十月初五{日曜/日} 晴れて蒸暑し。気候の不順甚し。中秋の月を観むとて浅草に徃く。夕方六時過月は吾妻橋?の真上にあり。公園に入るに日曜日の人出多く酔漢また少からず。仲店の敷石に嘔吐するものあり。二本ならでは見られぬことなるべし。オペラ館昼間より大入にて大入袋一円八拾銭の由踊子の語る所なり。 十月初六。陰。残暑再来る。晩間土州橋に至る。
十月初七。午後驟雨。 十月十八日。九段の祭礼なれば例年の如く雨ふり出して歇まず。この日内閣変わりて人心更に洶々たり。日米開戦の噂益盛んなり。 十月十九日。青空隈なく晴渡りて風もなし。昼飯食ひし皿小鉢も洗はずそのままにして家を出づ。足の向くまままたもや小石川の故里を歩む。牛天神?より伝通院?の境内に少憩し電車にて同心町?竹早町?の通を大塚仲町?に至る。法華寺?善心寺?に栗本鋤雲?の墓あることを思い出し寺の門を入る。この寺の僧盆栽を好むとおぼしく数年前来りし時には本堂の前に植木棚をつくり皐月躑躅花の鉢を数知れず並べたるを見しが、この度は菊の鉢を置きつらねたり。 |