでそうしないとならない、といった事情も考える必要があると思います。

(2ページ目)無痛分娩

日本が無痛分娩がなかなか普及しない理由はいろいろあって、特に大きなものは無痛分娩のためには産婦人科医の他に麻酔医が必要で、この麻酔医の手配が人手不足でむずかしい、というのがあるようです。小さな病院やクリニックだと麻酔を常駐させておくのはむずかしいでしょうからね。さらに分娩は自然なら24時間いつ起こるかわからないから自然分娩を目指すなら24時間麻酔と産科医がいないとならない。時間を指定できる陣痛促進剤についても賛否があって、出産まわりは難しい話が多く、女性の痛みや負担に鈍感だから、といった指摘には注意する必要があります。

(3ページ目)ピル使用に関しては前のエントリを見てください。ピルの認可が日本でとても遅かったことについては、最近、北村邦夫先生という日本のピル普及の第一人者の先生が「ピル承認秘話」という興味深い記事を書いておられることを知りました。たいへん勉強になりますのでぜひ読んでください(バイアグラ認可とかとの関係話もあります)。

(4ページ目)政界や医学界のトップは男性ばかり

上の北村先生の記事を読むと、妊娠・中絶・避妊まわりは戦後はじめから女性たちの運動もさまざまに影響していることがわかります(加藤シズエ先生とかドクトル千恵子先生とか……)のでぜひ読んでください。また、荻野美穂先生のこの本はおすすめというか必読です。

(4ページ目)「フランスに4年住んでいても援助交際なんてありませんでしたよ。そんな金銭主義で若い子がブランドもののバッグが欲しいから売春するなんていう文化は向こうにはありません」

これは私は「ダウト!」したいですね。フランスの売春や、最近の「シュガーダディ」などについて調べてみてください。あとどうでもいいことですが、だいたい大学の授業というのは人気がかたよるもので、初年次教育のおもしろい授業、単位認定が甘い授業などは数百人でやることは珍しくありません。

(5ページ目)「中用量のプラノバールという緊急避妊薬は60年代後半に世界で用いられていたものでホルモン量も比較的多いのですが、現在の日本では月経異常などの治療用薬剤として認可されているものを、ピルとして代用しているんです」

これは意味がわかりません。低用量ピルは1999年から認可され普通に使用されています。調べてみてください。

(5ページ目)「当たり前にピルが処方されるフランスのほうが、ピルを出してもらえない日本より出生率が断然高い」

これは正しい指摘です。また、多くの人が家族計画をしている現代では、便利な避妊法の普及と出産の意欲のようなものに強い関係があるとも思われません。ただし避妊しない/消極的なカトリックやムスリムの人々の出生率が高いことはよく知られています。(たしかフランスは人種や宗教での出生率などは統計とってないはずです)

(5ページ目)「日本の避妊法は古色蒼然とした男性主導のコンドームに強く依存しており、家族計画についての鍵は男性が握っていることになります。ここでも、女性に自己決定権がないのです。」

これは解釈が必要です。「主導」の意味をよく考えてください。コンドームしないとセックスしないという要求を女性がおこなっていて、それによってそこそこうまくいっている、という可能性もあります。荻野美穂先生の解釈なども参考にしてください。ここで簡単に触れられています。→ https://www.anlyznews.com/2025/07/blog-post.html

(6ページ目)要は、日本には女性が自己決定権を持つ「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)」がないのです。

これは内容をよく検討してみるべきです。女性の意思だけによる妊娠中絶はセクシュアルヘルス/ライツだという意見は、必ずしもすべての先進国で認められていることではありません。(私としてはそうした主張を応援したいけれども、胎児の生命や配偶者の利害も配慮すべきだという見解にもそれなりの説得力があります。自分と違う立場の人々の意見を検討することは、あまじめにものを考えたい人には必須のことです)

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