一月十六日。晴天。朝の中電話の鳴ること二三回なり。家に在らば訪問記者に襲はるゝが如き心地したれば、昼飯を喫して直に写真機を提げて家を出づ。浅草に至るに土曜日と藪入を兼ねたる故にやおびたゞしき人出なり。堀切橋に至り堤防を歩む。微風嫋々たること春日の如し。綾瀬川の水門に夕陽を眺め、銀座に来りてさくらやに憩ふ。安藤歌川の二氏あり。倶に晩餐を不二あいすに喫す。この夜銀座街上酔漢多く、処処に嘔吐するものあり。十一時帰宅。枕上松亭金水作山々亭有人(ありんど)補綴(ほてい)の中本『三人娘手鞠唄』を読む。金水は元治甲子に没したるものゝ如し。芳年の挿絵あり。*

昭和十二年一月二十日。 午に近きこと起出でれば空晴れ雪解の点滴しきりなり。燈刻前京屋印刷所の人来る。『濹東綺譚』の草稿をわたす。非売品となし壱百部印形する心なり。夜銀座に徃き桜屋に一茶す。歌川酒泉其他の諸氏に逢ふ。*


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Last-modified: 2015-01-10 (土) 14:26:12 (868d)