九月十六日。 鄰家の人このごろ新にラヂオを引きたりと見え、早朝より体操及楽隊の響聞出し、眠を妨ぐること甚し。たまたま耳を傾けて聞くに、放送局員の天気予報をなすに、北東の風或は南東の風或は愚図ツイタ天気などいふ語を用ゆ。是頗奇怪なり。吾等従来北東南東などの語を知らず、東北東南と言馴れたるなり。またグヅツイタ天気といふは如何なる意なるや。愚図々々してゐるといふ語はあれど、愚図ついてゐるといふ事は曾て聞かざる所なり。この頃の天気の如き、陰晴更に定りなく風と共に村雲空を蔽ひかゝれば雨はらはらと濺来りて忽にして歇む、此のやうなる天気を愚図ついた天気と云ふにや。いかにも下品にて耳ざわり悪しき俗語なり。気象台の報告の如きものは正確にして醇良なる語を用ひざる可からず。此日風雨終日歇まず。晡下最甚し。銀座に徃き食事をなし蠣殻町の叶屋を訪ふ。深夜に至り雨勢稍衰へ風また歇む。*


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Last-modified: 2015-01-12 (月) 06:09:46 (833d)