七月一日。滛雨晴る。風吹き出でゝ庭樹をうごかす。 七月三日。晴天。炎暑襲ひ来れり。 七月四日。アンドレヱヂイドの小説パリユードを読む。感歎措く能はず。 七月五日。快晴。涼風水の如し。 七月六日。曇りて蒸暑し。毎日読書晩涼の来るを俟つ。身世淡々凡て興なし。 七月七日。炎暑甚し。 七月八日。夜雨ふる。涼味襲ふが如し。 七月九日。雨ふりて風冷なり。 七月十日。有楽座例年の如く文楽座人形芝居を興行す。古靭太夫?が良辨杉の段を聴いて暗涙を催したり。母子の愛を題材となすもの、丸本には類例もとより尠しとせず。されどこの良辨杉の如く、直接深刻に母子再会の情を現せしものは稀なるべし。余故あつて日々慈顔を拝すること能はず。此の浄瑠璃をきいて感動措く能はざるなり。 七月十三日。西風颯々涼気秋に似たり。窗を開いて書を曝す。 七月十四日。有楽座人形芝居二ノ替を見る。平岡君に逢ひ、自働車を山の手の狭斜に走らす。 七月十五日。炎熱日に日に盛なり。困憊甚し。 七月十七日。雑誌国粋の記者清果一籃を贈り来りて寄稿を請ふ。〔朱書〕{小品文砂糖を寄稿す} 七月十八日。連夜人形芝居を看る。 七月廿一日。驟雨雷鳴。 七月廿二日。驟雨あり。 七月廿三日。天候いよ/\穏ならず。両国川開中止となる。 七月廿四日。降続きし雨深更に至り益々甚し。明治四十三年秋隅田川暴漲の事を想出しぬ。翁家の富松も既になき人の数に入りぬ。 七月廿五日。久振りにて清元会を聴く。夕陽明媚なりしが初更の頃より雨また沛然たり。 七月廿六日。隂晴定まらず。時々微雨あり。虫声を聞く。 七月廿七日。雨ふる。 七月廿八日。木曜会に徃く。帰途始めて月を見る。 七月三十日。浅草散歩の途上古書肆浅倉屋を訪ひしが獲るところなし。 |