「レイプ神話」での性的動機 (3) 原因と動機、アミル先生の行動主義

マッケラー先生は、レイプの「原因」causeって言葉を使ってます。この「原因」ってのは哲学的なネタを豊富に含んでいておもしろい概念ですよね。

原因ってのは、なにかの出来事を引き起す因果的なメカニズムを指すと私は理解しています。実は一つの出来事について、原因とされるものはたいてい複数ある。たとえば家が火事になった原因というのを考えると、寝タバコとか放火とかそういうのが思いうかぶわけで、消防署や警察はそういう特定の原因を探そうとします。でもよく考えると、火事の原因、因果的なメカニズムはもっといろいろあって、たとえば、空気中に酸素がないと家は燃えないから酸素があることも原因だし、コンクリだけの家は燃えないから家が木などの可燃性のものでできていることも原因ですわね。そのなかで寝タバコを原因として特定するのは、我々が「原因」と呼びたいものは、他の同じような状況でそれを引き起こした当のメカニズムなわけです。空気中の酸素はいつもあるし、家もだいたい木で作られている。そしてそれに対して予防や対応の対策がとれるようなものであってほしい。酸素はなくせないし、家も燃えないように作りなおすのはたいへんだ。火事になったのは寝タバコのせいだ。寝タバコしなければ火事にはならなかった。こういうわけでわれわれは「火事の原因は(酸素でも木材でもなく)寝タバコだ」というようなことを言うわけです。

レイプの原因は性欲だ、とか言っちゃうと、性欲はまあ健康な人々はみんなもってて人によってはもてあましているくらいだし、それをなくせって言われてもこまっちゃうから、あんまり対策に有効ではなさそうだ。だから性欲以外の対処できる「原因」を探したくなるわけですわね。

んで実はマッケラー先生は学者ではないのでちょっと言葉遣いが微妙なところがある。マッケラー先生の『強姦』は、実は主にメナケム・アミル(翻訳ではアマール)先生っていう人の60年代の研究をもとにしてるんです。これはアメリカの統計を使ってレイプ犯や被害者がどういう人々か、っていうのを分析している堅い研究。マッケラー先生は、この本の分析と自分で集めた新聞記事などから『強姦』を書いたんですね。このアミル先生の入手して見てみたんですが、まあ立派な研究だと思います。今の目から見ると、白人と黒人に分けて統計研究したりしていて、ちょっと差別的なところも見られるけど、まあここらへんは時代的にしょうがないですわね。

興味はアミル先生がレイプの「原因」をどう説明しているかってことで、「レイプの原因は性欲じゃないよ」とか書いてるのかと思ってたんですが、そうではなかった。そもそも「性欲はレイプの原因か」みたいな問いは立てないんですね。むしろ「動機」motiveって言葉を使う。

「「なぜ」あのひとはあれをしたのか」っていう問いは、その人がそれをした原因(cause)、つまり因果的なメカニズム、をたずねているときもあれば、そのひとの目的や動機をたずねている場合もあるわけですね。動機っていうのは、ある人がなんらかの行動をするときの目標・目的ですわね。ただし、本人が意識している場合もあれば、あんまり意識していない場合もある。んで、実はアミル先生は、動機や動機づけ(motivation)については、心理学とかと社会学とかでは扱い方や注目するポイントが違っていて面倒だ、それに本人がなにを求めてそれをしているのかっていうのは結局他人には知ることができないのだから、そういうことを考えるよりは、レイプの加害者の特徴、被害者の特徴、それが起こる状況などを調べた方がいいよ、動機は問わない、みたいなことを言ってるわけです。当時流行していた行動主義っぽい考え方ですね。人の「心」なんかブラックボックスにしてかまわん、入力と出力だけで十分だ、ってなわけです。マッケラー先生の本ではアミル先生は頻繁に登場するんですが、そういう主張はまったく触れられていなかったので意外でした。

まあこんな感じで、レイプの原因とか動機とかってのはけっこう哲学的に難しい面を含んでるんですわ。そんな簡単に「これが原因だ」とか「犯人の動機はこうだ」とか言いにくい。



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