二月朔。今年は大寒に入りてより益暖なり。鄰家の冬至梅既に満開なり。 二月二日。温暖頭痛を覚るばかりなり。全集第五巻校正甚多忙。夜に至りて俄に寒し。 二月三日。雪ふる。 二月四日。立春。 二月五日。雪後天気あたゝかなり。 二月六日。フランスの小説イストワル・コミツクを読む。 二月八日。春寒甚し。 二月九日。微恙あり。 二月十日。風邪。門を掩て出でず。 二月十一日。風邪痊えず。細雨残雪に滴る。庭上の光景甚荒涼。 二月十二日。雨歇まず。 二月十三日。晴。 二月十五日。風労猶痊えず。 二月十六日。雪まじりの雨なり。 二月十七日。木曜会。 二月十八日。午後三才社に徃かむとせしが風塵甚しければ虎の門より帰る。 二月十九日。晴れて暖なり。我善坊谷上、宮内省御用邸裏の石垣、東向きにて日あたり好く石垣の間より菫蒲英公[#「蒲英公」はママ]の花さき出でたり。仙石山を過ぎ電車に乗りて神田小川町仏蘭西書院に赴く。 二月二十日。晴天。去年栽えたる球根悉く芽を発す。 二月廿二日。早朝雪降りしが須臾にして歇む。日永くなりて薄暮の庭に雀多く来る。 二月廿三日。晴天。午後中洲病院に赴き、健康診断を乞ふ。白木屋にて毛布二枚を購ふ。夜具追々破れ来りしかど、此頃の女中には針持ち得ぬもの多くなりたれば、寝具も追々西洋風にかへるつもりなり。 二月二十四日。木曜日。夕刻より雨雪となる。 二月二十六日。明治座稽古。夜杵屋勝四郎来る。拙作夜網誰白魚上場につき、之に使ふべき独吟鳴物の相談に来りしなり。春風日に従つてあたゝかなり。 二月二十七日。早朝より門前に児童の打騒く声きこゆ。即日曜日なるを知る。 二月二十八日。風暖なり。銀座に徃き鳩居堂にて細筆五十本ほど購ふ。堀口大学レニヱーの著ヱスキツス[#「ヱスキツス」はママ]・ヱニシヱンを郵送し来る。開封して直に読む。 |