十一月一日。

十一月二日。

十一月三日。快晴。南伝馬町太刀伊勢屋に徃き石州半紙一〆を購ひ、帰途米刃堂を訪ふ。

十一月四日。大雨。断膓亭襍稾表帋板下絵を描く。

十一月五日。晴。山茶花開く。菊花黄紅紫白の各種爛漫馥郁たり。八ツ手の花もまた開く。午後水仙蕃紅花の球根を地に埋む。

十一月六日。唖々子来訪。晩風漸く寒し。虫の音全く後を絶しが、家の内薄暗きところには猶蚊のひそめるあり。

十一月十日。今年は去月の暴風にて霜葉うつくしからず。此の頃に至りて楓樹の梢少しく色づきたれど其の色黒ずみて鮮ならず。

十一月十二日。快晴。の芽ばへを日あたりよき処に移植す。

十一月十三日。小説腕くらべを訂正し終りぬ。午後三十間堀の酒亭寿々本に徃き、庭後唖々の二子と飲む。

十一月十五日。断膓亭襍稾印刷校正に忙殺せらる。夜唖々子来談。

十一月十六日。鵯毎朝窗外の梅もどきに群り来る。余起出ること晩きが故今は赤き実一粒もなくなりたり。

十一月廿一日。断膓亭襍稾校正終了。下婢を銀座尾張町義昌堂につかはして水仙を購ふ。

十一月廿二日。毎日天気つゞきにて冬暖甚病躯に佳し。午後市ヶ谷辺を散策す。古道具屋にて三ッ抽出し古箪笥を購ふ。余以前は箪笥あまた持ちたるに一棹は代地河岸にて失ひ、又重箪笥二棹は宗十郎町にて奪はれ、今はわが衣服を入るゝに西洋トランクと支那文庫とあるのみ。日常使用に不便なれば已むことを得ず新に購求めしなり。代価参円半。

十一月廿三日。晴天。満庭の霜葉甚佳なり。萩芒の枯伏したる間に二三羽来りて枯葉を踏む。其の音さながら怪しき者の忍寄るが如き気色なり。晩間寒雨瀟瀟として落葉に滴る。其声更に一段の寂寥を添ふ。再びおかめ笹の稿をつぐ。

十一月廿九日。両三日寒気強し。樹陰日光に遠きあたり霜柱を見る。今暁向両国相撲小屋跡菊人形見世物塲より失火。回向院堂宇も尽く焼亡せしと云ふ。西大久保母上の許より昆布佃煮を頂戴したり。

十一月三十日。この頃小蕪味ひよし。自ら料理して夕餉を食す。今朝肴屋の半台にあなごと海鼠とを見たり。不図思出せば廿一二歳の頃、吉原河内楼へ通ひし帰途、上野の忍川にて朝飯くらふ時必ずあなごの蒲焼を命じたり。今はかくの如き腥臭くして油濃きものは箸つける気もせず。豆腐の柔にして暖きがよし。夜明月皎皎たり。

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Last-modified: 2015-01-12 (月) 06:11:10 (802d)