七月朔。朝高見沢といふ人水上瀧太郎氏の紹介状を持ち面談を請ふ。浮世絵飜刻の事につきてなり。 七月三日。梅雨あけて炎暑の日来る。 七月五日。痔疾一時再発の虞ありしが全く癒えたり。晩涼を追ひ銀座を歩む。虫屋にて邯鄲を買ふ。その価壱円なり。 七月六日。案頭の寒暑計華氏八十四度を示す。春陽堂開化一夜草礼金壱百五拾余円を贈来る。 七月七日。麻布四ノ橋の新劇塲?を看る。但し玄文社合評会の為めなり。 七月九日。炎暑。 七月十日。午後驟雨あり。 七月十三日。夜井阪氏宅にて帝国劇塲の宇野?邦枝久米氏等と会す。涼風あり。 七月廿一日。例年の如く水道の水不足となる。 七月廿三日。午後雨ふる。毎日の炎暑に枯れかゝりし草花忽ちよみがへりぬ。 七月廿四日。風雨。 七月廿六日。稍涼し。 七月廿七日。銀座松島屋にて老眼鏡を購ふ。荷風全集ポイント活字の校正細字のため甚しく視力を費したりと覚ゆ。余が先人の始めて老眼鏡を用ひられしも其年四十二三の時にて、余が茗渓の中学を卒業せし頃なるべし。余は今年四十二歳なるに妻子もなく、放蕩無頼われながら浅間しきかぎりなり。 七月三十日。風ありて涼し。 七月卅一日。西風颯々、夜凉秋の近きを知らしむ。夕顔の花白し。 |