六月一日。曇りて蒸暑し。始めて鮎を食す。 六月三日。雨ふる。午前花月第三号草稿執筆。午後常磐木倶楽部訪諏商店浮世絵売立会に赴き巨川一枚。清長一枚{以上板物}俊満筆画幅。栄之画幅。蜀山人書幅を購ふ。夜所蔵の浮世絵を整理す。 六月十三日。晴天。梅もどきの花開く。香気烈しく虻集り来ることおびたゞし。湖山人手紙にて句を請はれたれば短冊を郵送す。 六月十四日。花月編輯のため唖々子重て来庵。夕刻まで新福亭主人の草稾を待ちしが到着せざるを以て別に催促をなさず。そのまゝに打棄て置きぬ。夜風冷にして心地よからず。 六月十六日。日曜日。夕方久米氏来訪。井阪梅雪氏現のせうこを請はるゝ由を告ぐ。後園に栽培したる薬草を摘み久米氏に托して贈る。 六月十七日。この頃腹具合思はしからず。築地に行きしが元気なく三味線稽古面白からず。 六月十八日。陰晴定りなく雨ならむとして雨来らず。蒸暑し。夜机に憑る。四鄰蕭条。梅の実頻に屋根の瓦を撲ち庭に落る響きこゆ。 六月二十日。午後大雨の中唖々子来る。花月校正のためなり。夜に至り雨ます/\烈し。鼬頻に庇を走る音す。 六月廿三日。曇りて夜雨ふる。 六月廿五日。井阪梅雪子より短冊を請はれゐたれば揮毫して郵送す。風俗画報東京名所案内を読む。夜雨あり蛙声戞々。 六月廿八日。有楽座一枝会温習会。梅之助三味線にてお染を語る。桟敷後の方にてもよく聞えたる由なり。 |