&aname(d19400107){一月七日。}; 晴れてあたゝかなり。薄暮門を出でむとするに細雨道を潤すを見る。尾張町三越にて葡萄酒を購はむとするに舶来品は拾円以上となりたれば、和製一壜{金弐円}を購ふ。石鹸歯磨等いよいよ和製のみとなれり。わが家には英国製シヤボン猶十個位はあるべし。酒類もキユイラツソオ、ブランデイ、オリイブ油など各一壜ウーロン茶は三四斤位のたくはへあり。[[*>摘々録断腸亭日乗から]]

&aname(d19400108){昭和十五年一月八日。}; 晴。風はげしく塵烟濛々たり。昼飯の時昨日購ひたる和製葡萄酒をこゝろみるに稀薄水の如く滋味更になし。壜の形とレツテルの色のみ舶来品に似たるも可笑し。午後物買ひにと銀座に行く。煙草屋にもマツチなき店次第に多くなれり。飲食店にて食事の際煙草の火を命ずる時給仕人マツチをすりて煙草に火をつけ、マツチの箱はおのれのポケツトに入れて立去るなり。[[*>摘々録断腸亭日乗から]]

&aname(d19400114){一月十四日。}; 晴後に陰。鄰家のラヂオ正午より喧噪を極むるを以て日曜日なるを知る。薄暮銀座食堂に飯して三越にて物買はむとする時偶然歌川氏に逢ふ。日耳曼(ゲルマン)茶房に入りて款語す。又図らず高橋邦氏の来るに逢ふ。街上又たまたま杉野昌甫氏の来るに逢ひ汁粉屋梅林に憩ふ。裱匠阿部氏在り。此日黄昏西銀座難波橋北詰に火災あり。附近の妓家皆弓張提灯を出せり。諸氏と共に焼跡を見る。阿部氏のはなしにこの処は数年前銀栖鳳(せいほう)といふ酒亭の火災に女中の焼死せし不吉の地なり。曾て或妓家にて老猫を殺したる祟りなりと云ふ。

〔欄外朱書)夜内閣更迭の号外出づ。[[*>摘々録断腸亭日乗から]]


トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS