三月一日。松莚子邸招飲。主人さる処にて抱一宗因二古人の短冊を獲たりとて示さる。宗因の句に曰くいもよ/\先月を売る夕かな。抱一の句に曰く人の気もほころびそめて初ざくら。 三月二日。風はげしく春未暖かならず。川尻清潭子に拍子記一巻を送る。徃年歌舞伎座楽屋にて狂言竹芝七造より借りて写せしものなり。 三月三日。松莚子に招かれ風月堂にて晩餐をなす。芝鶴莚若も共に来る。食事中 三月四日。快晴。 三月五日。歌舞伎座舞台ざらひを見る。松莚子シーザー及富樫に扮す。風はげしく寒気甚し。午後深川遊廓焼亡すといふ。 |