乃木坂の「君の名は希望」は悲しい名曲(あるいは最高のキモ曲)

戸谷洋志先生という若手の哲学の先生が『Jポップで考える哲学』っていう本を出版されたので、ポップ音楽大好き哲学ちょっと好きとしてさっそく読んでみました。歌詞の分析ものは好きなんよね。流行音楽の歌詞使いながら、大陸系の哲学っていうか実存主義系の哲学を紹介していく、っていう趣向で、そういう哲学に興味ある人はぜひ読んでみるといいと思います。選曲がなるほどって感じで(私の好みとは違うけど)おもしろかったです。

こういうのは実際にその音楽聞いてみないとなんないのでそれぞれ聞いてみているのですが、乃木坂の「君の名は希望」っていうのは驚くほど名曲でしたね。アイドル関係ぜんぜん知らなくて今回はじめて聞いたんですが、とても強い印象を受けました。ツイッタでつぶやいたら、数人「それ評判の名曲っす」みたいな反応してくれて、なるほど。

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非常に感心したので、私なりになにを聞いたか、っていうのを書いてみたい。

歌詞はここ。 http://j-lyric.net/artist/a0560d3/l02c306.html

僕が君を初めて意識したのは
去年の6月 夏の服に着替えた頃
転がって来たボールを無視していたら
僕が拾うまで
こっちを見て待っていた

これが中学なのか高校なのか、っていうのがまず興味深いところですね。どっちがいいんですかね。私は最初中学生2年か3年かって思いました。

制服が夏服になったってことなんでしょうけど、これ男子的にぐっと来るところがあると思うんですわ。女子高生の制服好きでしょうがない、とかって先生がネットで話題になってましたが、まあそういうの抜きにしても、夏服になると女子の体の線とかが下着とかがわかりやすくなってあれだ、っていう人はいるでしょうな。中学1、2年生男子ってそういう感じ。女子から見るとここらすでにキモいかもしれないっすな。

ボールがなんのボールかってのもよくわからないけど、すぐあとにグラウンドの話が出てくるから、ソフトボールぐらいっすかね。その場合は女子は制服じゃなくてユニフォームなる気がする。あるいは外や屋上でバレーボールとかしてたのかなあ。いやまあソフトボールぐらいで。テニスだと「コート」になるわね。

この「拾うまでこっちを見て待ってた」っていうのをどう解釈するかが最大のキーですわね。「すみませーん、お願いしまーす」、顔見知りだったら「ごめーん」ぐらいがふつうだと思うんだけど、そういう声がかからない。「こっちを見て待ってた」って本人は理解しているけど、キモくて近づけないのかもしれない。

しかし女子っていうのはもう一方のタイプがいて、男子は自分の言うことを聞くのが当然である、のような態度をとる人も少数ですがいますわね。なんでさっさと拾わないのよ。拾うまで睨んでやる。エヴァンゲリオンのアスカみたいなタイプ。どっちなんかね。私はアスカ連想しました。

透明人間 そう呼ばれていた
僕の存在 気づいてくれたんだ

この少年は非常に気が弱いし、なにも目立つところがない。なにか特別なところがあればとりあえず透明ではなくなるからね。口数少ないし、なにより友達も少ない。っていうか友達いないんちゃうか。なぜ友達いないのにグラウンド(あるいは屋上か)に一人でいるのか。

暑い雲のすき間に光が射して
グラウンドの上
僕にちゃんと影ができた

これすばらしいですね。秋元先生は天才的だと思う。私雪国で育ってて、雪国では冬の間は影がなくなっちゃうのね。曇りが多いし、雪の上では影はっきりしない。雪の乱反射が、太陽の光より強いからか、影できてもくっきりしないんよ。中学生のときにはじめて2月末ぐらいに東京に行ったら、雪がなくて影があってものすごい新鮮でしたね。「おう、久しぶり」みたいな。

