昭和3年12月
の編集
http://yonosuke.net/kafu/?%E6%98%AD%E5%92%8C3%E5%B9%B412%E6%9C%88
[
トップ
] [
編集
|
差分
|
バックアップ
|
添付
|
リロード
] [
新規
|
一覧
|
単語検索
|
最終更新
|
ヘルプ
]
-- 雛形とするページ --
19191103へのコメント
19350227へのコメント
19350619へのコメント
19350725へのコメント
19350806へのコメント
19350826へのコメント
19350905へのコメント
19351025へのコメント
19351129へのコメント
19351207へのコメント
19351223へのコメント
19450829へのコメント
A Diplomat's Wife in Japan
A Diplomat in Japan
Aimé Humbert
Alfred Roussin
aya
BracketName
Douglas Sladen
Dramaturgie de Paris
FormattingRules
FrontPage
Fumée dans la campagne(田園の烟)
Georges Duhamel
Help
InterWiki
InterWikiName
InterWikiSandBox
kohaku
L'Anneau d'Amethyste
La Double Maitresse(ママ)
La grande Illusion
LAURENT VINEUL
Le Hondjo– Arts et métiers
Le petit monde de Don Camillo
Les Grands courants de la littérature française contemporaine
Le tour du monde
Le tour du monde, journal des voyages
Librairie Hachette et Cie
Lord Elgin
M.le baron de Hübner
Maurice Magre
MenuBar
mixi荷風スレッドより
Mrs, Huch Fraser
Mémoires d'une autre vie
Narrative of the Earl of Elgin's mission to China and Japan in the year 1857, '58, '59
Nourritures Terrestres
Noël Nouët
Oliphant Laurence
Paul Claudelの評伝
PHP
Promenade Autour du monde 1871
PukiWiki
PukiWiki/1.4
PukiWiki/1.4/Manual
PukiWiki/1.4/Manual/Plugin
PukiWiki/1.4/Manual/Plugin/A-D
PukiWiki/1.4/Manual/Plugin/E-G
PukiWiki/1.4/Manual/Plugin/H-K
PukiWiki/1.4/Manual/Plugin/L-N
PukiWiki/1.4/Manual/Plugin/O-R
PukiWiki/1.4/Manual/Plugin/S-U
PukiWiki/1.4/Manual/Plugin/V-Z
remembered the coupon code
SandBox
Soleils disparu
The complete Journal of Townsend Harris
The Japs at Home
Une campagne sur les côtes du Japon
WikiEngines
WikiName
WikiPedia
WikiWikiWeb
yonosuke
YukiWiki
××××××と云ふ
××××××のみにて
××××られる事を
×××しかた
●
『「断腸亭」の経済学』
『たけくらべ』
『つゆのあとさき』の映画
『冬の蠅』
『北蝦夷余誌』
『太陽に向つて走れ』
『拙堂文話』
『春宴帖』
『月佳夏夜話』
『永井荷風伝』
『渋江抽斎伝』
『漁村文話』
『濁江』
『現代仏文学史』
『考証永井荷風』
『荷風と東京』
『荷風好日』
〓
あめりか物語
...
