六月初二 晴れて暑し。正午華氏八十度ほどなり。晡下レコードの事につき浅草公園森永喫茶店に至り菅原安東永井の諸氏と会談す。オペラ館閉場後永井菅原の二氏と中西喫茶店に会合し映画構成の相談をなす。相携へて芝口の或喫茶店に主人黒崎氏を訪ふ{菅原君の門人なり}永井を谷中の家に送り浅草を過ぎてかへる。*
昭和十三年六月廿二日 始めて霽る。風邪門を出でず。午後平井君来話。日記三巻四巻を交附す。夜永井智子菅原君相携へて病を問はる。*
▼船の上
さすらひの身をな嘆きそ
人の世は
ゆらるゝ夢のさだめなし。
をさなき時は母の手に
ゆられて眠るひざの上
むすめとなりて恋知れば
夢はゆらるゝ窓の風。
ふるさと遠しさすらひの
旅をな泣きそ人の身は
いつもゆらるゝ夢のかげ
行衛はいづこ雪の影。
涙
泣かねばならぬ悲しい事も
泣くならせめて二人して。
二人で泣けば悲しい事も
心に残る思出
消えずに残る思出
やがて嬉しい夢になる
泣かねばならぬ悲しい事も
泣くならせめて二人して。
二人で泣けば悲しい事も
泣いてゐるうち忘られる
せめてまぎれて忘られる
涙なふきそこぼれても