十一月朔。昨夜雷雨晴れてより天候始めて順調となる。久雨のため菊花香しからず。 十一月四日。夜半地震あり。 十一月五日。百合子来る。風月堂にて晩餐をなし、有楽座に立寄り相携へて家に帰らむとする時、街上号外売の奔走するを見る。道路の談話を聞くに、原首相東京駅にて刺客の為に害せられしと云ふ。余政治に興味なきを以て一大臣の生死は牛馬の死を見るに異ならず、何等の感動をも催さず。人を殺すものは悪人なり。殺さるゝものは不用意なり。百合子と炉辺にキユイラツソオ一盞を傾けて寝に就く。 十一月六日。晴。風なし。百合子酉の市を見たしといふ。唖々子を誘ひ三人自働車にて北廓に徃き、京町相萬楼に登り一酌して千束町を歩む。たま/\猿之助が家の門前を過ぐ。毎年酉の市の夜は、猿之助の家にては酒肴を設けて来客を待つなり。立寄りて一酌し、浅草公園を歩み、自働車にて帰宅す。この夜明星晩餐会ありしが徃かず。 十一月九日。仏蘭西書院より Gide: La Symphonie Pastorale, App[#「pp」に「〔ママ〕」の注記]ollinaire: Alcools. の二書を送来る。 十一月十二日。有楽座に長田秀雄の作先夫の子を観る。 十一月十三日。連日快晴。暖気春の如く夜は月光昼のごとし。 十一月十四日。七草会なり。席上にて小山内君新作脚本の朗読をなす。 十一月十八日。大演習の由。飛行機の響鳴りわたりて小春の空ものどかならず。 十一月十九日。快晴。 十一月二十日。快晴。 十一月廿一日。戯に偏奇館画譜を描く。 十一月廿二日。晴天半月余に及べり。此の夕たま/\微雨あり。 十一月廿三日。朝寒気甚し。窓を開くに屋上の繁霜雪の如し。 十一月廿五日。猿之助の春秋座招待状を贈来りしが、寒気甚しきが故徃かず。 十一月廿六日。花月主人素人写真展覧会を催さむとて、三越呉服店事務員及余等両三人を京橋角東洋軒に招飲す。 十一月廿七日。快晴。寒気厳冬の如し。夜明星第三号の草稾をつくる。 十一月廿八日。清元会の帰途平岡松山の二画伯と赤阪の長谷川に徃く。岡田画伯?水上瀧氏既に在り。是日午後より酒を置いて棋に対すといふ。此夜風暖にして淡烟蒼茫たり。 十一月廿九日。晴れてあたゝかなり。 |