九月十七日陰晴定まらず、本郷菊坂の古書肆井上より樺山石梁?の詩文集を郵送し来る、夜お歌と神田を歩み遂にその家に宿す、お歌年二十一になれるといふ、容貌十人並とは言ひがたし、十五六の時身を沈めたりとの事なれど如何なる故にや世の悪風にはさして染まざる所あり、新聞雑誌などはあまり読まず、活動写真も好まず、針仕事拭掃除に精を出し終日襷をはづす事なし、昔より下町の女によく見らるゝ世帯持の上手なる女なるが如し、余既に老いたれば今は囲者置くべき必要もさして無かりしかど、当人頻に芸者をやめたき旨懇願する故、前借の金もわづか五百円に満たざる程なるを幸ひ返済してやりしなり、カツフヱーの女給仕人と芸者とを比較するに芸者の方まだしも其心掛まじめなるものあり、如何なる理由にや同じ泥水家業なれど、両者の差別は之を譬ふれば新派の壮士役者と歌舞伎役者との如きものなるべし、*


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Last-modified: 2015-01-10 (土) 14:35:52 (810d)