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片づけられない女のためのこんどこそ!

女性というと、掃除が好きで片付けが得意で、みたいな印象をもたれやすいものらしく、男子だったら部屋散らかしてるぐらいではあんまりひどいこと言われませんが、女子はたいへんみたいですね。なんか寮生活とかでもそこらへんで非常にトラブルが多いとかなんとかっていう話を聞いたことがあります。

実際には男性だろうが女性だろうがひどい生活を送っている人々は少なくない。部屋ちらかってるのはみじめだ。必要なものがすぐに出てこず、毎日何時間も書類やらなんやら探して時間つぶすのはつらいし馬鹿だ。いらいらする。時間の使いかたもおかしくて、毎日「あれやんなきゃ、あれしときたい」って思ってるのにいつのまにか夜になってる。いつもなにかに追いたてられてる感じ。心やすまる時がない。毎日毎日みじめで悲惨だ。そういう人々が多いのはよく知っています。そして私もその一人。

そういう人々は自分の生活がなにかおかしい、他の人と違うってことを知っているので、「片付け」本とか「時間管理」とかって本を読むのは好きなことが多い。そして私もその一人。

なのでまあその手の本はいろいろ読んでいるのですが、この前ひさびさのヒットを読みましたね。池田暁子先生の『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』。通ってる市立図書館で手にとってしまいますた。これはすごい。

なんというか、生活がうまくいかない人々の生活や考え方、経験をリアルに描いていて、もうどこを読んでもそのみじめさつらさに泣ける。ちょっと多いけど4ページ引用させてもらおう。

池田暁子2池田暁子1

池田暁子4池田暁子3

最後のコマの八の字の眉毛とか、顔に入った影線とか。みじめな人々はほんとうにこんな感じだと思う。これが描けるっていうのはとてつもない観察力や自己反省力、表現力を感じますね。感動した。

このエッセイマンガは、池田先生がこの生活煉獄からどうやって抜けだすかっていうお話。いくつかのノウハウは、そこらへんでよく見かけるノウハウでそれ自体に目新しさはないんだけど、彼女自身が試行錯誤して発見したり、話には聞いてたことを実感として得たりして感動的。

我々は勉強は学校で教えられるけど生活のしかたっていうのを学ぶ機会は少ない。生活するだれならだれだってできると思われている。でもよく生活することはそんな簡単ではないし、少なくとも一部の人は必死で学ばないとよく生活できない。古代ギリシアの哲学者ソクラテスも、「たんに生活するだけではなく、よく生活することが重要だ」「吟味されない生活は生活するに値しない」と言っておられます[1]一部うそ。気になるなら調べててください。。生まれもっての気質や性格、ある種の軽い発達障害みたいなものによって苦しんだりしている人々も多い。そういうのは性格だからしょうがない、って言いたくなるけど、自分自身が苦しいんだからやっぱりなんとかしたい。

こういうのは、ちゃんとできる人からすると「いくらアドバイスしても聞かない」「なんでできないのかわからない」「けっきょくやる気がないからだ」「だめな奴だ」「部屋だけでなく心が腐っている」みたいになっちゃうんですよね。でもできない人はそれなりの言い分がある。できない人ができないのは理由があって、それがなんであるかっていうのはできなかった人でなければわからないし、どう伝えればいいのかわからない。私たちが本当に学ぶことができるのは、整理された知識じゃなく、他人の失敗や試行錯誤の経験談を知り、自分自身で試行錯誤することによってだけだ、みたいなことを言いたくなります。おそらくアカデミックな勉強もそうなんだと思う。

「汚部屋」の人はとりあえずこれ読んでみじめな気持になり、そこから脱出した人もいると知りモチベーションつけましょう。

もうちょっと実用的なのは『整理術』と『時間整理術』。こっちもそれぞれ名作。まあこういうのは実行しないとなにもならんわけですが、図書館とかで読む価値は十分あると思う。

