九月十九日 世間近頃に至り俄に都下のカツフヱー及舞踏塲の弊害を論ずるもの多し、警視庁にてはわざわざ徃復端書を世間知名の人の許に郵送しカツフヱー取締に関する意見を問ふ、これは当世流の人気取りの策畧なるべしと雖実に愚劣の至りなり、数年来カツフヱー及舞踏塲の繁昌するは世人久しく芸娼妓に厭き西洋風の売女を要求しゐたる結果なり、独々一(どどいつ)や二上(にあが)り新内すたれてヰオロン入りの門附唄(かどつけうた)流行するを見ても世間の風潮は推知せらるべし、女給踊子などの新に出で来りしがために淫風俄に熾(さかん)となりしが如く思ふは謬りなるべし、日本人は何事に限らず少しく目新しきものゝ盛になり行くを見れば忽恐怖の念を抱く、島国根性今以て失せやらぬものと見えたり、今日の時勢を見るに女給踊子の害の如きはたとへこれ有りとなすも恐るゝに足らず、恐るべきは政治家の廉恥心なきことなり、社会公益の事に名を托して私慾を逞しくする偽善の行動最恐るべし、男子変節の害に比すれば女給踊子の密に淫を売るが如きは言ふに足らず、カツフヱーの舞踏塲取締のことにつきては余は別に意見あれどこゝには贅せず、是日残暑烈しく夜に至り十七夜の月鏡の如し、*


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Last-modified: 2015-01-10 (土) 13:17:46 (804d)