十月廿日。午前大嶋隆一氏祖父柳北成嶋先生手沢?の日誌書簡を古き革包に収め、来り訪はる。日誌は嘉永六年に始り明治十七年に終る。大嶋氏去りし後、直に日誌を読みて覚えず日暮に至る。銀座に行きて夕餉を食し帰宅後また日誌を繙き深更に及ぶ。霜露漸く寒く月明昼のごとし。
十月卅一日。病稍良し。終日柳北の硯北日録を筆写す。晡下太訝に飰す。帝国劇場作者林矢嶋?の二氏に逢ふ。食後木挽町に往き初日の景況を見る。偶然巌谷先生父子に逢ふ。小波先生廿八日布哇に向ひ横浜を出港せられしが、乗船浅瀬に乗り上げ、一時上陸帰宅せられ、十一月四日再渡航の由なり。帰途太訝の婢お久に逢ふ。此日晴れて風寒し。