私は汚部屋ってほどじゃないけど整理とか時間管理とかすごい苦手で毎日みじめな思いをしているので、またがんばってみようと思います。汚部屋女子もがんばってください。

あとこういう人にはあんまり言えない生活の悩みみたいのは2ちゃんねるの生活板あたりで互助会みたいな感じでやってることがあるのでそういうところ見てみるのもいいと思う。そういうので時間つかいすぎるのも馬鹿ですけどね。

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References

References
1一部うそ。気になるなら調べててください。

赤川学先生の『子どもが減って何が悪いか!』

ゼミとかではいろんな本のおもしろいところを紹介してもらったりするのですが、最近赤川学先生の『子どもが減って何が悪いか!』(ちくま新書、2005)ってのを紹介してもらいました。10年近く前でかなり古い感じですが、「データをちゃんと見よう、自分で分析してみよう」みたいな感じでよい本だと思ってました。

でもその発表ではなんかへんなところがあって、気になるのでメモ。

p.81から赤川先生は「産みたくても産めない仮説」に疑問を呈しているのですがここの議論どうなんですかね。女は産みたくても経済的理由や仕事と子育ての両立の困難さから産めないのだ、という議論というか仮説というか通念があるけれども、この本の執筆時の2004年ごろにはそれを直接検証するデータはない、と(p.82)。そこでまあ岡山市の調査を使ってみていている。何年の調査かわからないんだけど、 これかなあ。 http://www.city.okayama.jp/contents/000053197.pdf ……あ、注を見ると2000年の調査ってことです。(岡山市はその後も調査継続してみるみたいですね http://www.city.okayama.jp/shimin/danjo/danjo_s00092.html )

この調査の質問のなかに、「最近、女性が一生の間に産む子どもの数が少なくなっていると言われていますが、あなたはその原因をなんだと思いますか」っていうのが含まれてるのね。学生様はこれを紹介してくれた。

私それ聞いて、これってひどい調査だなと思いましたね。「その原因をなんだと思いますか」って聞いていったい何がわかるんだろう?少子化の原因がわかるんではなく、一般の人が少子化の原因について「どう思いこんでいるか」ってのがわかるだけですよね。そんな調査してどうすんだ、と思いました。もしそういう調査をしたいのであれば、希望する子どもの数を聞いて、実際の子どもの数を答えてもらって、もし少なかったら「なんでもっと産まないんですか?」って聞けばいい。これならちゃんとした答が得られそう。んで学生様にはそこらへんどう考えてるのかつっこんでしまったんですが。

赤川先生の本を読んでみると「これらの質問は、回答者に「少子化の原因を何と考えるか」をたずねたにすぎず、「少子化の原因」を直接検証するものではない」(p.82)ってちゃんと書いてる。偉い。まあ社会学者だったらもちろんこう書きますわよね。安心しました。「このような調査結果をもとに、「少子化の原因はかくかくで、だから、しかじかの対策が必要だ」と主張することは、大衆迎合的なポピュリズムではあるかもしれないが、社会政策設計としては邪道である」とおっしゃっておられます。正しい。

しかしこっから先がわたしわからんのよね。回答では「経済的負担がでかいから」みたいなタイプのがかなりの数を集めてるんだけど、赤川先生によれば、こう答えた人がどういう人かをちゃんと分析しみると、既婚者や子どもが多い人の方が、未婚者や子どもがいない・少ない人よりも統計的に有意に多い、ってことになる。こっから赤川先生は次のように推論するわけです。

仮に「産みたくても産めない」仮説が正しいとするならば、子育ての経済的負担や、仕事と子育て両立難を感じる女性は、既婚者よりも未婚者に、子どもが多い人よりも少ない(ないしいない)人に多いはずである。なぜならそれが、結婚や出産をためらわせる理由だからである。しかし事態は、まったく逆である。未婚者よりも既婚者が、子どもがいない人よりいる人が、子育ての経済的困難をより感じている。育児ネットワークの多い有配偶女性のほうが、両立難を感じている。」(pp. 85-86)