&aname(d19281202){十二月二日}; 空どんよりくもりて風絶えたり、午前十時頃飛行機の響盛に起り児童のよろこび叫ぶ声聞こゆ、窗を開きて見るに飛行機は西北の方より或は五機或は三機或は七機各雁列をなし、前後相ついて吾家の真上を過ぎ東南を指して去る、抑飛行機は近時西洋人の発明せしものなるを、わが日本人忽其が製造の法と操縦の術とを学び、頗得意の色をなせり。自働車自転車の如きも亦然り、日本人の得意となす所は他国の人が苦心惨憺の余発明せし所の物を窃取して恬然として愧ぢざる所に在り。其の剽疾勁捷(ひようしつけいしよう)なるは洵(まこと)に驚くべし。開国以来六十年一物の創造発明する所なきも亦一驚に値すと謂ふべきなり。薄暮お歌本日の『都新聞』一葉を携来り、昨夜歌舞伎座初日の記事を示す、愛国党の無頼漢数名桟敷より印刷物を塲内に撒き演技の障害をなし警察に引渡されたり、印刷物は松莚子一座の俳優が魯西亜に赴きたることを攻撃したるものなりと云ふ、又無頼漢は新聞紙に蛇二三十匹を包み腰掛の下に隠置き、之を桟敷より花道へ投げつけるつもりの所それに及ばざる中捕へられしなりと云ふ、是夜初更雨となる、[[*>摘々録断腸亭日乗から]] &aname(d19281206){昭和三年十二月六日}; 風なく晴れて暖きこと春の如し、窗外の山茶花十月半頃より花開き今猶尽きず、午に近き頃起出でゝ病室の塵を掃ふ、牀下(しやうか)の凝塵柳絮(りうじよ)の如し、晡下お歌髪結の帰なりとて来る、又新聞紙を示す、満紙唯共産党々員捕縛の記事のみ、慶応義塾の書生も撿挙せられたりと云ふ、論語に曰く古者民有三疾、今也或是之亡也、古之狂也肆、今之狂也蕩、古之矜也廉、今之矜也忿戻、古之愚也直、今之愚也詐而已矣、余は当今の学生の忿戻(ふんれい=乱暴)にして詐(=あざむくこと)なるを憎むなり、[[*>摘々録断腸亭日乗から]] &aname(d19281231){十二月三十一日}; 晴れて寒し、終日炉辺に筆を執る、夕餉の後三番町に徃き除夜の鐘を聞いて家に帰る、寒月皎々として昼の如し、今年は一昨年来の不景気つゞきにて歳暮の市街も徒に紅燈彩旗をかゝぐるのみて人通りも少く、色町はいづこも火の消えたやうなり、わが身も本年は春の頃より病みがちにて、一時は読書さえ思ひのままにならざりしが、秋に入り大石国手が注射治療を受けてより萎れたる草花の露に逢ひたるが如く、健康少しく旧に復したりとよろこぶ程もなく、持病の腹痛再発し、つゞいて激しき風邪にかゝり、いまだに寒さを覚えて折々は堪えがたきことあり、何といふわけもなく身のまはり裏淋しく、余命のほども幾何ならずという心地して、何事をもなす気力なし、視力の衰へも今年に入りていよいよ*甚しく、冬の日の曇りし時には、安頭の電燈を転ぜざれば細字を書すること能はざるなり、葵山子は予の顔を見るたび、荷子の眉太きこと筆の穂の如し、是長命の相なりとまことしやかに言はるゝなり、白髪も一二本あるやうなれどいまだ目につかず、されど淫慾の失せたることわれながら驚くばかりなり、この春頃までは十日目位には肌ざむしき心も起りしに、秋より冬に入りて半月一箇月たちても更にそのやうな氣も起らず、唯暖き室に軽く柔き寝床を設けあかるき燈の下に古書を讀むことを望むやうになりぬ、世の中の事も今は全くわが身には縁なきやうなる心地して、いかなる事を耳にするも公憤を催さず、文壇[[斗筲]]の輩のとや角言ふが如きことは宛らに蚊の鳴くに異らず、人の噂聞くさへ唯只うるさき心地して此方より耳を掩ふばかりなり、わが友人等はいづれも余が身の上ほど多幸なるはなしと言へり、こは予自らもかくの如く思ひゐるなり、今にして思ひ返せば、わが身に定まる妻のなかりしも幸の一つなり、妻なければ子孫もなし、子孫なきが故にいつ死にても氣が樂にて心殘りのすることなし、平生文壇の士とは交遊なきが故に、死後拙劣なる銅像など建てらるゝおそれも先は無き事なるべし、此頃或文學者の死したるに、生前その周圍に集りゐたるものども、各おのれが名を賣らむがため俄に死者の徳を称揚し、銅像を建立するとやらいふ事なり、予は平生文壇の士を目して人間の屑なりとなせり、予自身の事はこゝには棚に上げて言はず、世の文學者といふものは下宿屋とカツフヱーの外世間を知らず、手紙を書くことを知らず、禮儀を知らず、風流を解せず、薄志弱行、粗放驕慢、まことに人間中の最劣等なるものなり、予一たび慶應義塾の教師となりしが感ずる所ありて四十歳に至らむとする頃職を辞し、それ以來は文學のことには關係せず、文學者を友に持たざるは是亦今日に及びてはわが幸福中の第一なりと謂ふべきならむ、予生来身体強健ならず膂力なきが故に人と爭ひ人を傷けしことなし、家に些少なれど恒産あるを以て金銭のことにて人に迷惑をかけたることなし、女好きなれど處女を犯したることなく又道ならぬ戀をなしたる事なし、五十年の生涯を顧みて夢見のわるい事一つも為したることなし、是亦幸なる身の上なりと謂ふべし、東の窓少しあかるくなり牛乳配達夫の木戸あける音の聞えたれば、除夜の繰言もまづこのくらゐにして五十一年の春を迎ふべしと云ふ、
タイムスタンプを変更しない
