角田由紀子先生の性暴力論(3)

続き。

性差別と暴力―続・性の法律学 (有斐閣選書)

性差別と暴力―続・性の法律学 (有斐閣選書)

p. 194からの事例。

角田先生は、現在の法廷で、
性暴力の被害者としてみとめられるには、貞操観念がしっかりした女性であることが要求されるという
意味のことを主張している。貞操観念がしっかりしていることが、「被害者資格要件」であり、
それにあわない女性は性暴力の被害を認めないという風潮が法曹関係者のあいだに根強いってわけだ。

「被害者資格要件」がもっともらしく議論されるのは、性暴力犯罪の場合だけである。
できるだけ、この犯罪の成立を認めたくないという暗黙の願望がその根底にあるのではないだろうか。
・・・女性に対する人権侵害を温存することで、利益を得るのは、あるいは、既得権を
守りたいのは誰なのか。(p. 194)

疑問文でおわっているが、答はおそらく「集団としての男性」なんだろう。

で、今回見たのは角田先生がそういう事例の典型としてあげてる
『判例タイムス』No. 796 (1992.12.1)の「事前共謀による強姦致傷の訴因に対し、被害者が
少なくともホテルへの同行を承諾していたとして、現場共謀のみを認定した事例」

この事件は、居酒屋で「ナンパ」した男二人が家出女子大生をラブホテルに連れこんで
セックスしようとして失敗して殴ってオーラルセックスさせたという事例。財布から金も抜いている。
最悪。強姦致傷や窃盗なんかが認められて、一人は懲役3年執行猶予4年、一人は懲役1年6月、失効猶予3年。
もっと重くてよいと思うが、いくつか情状酌量され執行猶予がついている。

角田先生が批判しているのは、この判決文で「貞操」という言葉が無批判に使われてしまっているところ。
先生が引用しているのはこんな感じ。

右(角田注:救助を求めなかた行動)は、意に反して男性二人に
ホテルへ連れ込まれ、まさに貞操の危機に瀕していた(kallikles注:
強調は角田による)という若い女性の態度としては、にわかに理解しがたいも
のと思われる。」(角田p. 196)

同女が、軽率な行動により、ホテル内で危うく貞操を侵されそうになったのが事実であるとすれば
(角田 p. 196)

んで、角田先生はそのあと「貞操」とかって「黴の生えたような」言葉が残っているのは、
森喜朗元総理の「神の国」と同じような無意識のなにかが影響してるんだろう、ってなことを
議論している。

でもこの議論はなんかミスリーディングだし、その前に出している

で議論したディスコナンパ強姦事件で使われている「貞操」ともずいぶん意味が違う。
ディスコ事件では、貞操観念という言葉は、「あんまり多くの人とセックスしないほうがよいと思う」 という内容なのに対して、この居酒屋事件判決文での「貞操」はおそらく「処女性」*1
で、「貞操の危機」は「やられる危機」にすぎないし、被害者の女子大生の行動は
たしかになんだか軽率には見える。ナンパされてラブホに二人で入り、
ベッドで受け入れ体制をとるが処女で挿入できなかったので
「小っちゃくなっちゃんだったからやめようよ」とか。
そのあとは主犯の男が殴ったり殴りかえしたりしていて、私は強姦だと思し、
判決文もそれを認めている。
(主犯の男は前歴もあって、もっと重い罰を与えていいやんね。)
でも、「貞操」が全体に大きな意味を持っているわけではないようだ。

まあ判決文は被害者の「落ち度」について述べている。

被害者Aの側にも、自らの意思により、初対面の若い男性二人の誘いに
乗って、その車に乗り込んだだけでなく、しつこく誘われた結果とはいえ、 こともあろうに、ラブホテルの一室に一緒に入り、全裸になって入浴の上*2
寝室のベッド上で、右男性の一人との性交を受け容れる態度を示すという、
軽率極まりない行動をとった重大な落ち度があるという点である。(判例タイムズ p. 251)

これが「落ち度」なのかどうかは私にはよくわからん。事件全体からすれば、
おそらくそれは「落ち度」と呼ばれるようなものではないのではないかと思う。
だからここを批判するのはわかるのだが、判決文の「貞操の危機」とかを
批判するのは無理矢理で、ポイントがはずれていると思う。まあ少なくとも、
強姦の被害者であるには「貞操観念がしっかりした上品な女性」であることは
要求されていないように見える。

あ、やっぱりこれもうまく書けなかった。難しいんだな。
とにかくこの件も角田先生の主張と、判決文を引き比べて読んでほしい。
私は角田先生を非常に高く評価していたのだが、
この二つの判決を読むかぎり、まさに彼女の専門に近いと思われる裁判の事例において、
角田先生の書き方は信用できないという心証を得てしまった。どうするかなあ。
でも角田先生は民事の方の専門で、刑事事件はあれなのかもなあ。
次は先生の本当の専門であるセクハラ関係の判決文を見てみるべきなのか。

*1:それも単なる肉体的な処女性。くだらんけど。

*2:kallikles注:男といっしょに入浴している


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