あれ、なんかおかしいですよ。質問は「(一般の)少子化の原因は何だと思いますか」ってな感じなんだから、自分が経済的負担や両立難を感じているかどうかではなく、一般の人はどう感じていると思ってるかを答えているはずなので、こういうことは言えないんじゃないかな。

赤川先生はここからさらに、子育て支援したり両立支援しても、「子どもがいない人が出産を選択するっていう効果をもつとは言い難い」(p.86)、みたいな結論にもってっちゃってる。なんだかなあ。

これを言うためには、たとえば「もし経済負担が問題なのであれば、子なしの人の方が子ありの人よりも「社会全体の少子化の原因を経済的負担と答える傾向が高いはずだ」ってことが言えなきゃならんけど、これはどっから出てくるんだろう?

既婚者子ありの方が経済的負担や両立難を感じているからといって、未婚者や子なしの人々が未婚や子なしでいる理由の大きなものの一つに経済的負担や両立難が入ってないともいえない。まあだめな調査からはなんもわからん、としか言いようがないんではないか。

私これわからんですよ。おかしな調査をもとに勝手な推論をしてしまってるんじゃないんかな。まあ細かいところだけど、慎重なよい本だと思ってたのに残念です。余計なこと書かないで、「こういう調査じゃまともなことわからんよ」ぐらいにしておいてほしかったです。赤川先生ぐらい大物になると、学生様が読んでいろいろ信用しちゃうので困ります。(っていうか私が「赤川先生だったら安心だよ」みたいなん言ってしまったのがいかんかったです。)

まあ私こういう社会調査やデータ扱うのはぜんぜん勉強したことないのでおかしいこと考えちゃってるのかもしれないので、まちがってたら教えてください。

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進化と道徳の本

進化と道徳の関係について、いろいろ本があるなあ、とか思ったり。いっぱいありすぎてわけわからんわね。学生様になにをおすすめすりゃいいのか。私もずいぶん読んだんですが、特におすすめのやつ。

超基本書。読んでない人は読書人としてモグリ。

利己的な遺伝子 <増補新装版>
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リチャード・ドーキンス
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偉い先生の。内井先生の名著だと思う。いまとなってみるとつっこみというか情報が不足しているかもしれないけど、その状況で書いたものとしてはすばらしい。でもまあ倫理学者向けだわね。

進化論と倫理 (Sekaishiso seminar)
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内井 惣七
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これは古いか。

徳の起源―他人をおもいやる遺伝子
マット リドレー
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おもしろかった。孤独な人は読みましょう。孤独は健康に悪いです。ははは。

孤独の科学---人はなぜ寂しくなるのか
ウィリアム・パトリック ジョン・T・カシオポ
河出書房新社
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読みやすい一般書。

友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学
ロビン ダンバー
インターシフト
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ハイト先生は2000年代で倫理学にとって一番重要な人々の一人。

しあわせ仮説
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ジョナサン・ハイト
新曜社
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道徳の問題考えるときに進化心理学とか社会心理学とかちゃんとおさえておかないとならん時代。

進化と感情から解き明かす 社会心理学 (有斐閣アルマ)
北村 英哉 大坪 庸介
有斐閣
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人間の本性を考える  ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)
スティーブン・ピンカー
NHK出版
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ブックガイド: 恋愛心理学のおすすめ本

ひさしぶりに学生様用お説教ネタ。

卒論を恋愛関係で書きたいっていう学生様はけっこういるわけですが、最低限おさえておく心理学系の本。ゴミみたいな本が多いので、まともな学問的な心理学の本を読むのがコツです。 続きを読む

