十一月朔。花火の音聞ゆ。明治神宮祭礼なるべし。 十一月三日。雨。 十一月四日。空晴れて暖なり。いかにも小春らしき天気なり。 十一月六日。玄文社合評会のため、帝国劇場に幸四郎?の国性爺、段四郎の甘輝を見る。 十一月九日。執筆興なし。読書に日を消す。 十一月十日。虎の門金毘羅の縁日なり。草花を購ふ。 十一月十一日。書篋の蓋の破れしをつくろひ、愛誦の唐詩を題す。 十一月十三日。飯倉通にてセキセイ鸚哥を購ふ。一トつがひ十四円なり。先年大久保に在りし頃、九段阪小鳥屋にて買ひし折には七八円と覚えたり。物価の騰貴鳥に及ぶ。人才の価は如何。 十一月十四日。日々寒気加はる。 十一月十五日。晴れてあたゝかなり。神田仏蘭西書院にてジユール・ロマンの詩集「欧羅巴」其他数巻を購ふ。この頃創作興至らず。新刊の洋書を読むで日を送る。弦月夜々書窗を照す。 十一月十六日。近巷の岨崖黄葉を見るによし。漫歩すること半日。 十一月十八日。氷川境内の黄葉を見る。 十一月十九日。快晴。母上来訪。山形ホテル食堂に晩餐を倶にす。深更雨声頻なり。 十一月廿日。隂。 十一月廿一日。全集第六巻梓成る。 十一月廿二日。三河台辺散歩。 十一月廿五日。郡虎彦英国より帰る。松莚子小山内氏等と東仲通の末広に郡氏を招飲す。 十一月廿八日。松莚子に招がれ竈河岸の八新亭に飲む。夜暖にして月あり。 十一月廿九日。近巷岨崖の雑草霜に染みたるあり。既に枯れたるあり。竹藪には烏瓜あまた下りたり。時に午雞の鳴くを聞く。景物宛然として村園に異ならず。 十一月三十日。霊南阪上に広濶なる閑地あり。霜枯れしたる草の間に菫らしき草あるを見、採り来りて庭に植ゆ。昨夜十一時浅草公園御国座焼亡せし由。 |