この歌詞では、上の戸谷先生が指摘しているように、ボールをはさんで女子に「そこにいるな」って思ってもらうことによって、透明人間じゃなくなってはっきりした影のある人物になったわけですわね 1)ただ、最初この歌詞聞いたときにはわからなかったけど、ここは仕掛けがあるかもしれなくて、「影」は「陰」(かげ)でもあるかもしれない。表も裏もある人間になったとか、邪悪な欲求に目覚めたとか。ははは。でも恋愛ってそういうところあるじゃないっすか。ないっすか。まあ「ちゃんと」影ができたんだからまあふつうに解釈した方がいいっすね。 。でももし女子がアスカだったら、名前もなにもおぼえてないでしょうね。ただのその他大勢の名無しの下僕の一人。

いつの日からか孤独に慣れてたけど
僕が拒否してた
この世界は美しい

ここ見るとまあ中学生じゃなくて高校生なのかな、っていう感じもします。ゲーテのファウスト先生っすね。この「世界は美しい」って感じいいですよね。あれじゃないすか。秋冬に調子悪いときは灰色に見えてるけど、初夏とかで調子あがってくると山の緑とかがぐっとものすごく鮮かに見えたりするじゃないっすか。そういう感じ。

こんなに誰かを恋しくなる
自分がいたなんて
想像もできなかったこと
未来はいつだって
新たなときめきと出会いの場

ポジティブでいいっすね。ところがこのあとの

君の名前は「希望」(きぼう)と今知った

が気になりますね。ふつうはノゾミさんだよねえ。そして「今」ってのはいつなんだろうか。これが最大の謎。

わざと遠い場所から君を眺めた
だけど時々 その姿を見失った
24時間心が空っぽで
僕は一人では
生きられなくなったんだ

まあ遠くから見る感じね。憧れの女子。でも、時々遠くから見てうれしい、って思うんじゃなくて、四六時中(っていうか「24時間」)じーっと見てて見失うわけっす。ちょっとあれですね。おそらく一言も会話したことさえないんじゃないだろうか。名前さえ知らないんだし。そうなるとこの「愛」って何なんだかどうだかよくわからんわねえ。

んでコーラスくりかえし。やはり「今知った」の今がいつなのか気になる。この歌が発売されたのは3月らしくて、実は卒業ソングらしいわけです。卒業式で「〜希望くん、おめでとう」とかやったときにやっと名前を知ったということですかね。まあ「ノゾミちゃん」だけど漢字で「希」か「望」か「望美」かわからんなあ、とか思ってたら「希望」って書くのかあ、ぐらいですか。でもそれにしても去年の6月に「素敵だな」って思って、3月までずーっと見てるのに、名前さえ知らない、っていうのはこれはかなりやばいのではないか。へたすると1年半?もっと?

孤独より居心地がいい
愛のそばでしあわせを感じた

人の群れに逃げ込み紛れても
人生の意味を誰も教えてくれないだろう
悲しみの雨 打たれて足下を見た
土のその上に
そう確かに僕はいた

ここもいいですね。この少年は、雲間から日が射してきてもすぐに地面の影を見るし、雨に打たれても雨や前方を見るんじゃなく、地面を見る。いつもうつむいている。いいねえ。

ここらへんから、この曲なにがそんなに私にうったえかけるのか、って考えたら、この曲、曲調はいちおう全体に単純なメジャーコードで埋めつくされてるけど、すごく否定形の表現が多いんですね。心理学とかでは、発言や書いた文章のなかにどれくらいポジティブな言葉やネガティブな言葉が入ってるかを数えて性格を評定する、っていう手法があります。

この歌詞見てみてみると、「拒否」「できない」「見失なう」「空っぽ」「生きられない」「逃げ込む」「紛れる」「教えてくれない」「雨」「切ない」「振り向かない」「叫び」「想像もできない」とかものすごく否定や限定が多くて、半分ぐらいの行はそうですね。これは多い。「忘れない」のようなポジティブな内容のも否定形になってる。こういうの、肯定の「おぼえてるよ」って表現する人はポジティブだと思う。

もし君が振り向かなくても
その微笑みを僕は忘れない
どんな時も君がいることを
信じて まっすぐ歩いていこう

楽曲的にはここものすごくいいですね 2)検索したら、この曲ソナタ形式だとかって書いてる人がいるけどそうではない。 。乃木坂のメンバーの最高音域つかって、声がちょうどひっくりかえってしまうところで、「もし振り向いてくれなくても」「どんなときも」って思いっきり言わせていて、テンパってる感じがいい。

