&aname(d19171101){十一月朔};。築地三丁目に手頃の売家ありと聞き、早朝徃きて見る。桜木の近鄰なり。立寄りて[[寿美子]]を招ぎ昼餉を食して家に帰る。
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&aname(d19171101){十一月一日。};

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&aname(d19171102){十一月二日。};

&aname(d19171102){十一月二日};。午後[[唖々]]子来談。雑誌花月今日まで売行さして悪しからざる様子なりしが京橋堂精算の結果毎月弐拾円程損失の由。依つて十二月号を限りとして以後廃刊することに决す。雨烈しく降り出で夜もふけたれば後始末の相談は他日に譲り、唖々子車にて帰る。
&aname(d19171103){十一月三日。};快晴。南伝馬町太刀伊勢屋に徃き石州半紙一〆を購ひ、帰途米刃堂を訪ふ。

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&aname(d19171104){十一月四日。};大雨。断膓亭襍稾表帋板下絵を描く。

&aname(d19171103){十一月三日};。建物会社より通知あり。この度は築地二丁目の売家を見る。南風吹きて暖なり。
&aname(d19171105){十一月五日。};晴。[[山茶花]]開く。菊花黄紅紫白の各種爛漫馥郁たり。八ツ手の花もまた開く。午後水仙蕃紅花の球根を地に埋む。

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&aname(d19171106){十一月六日。};夜[[唖々]]子来訪。晩風漸く寒し。虫の音全く後を絶しが、家の内薄暗きところには猶蚊のひそめるあり。

&aname(d19171104){十一月四日};。隂。石榴の実熟す。楓葉少しく霜に染む。
&aname(d19171110){十一月十日。};今年は去月の暴風にて霜葉うつくしからず。此の頃に至りて楓樹の梢少しく色づきたれど其の色黒ずみて鮮ならず。

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&aname(d19171112){十一月十二日。};快晴。[[樫]]の芽ばへを日あたりよき処に移植す。

&aname(d19171105){十一月五日};。雨。モレアスのヱスキス、エ、スーブニルを取出して再読す。この書近世仏蘭西抒情詩家の随筆中、余の最も愛読して措かざるものなり。
&aname(d19171113){十一月十三日。};小説[[腕くらべ]]を訂正し終りぬ。午後三十間堀の酒亭寿々本に徃き、庭後唖々の二子と飲む。

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&aname(d19171115){十一月十五日。};断膓亭襍稾印刷校正に忙殺せらる。夜唖々子来談。

&aname(d19171106){十一月六日};。雨ふる。明治史要武江年表を見る。
&aname(d19171116){十一月十六日。};鵯毎朝窗外の[[梅もどき]]に群り来る。余起出ること晩きが故今は赤き実一粒もなくなりたり。

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&aname(d19171121){十一月廿一日。};断膓亭襍稾校正終了。下婢を銀座尾張町義昌堂につかはして水仙を購ふ。

&aname(d19171107){十一月七日};。隂天。心倦みつかれて草稾をつくる気力なし。
&aname(d19171121){十一月廿二日。};毎日天気つゞきにて冬暖甚病躯に佳し。午後市ヶ谷辺を散策す。古道具屋にて三ッ抽出し古箪笥を購ふ。余以前は箪笥あまた持ちたるに一棹は代地河岸にて失ひ、又重箪笥二棹は宗十郎町にて奪はれ、今はわが衣服を入るゝに西洋トランクと支那文庫とあるのみ。日常使用に不便なれば已むことを得ず新に購求めしなり。代価参円半。

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&aname(d19171123){十一月廿三日。};晴天。満庭の霜葉甚佳なり。[[萩芒]]の枯伏したる間に[[鵯]]二三羽来りて枯葉を踏む。其の音さながら怪しき者の忍寄るが如き気色なり。晩間寒雨瀟瀟として落葉に滴る。其声更に一段の寂寥を添ふ。再びおかめ笹の稿をつぐ。

&aname(d19171108){十一月八日};。午後三十間堀の春日に徃き[[延園]]を招ぎ清元落人をさらふ。
&aname(d19171129){十一月廿九日。};両三日寒気強し。樹陰日光に遠きあたり霜柱を見る。今暁向両国相撲小屋跡菊人形見世物塲より失火。回向院堂宇も尽く焼亡せしと云ふ。西大久保母上の許より昆布佃煮を頂戴したり。

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&aname(d19171130){十一月三十日。};この頃小蕪味ひよし。自ら料理して夕餉を食す。今朝肴屋の半台にあなごと海鼠とを見たり。不図思出せば廿一二歳の頃、吉原河内楼へ通ひし帰途、上野の忍川にて朝飯くらふ時必ずあなごの蒲焼を命じたり。今はかくの如き腥臭くして油濃きものは箸つける気もせず。豆腐の柔にして暖きがよし。夜明月皎皎たり。

&aname(d19171109){十一月九日};。明治初年の風俗流行の事を窺知らむとて諸藝新聞を読む。
[[*>青空文庫から]]
RIGHT:→[[大正6年12月]]

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&aname(d19171110){十一月十日};。浜町河岸日本橋倶楽部にて清元一枝会温習会あり。余落人を語る。