&aname(d19281202){十二月二日}; 空どんよりくもりて風絶えたり、午前十時頃飛行機の響盛に起り児童のよろこび叫ぶ声聞こゆ、窗を開きて見るに飛行機は西北の方より或は五機或は三機或は七機各雁列をなし、前後相ついて吾家の真上を過ぎ東南を指して去る、抑飛行機は近時西洋人の発明せしものなるを、わが日本人忽其が製造の法と操縦の術とを学び、頗得意の色をなせり。自働車自転車の如きも亦然り、日本人の得意となす所は他国の人が苦心惨憺の余発明せし所の物を窃取して恬然として愧ぢざる所に在り。其の剽疾勁捷(ひようしつけいしよう)なるは洵(まこと)に驚くべし。開国以来六十年一物の創造発明する所なきも亦一驚に値すと謂ふべきなり。薄暮お歌本日の『都新聞』一葉を携来り、昨夜歌舞伎座初日の記事を示す、愛国党の無頼漢数名桟敷より印刷物を塲内に撒き演技の障害をなし警察に引渡されたり、印刷物は松莚子一座の俳優が魯西亜に赴きたることを攻撃したるものなりと云ふ、又無頼漢は新聞紙に蛇二三十匹を包み腰掛の下に隠置き、之を桟敷より花道へ投げつけるつもりの所それに及ばざる中捕へられしなりと云ふ、是夜初更雨となる、[[*>摘々録断腸亭日乗から]] &aname(d19281206){昭和三年十二月六日}; 風なく晴れて暖きこと春の如し、窗外の山茶花十月半頃より花開き今猶尽きず、午に近き頃起出でゝ病室の塵を掃ふ、牀下(しやうか)の凝塵柳絮(りうじよ)の如し、晡下お歌髪結の帰なりとて来る、又新聞紙を示す、満紙唯共産党々員捕縛の記事のみ、慶応義塾の書生も撿挙せられたりと云ふ、論語に曰く古者民有三疾、今也或是之亡也、古之狂也肆、今之狂也蕩、古之矜也廉、今之矜也忿戻、古之愚也直、今之愚也詐而已矣、余は当今の学生の忿戻(ふんれい=乱暴)にして詐(=あざむくこと)なるを憎むなり、[[*>摘々録断腸亭日乗から]] &aname(d19281231){十二月三十一日}; 晴れて寒し、終日炉辺に筆を執る、夕餉の後三番町に徃き除夜の鐘を聞いて家に帰る、寒月皎々として昼の如し、今年は一昨年来の不景気つゞきにて歳暮の市街も徒に紅燈彩旗をかゝぐるのみて人通りも少く、色町はいづこも火の消えたやうなり、わが身も本年は春の頃より病みがちにて、一時は読書さえ思ひのままにならざりしが、秋に入り大石国手が注射治療を受けてより萎れたる草花の露に逢ひたるが如く、健康少しく旧に復したりとよろこぶ程もなく、持病の腹痛再発し、つゞいて激しき風邪にかゝり、いまだに寒さを覚えて折々は堪えがたきことあり、何といふわけもなく身のまはり裏淋しく、余命のほども幾何ならずという心地して、何事をもなす気力なし、視力の衰へも今年に入りていよいよ*甚しく、冬の日の曇りし時には、安頭の電燈を転ぜざれば細字を書すること能はざるなり、葵山子は予の顔を見るたび、荷子の眉太きこと筆の穂の如し、是長命の相なりとまことしやかに言はるゝなり、白髪も一二本あるやうなれどいまだ目につかず、されど淫慾の失せたることわれながら驚くばかりなり、この春頃までは十日目位には肌ざむしき心も起りしに、秋より冬に入りて半月一箇月たちても更にそのやうな氣も起らず、唯暖き室に軽く柔き寝床を設けあかるき燈の下に古書を讀むことを望むやうになりぬ、世の中の事も今は全くわが身には縁なきやうなる心地して、いかなる事を耳にするも公憤を催さず、文壇[[斗筲]]の輩のとや角言ふが如きことは宛らに蚊の鳴くに異らず、人の噂聞くさへ唯只うるさき心地して此方より耳を掩ふばかりなり、わが友人等はいづれも余が身の上ほど多幸なるはなしと言へり、こは予自らもかくの如く思ひゐるなり、今にして思ひ返せば、わが身に定まる妻のなかりしも幸の一つなり、妻なければ子孫もなし、子孫なきが故にいつ死にても氣が樂にて心殘りのすることなし、平生文壇の士とは交遊なきが故に、死後拙劣なる銅像など建てらるゝおそれも先は無き事なるべし、此頃或文學者の死したるに、生前その周圍に集りゐたるものども、各おのれが名を賣らむがため俄に死者の徳を称揚し、銅像を建立するとやらいふ事なり、予は平生文壇の士を目して人間の屑なりとなせり、予自身の事はこゝには棚に上げて言はず、世の文學者といふものは下宿屋とカツフヱーの外世間を知らず、手紙を書くことを知らず、禮儀を知らず、風流を解せず、薄志弱行、粗放驕慢、まことに人間中の最劣等なるものなり、予一たび慶應義塾の教師となりしが感ずる所ありて四十歳に至らむとする頃職を辞し、それ以來は文學のことには關係せず、文學者を友に持たざるは是亦今日に及びてはわが幸福中の第一なりと謂ふべきならむ、予生来身体強健ならず膂力なきが故に人と爭ひ人を傷けしことなし、家に些少なれど恒産あるを以て金銭のことにて人に迷惑をかけたることなし、女好きなれど處女を犯したることなく又道ならぬ戀をなしたる事なし、五十年の生涯を顧みて夢見のわるい事一つも為したることなし、是亦幸なる身の上なりと謂ふべし、東の窓少しあかるくなり牛乳配達夫の木戸あける音の聞えたれば、除夜の繰言もまづこのくらゐにして五十一年の春を迎ふべしと云ふ、
テキスト整形のルールを表示する