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2012年に読んだ本ベスト10

この本が一番衝撃的だったかなあ。「わたくしは自分の価値観で生きています。いろいろなことを言われているのは知っていますけれども、それによってわたくしの価値観や生き方を変えるつもりはありません。たとえ、そのことによって誰からも好かれないとしても、かまわないのです。」という最初の文章にぶっとばされて鼻血出そうでした。わたくしは、とにかく、自己肯定がなによりたいせつなのだということを、まなんだのです。
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梅棹忠夫先生を読みなおしてみる

ちょっと興味があって、「知的仕事術」の系譜を見てみたり。
昭和にはやった「知的生産」とかってで流行になったのはどんなもんなのか、とか。 東谷暁先生の『困ったときの情報整理 (文春新書)』を参考に*1

まずどうもとにかくここからはじまるらしい。未読だと思う。

整理学―忙しさからの解放 (中公新書 13)

整理学―忙しさからの解放 (中公新書 13)

川喜田先生登場。ブレインストーミングとかも流行る。一応読んだけど理屈っぽいばっかりで。

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

とんでもない影響力をもった名著なのか怪書なのか。読みやすいのがアレだ。B6カードは大学生のときに1袋だけ買ったことがある。

知的生産の技術 (岩波新書)

知的生産の技術 (岩波新書)

これも流行したらしい。読んでないと思う。いや、読んだかな?印象にない。

考える技術・書く技術 (講談社現代新書)

考える技術・書く技術 (講談社現代新書)

渡部先生のは高校生のときに読んで、ちょっとあこがれたりした。恥ずかしすぎ。まあでも「教養」ってのはいつでもよいものだ。「書斎」なんてばかげたものに男たちがあこがれはじめる→おそらく現在まで続く。ホットミルクはいまだに時々飲んでる。

知的生活の方法 (講談社現代新書)

知的生活の方法 (講談社現代新書)

ここらへんからは同時代。立花先生が川喜田先生批判したりして。「ああいうのは無能な連中がやること。賢い奴は違うぞ」

「知」のソフトウェア (講談社現代新書)

「知」のソフトウェア (講談社現代新書)

もっとプラクティカルになって。システム手帳ブームが来たけど私はお金
なくて買えなかった。買っても使えなかった。ここらへんバブル時代の印象と
結びついている。山根先生の下の2冊は読んでないと思うけど、週刊誌ではよく
見かけていた。

スーパー書斎の仕事術 (アスペクトブックス)

スーパー書斎の仕事術 (アスペクトブックス)

スーパー手帳の仕事術

スーパー手帳の仕事術

傑作シリーズ。失なわれた10年でもがんばる。「整理法」より「ToDoボード」の方が印象強い。
(超整理袋システムはだめ)

「超」整理法―情報検索と発想の新システム (中公新書)

「超」整理法―情報検索と発想の新システム (中公新書)

「超」整理法〈3〉 (中公新書)

「超」整理法〈3〉 (中公新書)

あと「ワープロ活用」の系譜が80年代後半~90年代前半にあるはずだよな。

んで、梅棹先生の読書論。

田中美知太郎氏は、材料の配合をかんがえてバランスのとれた健康的な
食事を用意する一種の料理法のようなものが、読書についてもかんがえられるであろうとのべている。(p. 98)

ふん、おもしろいね。なんかギリシア的だ。

「本というものは、はじめからおわりまでよむものである。」そうですか。
前の文章もそうだけど、梅棹先生は日本語表記にも一応の影響を与えてるよな。
(第7章でいろいろ提案している。私は賛成できないけど。)

読書記録(確認記録と読書カード)つけなさい。
そうですか。「はてな」でもそういう人は多いですね。

本は「一気に読む」。そうですか。

「傍線をひく」。最初はノートをとらずに「心おぼえの傍線をひくほうがよい。とりあえずこうして印をつけておいて、かきぬきもノートも、すべて一度全部をよみおわってからあと、ということにするのである。」そうですか。

