凡才学部学生必読文献・卒論への道

哲学・思想関係の卒論指導をしたことはないんだけど、どうなんかな。こっちは特に凡才・非エリート・スロウラーナー向けに考え中。
秀才やエリートはあっち行け。

  • 読書量多いにこしたことはないだろう。でもなんでも読むのは無理だよね。時間は限られているから、いろいろ考えないとね。
  • まず山形浩生先生の『新教養主義宣言 (河出文庫)』と小谷野敦先生の『バカのための読書術 (ちくま新書)』を読んで教養にたいするあこがれを身につける。
  • 野矢茂樹先生の『新版 論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)』をやって悪文やへんな文章を読む力をつける。読むだけじゃなくて実際に問題を解く。2ヶ月ぐらいかかるか。『101題』もやってみよう。
  • まともな記号論理学の本も一冊やりたい。命題論理だけでも十分だけど、できれば完全性定理まで。ちゃんと自分で問題を解く。頭悪いと一問解くのに一晩かかったりすることもある。でもそれを学部生のうちに一人でできるようなら、もうそれだけで研究者になる素質は十分。君は凡才ではないので以下読む必要はない。少人数の授業に出ること。
  • 中公世界の名著(と中公クラシックス)と岩波文庫、ちくま学芸文庫、講談社学術文庫は安いので少しずつ揃える。でも学部生レベルでは一人で読んでも理解できないことが多い。
  • よい哲学入門書がないのが問題。おすすめできるのは、今発刊中の中公の『哲学の歴史』ぐらいじゃないのかな。ちょっとまえの岩波の『哲学講座』とかなのかな。九鬼先生の『西洋近世哲学史稿』とか山崎正一先生の『西洋近世哲学史』とかってのは古すぎるだろう*1。ある大学では、CoplestonのHistory of Philosophy*2を全部読めたら大学院は通るとかっていわれてたけど、いまどきそんな勉強する必要はないはず。
  • 自分で買うのは無理だろうから、図書館を有効に利用しよう!
  • やっぱり英語になっちゃうけど、Oxford University PressのA Companion to ~シリーズがなにを
    やるにしても非常によい。BlackwellのBlackwell Guide to ~も。大陸系やるときも読んどいた方がよい。

  • 学部生のうちに学会や(おじさんたちの)研究会に出てもあんまり得るとこはないのはほんとう。自分から質問できないところに行っても意味がない。でも読書会はやること。
    院生をつかまえて教えてもらう。院生は院生どうしで勉強するだけじゃなく、やる気のある学部生とも勉強するのが義務。テキストは上のCompanionシリーズとか、これまたOxford University PressのA Very Short Introductionシリーズとか。一人で勉強するとまちがった思いこみを直してもらうことができない。非常に危険。耳学問も大事だし。

