Hakubiの「光芒」は名曲だ

数日前に、小倉秀夫弁護士からHakubiの「光芒」という曲を教えてもらったのですが、これものすごい名曲ですね。

透き通ったセンスあるボーカルが印象的ですね。歌詞はこんな感じ。JASRACさんすみません、おねがいです!訴えないで下さい!

作詞:片桐 作曲:Hakubi

僕達は下手くそなまま未来を思い描いて
いつかは いつかはって世界に中指を立てる

心を無くせば 強くなれるの
弱さを隠せば 強くなれるの
僕らの証が消えてゆく

容赦ない日差し
お前は甲斐性がないな
わかってるんだよ
わかっちゃいるんだよ僕も

だれかを羨んで妬み僻みを繰り返して
少し不幸でいた方がずっと楽だったんだ

何か一つ 何か一つ
確かなものを探してる
何も見えない闇の先に
かすかな希望を今日も探してる

僕たちはいつまでどこまで頑張ればいいの
果てのない道を ただ歩いている気がするんだ

みんながみんな何か背負って
それでも笑って生きてんのなんて
わかってるよ、わかってるよ
僕だって

生きてゆけ下手くそなまま 未来を思い描いて
いつかは いつかはって世界に中指を立てろ
僕たちの描いた地図がたとえ消えてしまっても
選んだ道をただ進んでゆけ

生きてゆけ

小倉先生はこの歌詞がコロナ下の若者たちの歌に聞こえるっていうんですが、まあそういう聞き方はもちろん可能だけど、このバンドがこれ作ってるときはまだコロナ問題になってなかったからら、ふつうに聞けばまだ売れてないバンドマンたちの歌ですよね。

「僕達は下手くそなまま未来を思い描いて、いつかは いつかはって世界に中指を立てる」。まあまだ下手なバンドだけど、いつかは認めさせてやる、売れてやると思っているわけです。

この歌詞を読んで気づくのが、くりかえしが多いことですね。「いつかはいつかはって」「わかってるんだよわかっちゃいるんだよ僕も」「何か一つ 何か一つ 」「わかってるよ、わかってるよ」。この歌の主人公の「僕」はとても不器用で、同じことを何回もくりかえしてしまう。

「心を無くせば 強くなれるの/弱さを隠せば 強くなれるの」のところは、私が見るところではこの歌詞の唯一の難点で、「強くなれるの」を2回くりかえしているのがださい。ふつうなら順番もいれかえて「弱さを隠せば強くなれるの?/心を無くせば(〜「強く」以外〜)なれるの?」っていう形になると思うんだけど1、あえてこのださい歌詞にしている。この主人公は徹底的にださくて「下手くそ」だ。でもそれがいい。

音楽的な聴き所も少し書いてみます。このバンドはギターボーカル・ベース・ドラムのスリーピースでバンドとしては最小限の形ですね。ギターボーカルは歌はうまいけどギターはごく初歩的なことしかできないので、音楽的に凝ったことをして聞かせるのはむずかしい。でもこの曲では、楽器を弾くところとほとんど弾かないところ、ドラムが叩かないところと暴れるところと対比をはっきりしていてリズムも多彩で、技術力があるとはいえないバンドができる最大の効果を発揮しています2。そりゃ椎名林檎先生がひきつれてるようなスーパー腕利きなんでもできる大人数バンドを使えばなんでもできちゃうわけですが、そういう道は(まだ)とらないし、またスタジオミュージシャンとかに頼んで弾いてもらうのをいさぎよしとせず、自分たちでできる範囲で最高のものをつくりだしている。すばらしい!

またこの曲は、頭っから最後までコード進行がA – B – C#m7 – G#m7 という四つのコードだけでできていて、ほとんどずっとそのまんま一本道です(間奏で2小節ぐらいはしょってるところがあるけど)。それなのに展開しているように聞こえるのは、メロディーラインがいろいろ工夫されてるからですね。とくに、2コーラス目の「僕たちはいつまでどこまで頑張ればいいの果てのない道を ただ歩いている気がするんだ」のあたりが平坦な語り口調になってるところとかが、そのあとの「生きていけ!下手くそなまま」のサビを印象的にしていてすばらしい。

ボーカルは非常に歌がうまくて、声をひっくりかえした最高音域も印象的で、ある意味セクシーな感じがあるんですが、イントロで一瞬披露したあとはそれを封印して中音域で歌っていますね。まんなかの「何か一つ何か一つ」のところできっちり最高音域を披露してギターで暴れて、最後のサビの「思い描いて!」「たとえ消えてしまっても!」でもう一回披露してくれてすばらしい。もう絶賛ですね。

最後の「生きていけ!あー!」のあたり、実はうっすらコーラスが聞こえるような気がするのですが、この歌はみんなで歌うものではない、と判断したんでしょうね。正しい判断だと思う。

最初に書いたように歌詞は全体はまあ明白で、おそらくまだ売れてないバンドが大人たちからあれやこれや言われて出口が見えなくなってる状態だけど、どっかに光芒はあるはずだ、自分たちが信じてるものを信じて進むしかない、っていう感じですか。なんかやってると、大人や外野が、「みんなたいへんなんだよ」とか「我慢するところは我慢しないと」「売るためにはもっとこうしないと」とか勝手なことを言ってくるわけですが、そんなことは我々もわかっているのだ!うるさい!おまえらの言うことなんか聞かない!自分の道を行く!F x x K!」というそういう歌ですよね。ちょっと幼ないといえば幼ない感じがあるけど、でも若いってそういうことだから。

イントロでは「いつかは いつかはって世界に中指を立てる」だったものがラストでは「いつかは いつかはって世界に中指を立てろ」ていう自分たちへの命令・決意表明になっているところもいいですね。

あんまりよいので、うっかり昨日から何十回も聞いて、自分でも何十回か歌ってみたりしてしまいました(その音源は秘密)。あと何回も歌ってみて思ったのですが、これ女性ボーカルだからすばらしい歌だけど、男子ボーカルだとちょっと微妙な感じになっちゃうかもしれないなと思いました。「出口が見えないけどがんばる!」はいいんですが、男子がこういうふうに不器用に「そんなこと僕もわかってるよ、わかってるけどね……」とかって語るのはちょっと微妙かもしれない。モテないかもしれない。AKBや欅坂みたいな秋元節の男の子歌詞も、女子が歌ってるからよいのであって男子が歌うとキモい、みたいなのはあるかもしれない。でもまあそれも含めてよい。

まあ小倉先生がこの歌をコロナ下でもがんばっていこう、っていう曲だって聞くのもわかりますね。われわれはいま暗闇のしたでいつまでがんばっていなきゃならないのかわからないんですが、でもこうした歌を聞きながら耐えて、その結果見えてくる光芒を探したいものです。カラオケとかもみんなで楽しくできるようになるといいですね。でも私この曲カラオケで歌おうとしたら自分で泣いちゃうかもしれんなあ。

あと何回も書いてるけどバンドマン世界マンガの最高峰、みうらじゅん先生の『アイデン・ティティ』、読んでないひとは必ず読みましょう。

脚注:

1

対句表現は同じようなものを並べるわけですが、まったく同じのを並べてもどんくさくておもしろくない。それに「心を無くす」と「弱さを隠す」のふたつだと「心をなくす」の方が強いのであとにもってきたい、と思うわけです。

2

最小構成でドラムは止まったり思いっきり暴れたりする、ってのいかにも「ガレージバンド」って感じでいいです。音楽的衝動とはこういうものだ!

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