「線をひくのに、赤鉛筆や青鉛筆をつかうひともすくなくないようだ。・・・
わたしは2Bの鉛筆で、かなりふとい線を、くろぐろといれる。」そうですか。
森口先生もそうしているようです。まあボールペンとかのインク類より鉛筆が優秀ですよね。
これは先生のこの本で一番同意できる点です。

他に「読書ノートをつける」「本は二どよむ」「本は二重によむ」とか
まあここらへんは言いたいことはわかります。

全然予想してない文章に出会ったのはここ。

たくさん本をよんで、それから縦横に引用して何かをのべる。いかにも
学問的で、けんらんとしているようにみえるが、じつはあまり生産的なやりかたとは
おもえない。わたしのやりかたでいけば、本は何かを「いうためによむ」のではなくて、
むしろ「いわないためによむ」のである。つまり、どこかの本にかいてあることなら、
それはすでに、だれかがかんがえておいてくれたことであるから、わたしがまたおなじことを
くりかえす必要はない、というわけだ。自分のかんがえがあたらしいものかどうかを
たしかめるために本をよんでいるようなものだから、よんだ本の引用がすくなくなるのは
あたりまえなのである。こういうふうにかんがえると、引用のすくないことをはじる
必要はない。むしろ一般論としては、引用のおおいことのほうが、はずかしいことなのだ。
それだけ他人の言説にたよっているわけで、自分の創造にかかわる部分がすくないということになるからだ。(pp. 116-7)

なるほど、これか!ちょっと目が覚めた。
霊長類研や人文研の気高く美しい伝統。独創性。
ちょっと前の京都新聞で、今西錦司先生あたりを中心にした研究会では
「文献調査はいらん、オリジナルのデータとオリジナルな考察を出せ」とかってのが
標語だったとかいう主旨の記事を読んだのだが、それを思いださせる。

梅棹先生の言うことはわかる。
しかしこれが(志の低い学生には)なんか悪影響を与えていたかもしれないとも思う。けっこう微妙。
梅棹先生たちはそれでOKだったわけだし、非常に創造的な仕事ができた。
でもそれはその前の世代がちまちまいろいろやってたおかげだろう。
そのちまちまが共有されている間はそれでよかったろうが、
梅棹先生たちを読んで育つ人びとは
けっきょく同じ発明を二度三度くりかえさなきゃならなくなったんじゃないかな?
そんなことはないか。私自身は引用が多かったり、他人の言説にたよったりすることはなにも恥ずかしいと思わないし、恥ずかしいと思うべきでもないと思う。さっきの田中美知太郎先生の文章も どこに書いてあるのかわかんないしね*2。まあ新書だからあれだけど。

「京大人文研的なものの功罪」ってのはなんかありそうな気がする。

*1:この本自体はあんまり強い印象を与えるわけではないけど、歴史的概観が役に立つ。

*2:おもしろいと思っても調べようないじゃん。手前の手間はぶいて生産性とやらを上げて、それでどうした?とか言いたくなるところがある。もちろん梅棹先生にそんなこと言う気はない。

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ミル自伝

みすず書房から出た村井章子訳の『ミル自伝』(「大人の本棚」とかってシリーズ)。解説のたぐいがまったくない。訳注もないみたい。人名ぐらい注つけてもいいのに。 『自伝』原稿出版の経緯 [1] … Continue reading や実際に訳出した版や原題 [2]そりゃAutobiographyに決まってるけど。 すらもわからんのだが、みすず大丈夫か?光文社の例のシリーズの対抗なんだろうけど、ミルが誰かもわからず、人名も誰が誰やらわからんという状態でだいじょうぶなんだろうか。学生に勧めたいような勧めたくないような。微妙。

訳文は読みやすくていいんだけど、ちょっと文学臭が薄くなってしまっているような気がする。まあしょうがないかな。

たとえば

At first I hoped that the cloud would pass away of itself; but it did not. A night’s sleep, the sovereign remedy for the smaller vexations of life, had no effect on it. I awoke to a renewed consciousness of the woful fact. I carried it with me into all companies, into all occupations. Hardly anything had power to cause me even a few minutes oblivion of it. For some months the cloud seemed to grow thicker and thicker.

