*

十月三日断膓亭窗外の樹木二三株倒れ摧かる。

十月四日百舌始て鳴く。 〔欄外「原本五日より七日まで記事を欠く」トアリ、朱線ヲ引キ胡粉デ抹消〕

十月八日。連日雨歇まず。人々大風再来を憂ふ。藪鶯早くも庭に来れり。

十月九日。大雨。無用庵雨漏りいよ/\甚しき由留守居の者知らせに来りし故寐道具取片づけ断膓亭に送り戻さしむ。唖々子にたのみて三味線食器は一時新福亭へあづけたり。(久米秀治氏細君営業の待合茶屋なり)

十月十日。夜庭後子風雨を冒して来訪せらる。断膓亭襍稾出版についての用談なり。

十月十一日。この日雨始て晴る。百舌頻に鳴く。旧稾つくりばなしを訂正して文明に寄す。

十月十二日赤蜻蜓とびめぐり野菊の花さかりとなる。

十月十三日。秋隂夢の如し。夜庭後君再び訪来り文明編輯の事を相談す。

十月十四日。空始めて快晴。小春の天気喜ふべし。八ツ手の芽ばへを日当りよき処に移植す。午後神楽阪貸席某亭に開かれたる南岳追悼発句会に赴く。帰途湖山唖々の二子と酒楼笹川に飲む。

十月十五日。曇る。鳴く。園丁来りて倒れたる庭木を引起したり。夜また雨。

十月十六日。雨。石蕗花開く。その葉裏に毛虫多くつきたり。今年は秋に入りて殊に雨多かりし故にや此頃に至り葉雞頭野菊紫苑のたぐひに至るまで皆毛虫つきたり。

十月十七日鶺鴒飛来る。晩風蕭索。夕陽惨憺たり。

十月十八日先人揮毫の扇面を見出し書斎の破襖に張る。其の中の一詩を録すれば、隔水双峰雪未銷。白堤寒柳晩蕭蕭。三杯傾尽兪楼酒。馬上思君過断橋。

十月十九日大石君の診察を請はむとて数寄屋橋新福亭に徃く。大石君来らず空しく帰る。唖々子に逢ひ四谷に飲む。

十月廿二日。晴天。風寒し。断膓亭に瓦斯暖炉を設く。八ツ手の蕾日に日にふくらみ行けど菊は未開かず。竜胆花をつけたり。おかめ笹第六回に進む。夜執筆の傍火鉢にて林檎を煮る。

十月廿三日。晴天。文明第十一号校正。午後日吉町庄司理髪店に赴き米刃堂に立寄り庭後唖々の両子と三十間堀寿々本にて晩餐をなす。清元延園おりきを招ぐ。

十月廿四日。両三日腹具合大に好し。午後家を出で紀の国坂を下り豊川稲荷に賽す。

十月廿五日。朝より大雨終日歇まず。庭上雨水海の如く点滴の響滝の如し。夜に入つて風また加はる。燈下孤坐。机に凭るに窗外尚残の啼くを聞く。哀愁いよ/\深し。

十月廿六日。晴天。写真師を招ぎて来青閣内外の景を撮影せしむ。予め家事を整理し万一の凖備をなし置くなり。近日また石工を訪ひ墓碑を刻し置かむと欲す。夜風あり。月明かなり。虫語再び喞々たり。

十月廿七日。晴天。階前の黄菊始て開く。午後青山辺を歩む。夜梔子の実を煮、その汁にて原稿用罫紙十帖ほど摺る。梔子の実は去冬後園に出でゝ採取し影干になしたるもの。

十月廿八日来青閣壁間の書幅を替ふ。毅堂先生絶句三幅を懸く。朝の中雨ふりしが晩に歇む。是夜十三夜なれど月なし。初更のころ門を敲くものあり。燈を挑げて出でゝ見れば旧友葵山子の訪来れるなり。咖啡を煮て款晤す。

十月廿九日。曇る。夜九穂子来訪。

十月三十日。快晴。後園に菜種を蒔く。

十月卅一日唖々子来訪。


トップ   編集 凍結解除 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2017-02-20 (月) 01:54:44 (33d)