んで最後のコーラスに行くんだけど、その前の「真実の叫びを聞こうさあ」んところで転調して半音高くなってますね。よくある手法ではあるんだけどすごく効果的で、私何回聞いてもここで感動しますね。作曲の先生にやられたって感じ。

友達が一人でもいれば、「あの子の名前なんての?どこのクラス?」ぐらい聞けるわけじゃないっすか。「え、なんだよ、お前A組のノゾミ興味あるの?人気あるぜ、高校生とつきあってるとかって話」「えーノゾミ知らねーの? この前オーデション受けたってよ」みたいな話ぐらいするだろうに、そういう友達もいないまま。私には、「君の名希望と今知った」っていうのはほんとうに絶望的な言葉のような気がします。明日にはもしかしたら希望があるかもしれないけど、いまここには、いまごろ名前を知った、名前さえ知ることができなかったという絶望しかない。

いちおう3回歌われるサビの部分(「こんなに誰かを〜」の部分)はメジャーコード(Eb、最後はE)に解決してるんだけど、1回目はストレートだけど2回目はメジャーのあとにFmとかGmとかにすぐマイナーにチェンジしてるし、最後もウワーってメジャーで終りそうなところをやっぱりC#mとかのマイナーコーオはさんでから「明日の空 うぉうぉうぉ」ってあんまりハッピーじゃなく終ってるっしょ。これはメジャーな印象とはうらはらに、ものすごい悲しい歌っすよ。でもそれでも我々はまっすぐ歩いていかなくちゃならんのです。

さて、まあこれ主人公が中学生ぐらいの少年ってのでやってきましたが、それを示唆する情報はぜんぜんないのね。気の弱い少年が街の人込みに紛れ込むなんてことがあるのかどうかもよくわからない。そういう子は、学校終ったらすぐ家に帰るんじゃないだろうか。いやな感じになってきましたね。

たとえば主人公がいろんなことに絶望している50才独身男性、ってことだってあるわけです。なんで学校のグランドの片隅にいたのかはわからないけど。それだったら名前知らなくてもしょうがないですよね。そんで24時間監視してたのか。やばい。そうなると「今知った」の「今」っていつやねんという話になり、実は私これくりかえし聞いて3回目ぐらいに、ホラー映画のクライマックスで流れてたら最高だな、みたいなの考えてた。こわいよ。

まあこういう含みがあるのでこの曲はファンの間ではキモ曲ということになってるらしいですなあ。

まあアイドルとアイドルオタの関係についての歌でもあるんでしょうね。素敵な向こうの少女が自分に注目してくれることなんかありえないし、客席にいる自分の方を振り向いてさえくれないかもしれないけど、アイドルが歌って踊って笑顔でいてくれさえいれば、僕たちは生きていけるよ、っていう歌でもあるわけだ。

パリピとかは「きみどっから来たん?名前なんなん?」ぐらい3分で入手してしまうわけですが、まあ内向的で消極的な人間というのは「自分はだめだ」「きっと振り向いてくれない」「自分には彼女と話をする価値さえない」「遠くから見てるだけで十分」みたいになってしまって、これはモテないだけでなくキモい。でもそうしか生きられなくて、その道をまっすぐ歩いていく、っていうのはそれはそれでありだ。足跡は残るよ。みんながんばりましょう。

でもそれをアイドルに歌わせるんだから、これってすごい皮肉というか屈折した曲よねえ。「キモいと思われてるだろう」って思ってるキモい男の歌を実際にキモいなあと思ってる女子に歌わせる。なんかもうサドマゾの世界に近い。おどろきました。

フルレングスのないかな。

 

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1. ただ、最初この歌詞聞いたときにはわからなかったけど、ここは仕掛けがあるかもしれなくて、「影」は「陰」(かげ)でもあるかもしれない。表も裏もある人間になったとか、邪悪な欲求に目覚めたとか。ははは。でも恋愛ってそういうところあるじゃないっすか。ないっすか。まあ「ちゃんと」影ができたんだからまあふつうに解釈した方がいいっすね。
2. 検索したら、この曲ソナタ形式だとかって書いてる人がいるけどそうではない。

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