有名なこの「危機」 [3] … Continue reading の箇所は次のようになってる。

はじめのうち私は、すぐに抜け出せると思っていた。だがそうはならなかった。日々の小さな悩みを忘れさせてくれる一夜の眠りも、このときばかりは効き目がなく、朝になればたちどころに自分の惨めな状態を思い出す。友といるときも、仕事をしているときも、逃れられない。ほんの数分でいいから忘れさせてくれるものがあればよいのに、それもなかった。数か月の間、私はますます深みにはまるように感じられた。

岩波文庫の西本正美先生の訳だとこんな感じ。(戦後の版のやつが見つからないので戦前のやつの表記を変更して引用。みつかったら入れかえる)

最初私は、こうした心の雲はひとりでに消えるだろうとたかをくくっていた。ところが中々そうはいかなかった。人生の些細な煩悶を医するにはこの上もない薬である一夜の安眠も、私の悩みには何の効き目もなかったのである。私は目を覚ますと、新たにこの痛ましい現実に対する意識が更生するのを覚えた。いかなる友と交わるにも、如何なる仕事をするにも、この意識は私に常につきまとっていた。せめて数分間でもそれを私に忘れさすだけの力をもったものはまずなかったのである。数カ月間は、この雲はますます濃くなって行くのみであるように思われた。

この暗い雲 [4]リストに”Nuages gris”っていう曲があるね。あら、International Music Score Library Projectって閉鎖したのか。  っていうイメージは大事だと思うんだけどね。陳腐だけど、陳腐さはミルの魅力の一部文学作品だとやっぱり残さないわけにはいかないだろう。でも村井先生の訳し方もありだな。装丁とか悪くない。このシリーズはけっこう楽しみだ。けど、2000円以内に収めたかった。無理か。

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References

References
1生前は出版されなかったし、養女のヘレン・テイラーがいろいろ手を加えた部分がある。ミルが自分の性生活について書いてるのが残っていればおもしろかったのにね。ハリエットテイラーとはずっとプラトニックでした、とか。
2そりゃAutobiographyに決まってるけど。
3どうでもいいけど、ミルの「危機」の時代にインターネットがあったらどうだったろうとか考えちゃう。やっぱり2ちゃんねるメンヘル板や半角板に出入りしたかな。
4リストに”Nuages gris”っていう曲があるね。あら、International Music Score Library Projectって閉鎖したのか。

読書『女が男を厳しく選ぶ理由』

女が男を厳しく選ぶ理由(わけ)
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だいたい同じような話だろうと思っていると、ちょっとづつ進んでるのね。この手の学問やってる人はたいへんだろうけどやりがいもあるだろうなあ。ただ、たしかにこの本はかなり誤解されやすような気がする。
的確な書評は http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20080116#1200490717 。もう私は shorebird さんが紹介してくれたものを順に読んで生きていくわけだ。

個人的におもしろかったのは、この人たちが金髪碧眼嗜好をわりと普遍的なものと考えている様子なところ。私自身の内観ではそういう嗜好をさっぱり見つけられないのでなんか愉快。さすがにバイキングたちの息子は違う。風に飛ばされてきた髪の毛一本から、「金髪のメリザンドよ」とやっちゃうに違いない。きっとわたしのご先祖にはそういう淘汰がかからなかったのだろう。南方系? カナザワ先生もブロンド好きなのかなあ。あ、ブロンドの女は馬鹿偏見の説明 [1]それは若いから。 もよかった。 でもニキビ面馬鹿 [2]若いから 仮説とか背の低いのは馬鹿 [3]若いから 仮説が成立しなかったのはなぜか?他のところも、この人々独自の説明はなんかちょっと甘いんだよな。

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References

References
1それは若いから。
2, 3若いから