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&aname(d19171111){十一月十一日};。昨夜日本橋倶楽部、会塲吹はらしにて、暖炉の設備なく寒かりし為、忽風邪ひきしにや、筋骨軽痛を覚ゆ。体温は平熱なれど目下流行感冒猖獗の折から、用心にしくはなしと夜具敷延べて臥す。夕刻建物会社々員永井喜平来り断膓亭宅地買手つきたる由を告ぐ。

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&aname(d19171112){十一月十二日};。吉井俊三といふ人[[戸川秋骨]]君の紹介状を携へ面談を請ふ。居宅譲受けの事なり。夕刻永井喜平来る。いよ/\売宅の事を諾す。感慨禁ずべからず。

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&aname(d19171113){十一月十三日};。永井喜平来談。十二月中旬までに居宅を引払ひ買主に明渡す事となす。此日猶病床に在り諸藝新聞を通覧す。夜大雨。

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&aname(d19171114){十一月十四日};。風邪未痊えず。

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&aname(d19171115){十一月十五日};。階前の蝋梅一株を雑司ヶ谷先考の墓畔に移植す。夜半厠に行くに明月昼の如く、枯れたる秋草の影地上に婆娑たり。胸中売宅の事を悔ひ悵然として眠ること能はず。


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&aname(d19171116){十一月十六日};。欧洲戦争休戦の祝日なり。門前何とはなく人の徃来繁し。猶病床に在り。書を[[松莚]]子に寄す。月明前夜の如し。

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&aname(d19171117){十一月十七日};。雨ふる。午前五来素川氏来訪せらる。雑誌大観に寄稿せよとのことなり。午後より座右のものを取片づけ居宅引払の凖備をなす。夕刻[[唖々]][[湖山]]の二子来る。唖々子湖山子の周旋にて毎夕新聞社に入りしといふ。花月はいよ/\十二月かぎりにて廃刊と決す。


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&aname(d19171118){十一月十八日};。早朝より竹田屋の主人来り、兼て凖備せし蔵書の一部と画幅とを運去る。午後数寄屋橋歯科医高島氏を訪ひ、梅吉方に赴き、十二月納会にまた/\出席の事を約す。明烏下の段をさらふ。此日晴れて暖なり。

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&aname(d19171120){十一月廿日};。本年秋晩より雨多かりし故紅葉美ならず、菊花も亦香気なし。されど此日たま/\快晴の天気に遇ひ、独り間庭を逍遥すれば、一木一草愛着の情を牽かざるはなし。行きつ戻りつ薄暮に至る。

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&aname(d19171121){十一月廿一日};。午前薗八莭けいこに行く。この日欧洲戦争平定の祝日なりとて、市中甚雑遝せり。日比谷公園外にて浅葱色の仕事着きたる職工幾組とも知れず、隊をなし練り行くを見る。労働問題既に切迫し来れるの感甚切なり。過去を顧るに、明治三十年頃東京奠都祭当日の賑の如き、又近年韓国合併祝賀祭の如き、未深く吾国下層社会の生活の変化せし事を推量せしめざりしが、此日日比谷丸の内辺雑遝の光景は、以前の時代と異り、人をして一種痛切なる感慨を催さしむ。夜竹田書店主人来談。

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&aname(d19171122){十一月廿二日};。※(「こざとへん+(人がしら/髟のへん)」、第4水準2-91-70)天。先考の詩集来青閣集五百部ほど残りたるを取りまとめて、威三郎方へ送り届く。夜清元会に行く。適葵山人の来るに逢ふ。大雨となる。

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&aname(d19171123){十一月廿三日};。[[花月楼主人]]を訪ふ。楼上にて恰も清元清寿会さらひありと聞き、会場に行きて見る。菊五郎小山内氏等皆席に在り。

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&aname(d19171124){十一月廿四日};。洋書を整理し大半を売卻す。此日いつよりも暖なり。

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&aname(d19171125){十一月廿五日};。晴天。寒気稍加はる。四谷見附平山堂に赴き家具売却の事を依頼す。

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&aname(d19171126){十一月廿六日};。[[春陽堂]]番頭予の全集表帋見本を持来りて示す。平山堂番頭来り家具一式の始末をなす。売却金高一千八百九拾弐円余となれり。

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&aname(d19171127){十一月廿七日};。建物会社々員永井喜平富士見町登記所に赴き、不動産譲渡しの手続を終り、正午金員を持参す。其額弐万参千円也。三菱銀行に赴き預入れをなし、築地の桜木に立寄り、夕餉をなし、久米氏を新福に訪ひ、車を倩ひて帰る。

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&aname(d19171128){十一月廿八日};。[[竹田屋主人]]来る。倶に蔵書を取片付くる中突然悪寒をおぼえ、驚いて蓐中に臥す。

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&aname(d19171129){十一月廿九日};。老婆[[しん]]転宅の様子に打驚き、新橋巴家へ電話をかけたる由、昼前[[八重次]]来り、いつに似ずゆつくりして日の暮るゝころ帰る。終日病床に在り。

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&aname(d19171130){十一月三十日};。[[八重次]]今日も転宅の仕末に来る。余風労未癒えず服薬横臥すれど、心いら立ちて堪えがたければ、強ひて書を読む。


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