「レイプ神話」での性的動機 (4) ブラウンミラー先生の支配欲説と反論

ともあれ、マッケラー先生の『強姦』はアミル先生の研究を参照して議論が進められていて、内容的には穏健っていうか今読んでもそんな違和感はないです 1)実は、アミル先生のもマッケラー先生のも、白人と黒人で文化を論じて分けていて、それはものすごく違和感があるんだけど。 。くりかえしますがマッケラー先生の主張は「レイプは性欲が原因ではない」とは主張しておらず、性欲はもちろんかかわっているけれども他にも様々な原因がある、ぐらいです。

問題は同じ年に出版されたブラウンミラー先生の『レイプ:踏みにじられた意思』(Against Our Will)ですね。これはいまではフェミニスト理論の古典とされているもので、すごく強い影響力をもっていて、「レイプの原因は性欲ではなく、男性グループの女性グループに対する支配である」って主張を一般的にしたものです。

人間意外の動物はレイプしないし2)実はある。 、レイプのない文化もあるので 3)実はほとんど見つからない 、レイプは我々の文化の影響下のものだ。我々の文化は家父長制と呼ばれる男性優位文化で、男性が女性を支配する必要がある。そのために使われるのがチンチンを武器にしたレイプだ、というわです。

「強姦とは、すべての男がすべての女を恐怖状態にとどめておくことによって成立する、意識的な威嚇のプロセスに他ならない」(p.6)

「強姦とは無分別で衝動的な抑えがたい欲望から生じる犯罪ではなく、征服欲にかられた者が相手を貶め、自分の物にするために行う敵対的で暴力的な行為だ」(p.319)

こんな感じ。レイプはセックスや性欲の問題ではなく、文化の影響によって男性はレイプへの指向を学習し、女性に対する暴力を美化・正当化するのだ、ってわけです。このアイディアから、現在フェミニストの人々が唱えているようないろんなアイディアが派生します。たとえば、男性は暴力的ポルノなどからそうした支配欲を学んでしまうのだから、暴力ポルノは規制するべきだ、とかですね。70年代後半から90年代ぐらいまではこういうフェミニスト的な視点がものすごい力をもって、現在まで影響している。

でもこのブラウンミラー先生の立場は90年代ぐらいに犯罪学や動物行動学や進化心理学から激しい批判を受けて、少なくともアカデミックな領域ではもう人気がないと思います。

ブラウンミラー先生たちのフェミニスト主流の立場の問題点をいちばん徹底的に批判しているのは、ソーンヒルとパーマー両先生の『ひとはなぜレイプをするのか』ですね。まあいろいろ批判はありますが、これ読まないで性暴力とかについて語るっていうのはもうありえないと思う。ちょっと長いので読むのたいへんっていうひとは、ピンカー先生の『人間の本性を考える』の下巻の「ジェンダー」の章を読むとよいと思う。

ソーンヒル先生たちのフェミニスト理論への反駁をちょっとだけ見ておくとたとえばこんなことを言っている。

(1)「レイプ犯の大半にはセックスパートナーがいるのだから性欲が動機ではないとされるけど、別に一人で性的に満足するわけではない。パートナーいたってポルノ見たり浮気したりするわけですからね。

(2) 「レイプは衝動的というよりは計画的なのだから、性欲が動機ではない」とされるけど、別にデートとか浮気とか計画的にやるセックスはたくさんあるのだから、根拠にならない。

(3) 「レイプの被害者は若い魅力的な女性ばかりではないのだから性欲が動機ではない」とされるけど、やっぱり犯人は可能ならば若くて魅力的な女性を狙うおうとする。被害者は圧倒的に二十代ぐらいの若い女性。襲いやすさは犯人にとって重要なので、必ずしも魅力的な若い女性だけではない。

(4) 「戦争のときにレイプが頻発するのだから、レイプは性欲よりは敵意にもとづいているはずだ」 4)実はブラウンミラー先生が自分の論拠にしているの多くの事例は戦時レイプなんですわ。他の事例の多くも古代〜近代の歴史的事象からとられていて、マッケラー先生の現代の事例を分析したものとはタイプが異なる。 とされるけど、これも性欲が動機でない根拠にならない。戦時には規範が緩くなり、特に敵に対する各種の暴行が許されやすくなるので、泥棒なども増える。戦時レイプにおいても、レイプ犯は可能ならばなるべく魅力的な若い女性をレイプする傾向があり、これは通常の男性の性行動と変わらない。

(5) 「男性グループが女性グループを支配するためにおこなう」とされているものの、レイプ犯に対する社会的制裁は通常は非常に苛烈なもので、男性個人が男性グループのことを考えているとは信じられない。

まあまだまだぞろぞろ、いろいろ説得的な反駁がおこなわれています。実はソーンヒル先生たちの本の半分は自分たちの理論(仮説)の提示ですが、半分はフェミニストやその他の従来の社会科学におけるレイプの動機・原因理論に対する反論で占められてるんですわ。これは科学的態度で、最初に読んだときはとても感服しました。

まあ、あんまりうまくまとめられないし、正確な議論はできないんですが、もう「性欲ではなく支配欲」はぜんぜん無理そうですね。ブラウンミラー先生の側の理論は、根拠が薄弱なだけじゃなく、むしろ実証的な知見とぜんぜんあわないように見える。いまだに「レイプの動機は性欲ではなく支配欲」みたいなことを、「定説だ」とかなんの留保もなしに言ってる人々はあんまり信用できないです。っていうか、90年代以降のことはなにも勉強してないんだと思う。注意した方がよい。


シリーズ


References   [ + ]

1. 実は、アミル先生のもマッケラー先生のも、白人と黒人で文化を論じて分けていて、それはものすごく違和感があるんだけど。
2. 実はある。
3. 実はほとんど見つからない
4. 実はブラウンミラー先生が自分の論拠にしているの多くの事例は戦時レイプなんですわ。他の事例の多くも古代〜近代の歴史的事象からとられていて、マッケラー先生の現代の事例を分析したものとはタイプが異なる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。