  • まあ卒論は(1)誰もが認める偉い哲学者の1冊の本を選んでちゃんと隅から隅までじっくり読み、(2)超有名な二次文献を何本か読みその偉い哲学者の議論の功績と問題点を把握し、(3)その二次文献についての三次文献を何本か読み、(4)それをまとめる、ってので凡才ならば十分すぎると思う。ふつうはそこまでいかない。学問の道は長いよ。どれが超有名な二次文献かは、先生か大学院生に尋ねる。
  • 読書ノートは非常に重要。文献リストも重要。でも本当にどう作ればいいのかはそれぞれの企業秘密なので教えてもらえないかも*3。これも信頼できる先生や大学院生と仲良くなって酒飲むしかない。だから酒飲みは重要。
  • ふつうの大学に通っている人は、卒論レベルでは原典読むことができないと思う。語学はがんばろう。いきなり偉い哲学者を原典で読もうとしてもいろいろたいへんなので、やっぱりCompanionレベルの入門書を訳したりするところからはじめる。大学院生にチェックしてもらうこと。少なくとも英語だけはなんとかがんばろう。現在のふつうの大学教育では独仏語を読みこなせるようにはならんと思う。1ページ読むのに一晩かかったりするのもふつう。でもやっぱりがんばる価値はあるぞ。
  • 正直いって英語圏の哲学者の方が勉強しやすいし卒論書きやすいと思うけど、そういうことを考えて勉強をはじめるのはなんだかケツの穴が小さい。卒論書くのは一生に一回、好きなのやるべし。マイナーな思想家もいろいろおもしろいだろう。
  • 卒論用の勉強をはじめたときに、だいたいこうだろうと思いこんでたことと、できあがった卒論の結論がまったく違ってたら卒論執筆は大成功。そんな簡単じゃなかったことがわかればとにかく成功。最初に思ってたことを結論に書いちゃったらおそらく失敗。
  • 新書系はいろいろ読みたい。おそらく偉いのはNHKブックス = 中公新書 > 岩波新書 = 講談社現代新書 > ちくま = PHP > その他なのかな。後に行くにしたがって、より注意が必要になる。でもまあ新書系はつねにいろいろ注意しておくべし。読みおわったら、amazonその他の書評サイトもチェックしてみること。いちいち買ってるとおこづかいがなくなるので図書館で。
  • いわゆる理系の本もいろいろ読みたい。物理学、生物学、心理学など。でも哲学思想に比べて進歩がとてつもなく早いので、古めの新書とかは読む価値はあんまりない。生物学や心理学、言語学あたりだと、20年前の本は読む必要がないし、つねに新しいのを追っかけておかないと恥ずかしい思いをすることになる。ピンカーは「哲学やるやつはいろんな他分野の動向に関心もたないと哲学者じゃないよ」とかってこと書いてたような気がする。
  • 知ったかぶり野郎たちに注意。読書会で戦うべし。
  • 「これも知らないの?」とかっていう学問的恫喝に負けないこと。国内でそんなに勉強できる人は滅多にいない。経験的にそういう恫喝をしかけてくるひとにまともな人は少ないと思う。もちろんほんとうに賢い人もいるので、そういう人とは親しくおつきあいしてもらうこと。
  • 何度も書くけど、凡才は一人では勉強できない。無理に一人で勉強しようとするととんでもない間違いに気づかないことが多い。もちろん自分が凡才でないと思っている人は別。
  • 狭いグループに閉じ込もらないこと。流派が違う人とは話しにくいけど、なるべく機会を得るように努力ぐらいすること。
  • ソクラテス対話篇とデカルトの『方法序説』『省察』、ヒュームの『人間知性研究』だけは早めに読みましょう。
  • たとえば『純粋理性批判』を選んじゃうと、とにかく読むだけで1年以上かかる。学問の道は長い。
  • 1、2回生向けの授業ってのは教員が手を抜いてるからあんまり価値がない。3、4回生のときに院生が出てくる授業で勉強するのがコツ。1、2回生のうちはいろいろな人とつきあったり広い分野の本を読んだりして、視野を広げておくこと。
  • わかってないのにわかったフリしないこと。哲学や思想は難しいのでわからないことだらけ。
  • 自分が学問としてまじめに哲学や思想やりたいのか、文学や文芸批評のようなものをやりたいのか、あるいは広い意味の物書きになりたいのかとかってことは一度考えてみること。文学もいいもんだよ。あと狭い意味の哲学やるってことは、なんか思考を強制されているような感覚があって不愉快なもので、なにかを失う感覚をともなうってのを知ってほしい。「ほんとはこう考えたいのに、こう考えざるをえない」ね。これいやな人は哲学やらないほうがいいかもしれない。あと、わりとはっきり「できる・できない」がわかっちゃう業界なので、凡人は劣等感に悩まされることが多い。批判してなんぼ、批判されてなんぼ、お互いに批判してなんぼの商売だ。
  • 「良書を読む秘訣は、悪書を読まないことである」らしい。
  • 自分の関心に応じた雑多な読書はほんとうに大事で、哲学思想の他にどういうものを読んでいるかで勝負が決まるところがあると思う。「売り」として、どうしても他の研究者とちょっと違った精神生活を営むことが生き残りに必要で*4、これはもうほんとに自分のセンスで行くしかない。私は平凡なので売るべきものがない。こういう「必読文献」とか真に受ける人もいろいろ考えた方がよいかも(私はこういう「必読」とか「教養」とかハウツーものとか好きなんだけど、こういうのがまさに平凡な人間の証拠だってことだけは理解しておく必要がある)。
  • 本読むのが嫌いだとか義務だとか思うひとは、ほんとに研究とか志しちゃって貧乏院生~窮乏OD生活して平気なのかどうか考えなおした方がよいと思う。それは悲惨です。
  • ほんとに一流になりたいひとは、外国で何年もかかってPhDとったりしなきゃならんので、家族生活なんかについても考えなきゃならんようになる。学部生のうちは、国内ではボーイフレンド・ガールフレンドは作らん方がよいのではないか、なんちゃって。
  • 補足。電子辞書は非常に優秀なので、常に携帯して分からない日本語があったらすぐに引くように。学部1,2回生でこの癖をつけられるかどうかでいろいろ違ってくる。国語辞書持ち歩くのは物理的に無理だろうし、広辞苑なんかを常に机に置いとくのも普通無理だろうから。引かないよりはすぐに引いた方がずっとよい。ぜひ買ってください。ただし広辞苑は歴史的順番で並んでいるのでオススメしない。あと読み方さえ分からない漢字を見つけたら、漢和がすぐに引けるようにしてくこと。外国語については電子辞書はたしかにやめた方がいいねえ。
  • 哲学思想系ではwikipediaその他、web上の情報はまったく役に立たないからね。
  • うーん、これは私が偉そうに書くべき内容じゃなかったな。まあスロウラーナーがスロウラーナーなりに生きていこうとするときに、こういう考え方もあるって程度でゆるしてちょ。
  • これは学部学生・卒論の話じゃなくて修士・修論の話なのではないかという意味の突っ込みあり。そうかも。でもみんながんばってね。だいたいどんな分野でも20,000時間有効に使うと一丁前になるらしいです。私がまだ生きているうちにいろんな成果を見せてください。

*1:あと波多野精一先生の『西洋哲学史要』本棚から発掘してめくってみたけど、もうこういうものであらましだけを勉強する時代じゃないね。そういう時代は遠くなった。

*2:isbn:0826469485 とか。いまだに読まれてるのね。

*3:これ興味があるので優秀で生産力の高い人によく質問するんだけど、たいていはぐらかされちゃう

*4:あまりにも他人と違う精神生活を営むと電波扱いされるし、生活にも不便だろう。


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