売買春の実態調査は難しい (1) 坂爪先生と北原先生

北原みのり先生という有名なフェミニストの先生が、セックス産業に関する注目の若手(?)坂爪真吾先生の著書の一部を批判していて、ちと興味を持ちました。売買春の女性の側の調査は90年代からそこそこあるんですが、男性の側のはあんまり見ないんよね。今のところ、少なくとも国内については数さえよくわからない、っていう状態。

まず北原先生の言い分

坂爪真吾「見えない買春の現場 『JKビジネス』のリアル」 見事なゲスだわー! 日本の買春者は男の一割強でありマイノリティである。それなのにフェミは、日本が買春に寛容な国とイメージを形成してきたと。一割強の根拠は、2000年の厚生労働省調査で、過去一年買春したか? という質問。どのような調査方法だったか、何割が正直に伝えるのか、過去一年という区切りをなくした場合、どのような結果になるか。という考察はなく、いきなり、買春者は日本社会のマイノリティ認定。そもそも一割強が多いのか少ないのか、といえば、十分多いでしょ。ちなみに、この調査を引用した論文みつけた(西村由実子、日高康晴 2013)。ここでは海外で行われた買春者率調査が、報告されてる。 それによれば、米1992年0.2% 英1990年0.6% 仏1992年1.1%に比べ、ニッポンぶっちぎりの買春大国であることが、指摘されてますけど。こういう情報出さずに、さもマイノリティぶってるけど。そもそも、フェミが日本を買春大国と批判したのは、買春者に寛大すぎる日本の特殊な状況への批判だったんですけどねー。

この言い分にどれくらい理があるかっていうのはおもしろい調査課題です。とりあえず坂爪先生の主張を確認したい。

本はこれね。

見えない買春の現場 「JKビジネス」のリアル (ベスト新書)
坂爪 真吾
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坂爪先生はいろいろ野心的で活動的なので注目しているんですわ。まだなんか十分煮詰まってない雰囲気や、彼が考えていることを書いていいものやら悪いのやら迷っている雰囲気があって魅力的。この本あたりからだんだん攻めに入ってる感じがある。問題の箇所はp.30から。「当時(90年代後半)の買春男性の実像」という見出しのところ。

まず紹介されるのが、1997年の「男性と買春を考える会」のアンケート調査。 『買春に対する男性意識調査』報告書 (男性と買春を考える会): 1998。私は入手してない。オンラインにしてくれんかなー。

これは2500人ぐらいのアンケート調査で、25才以上の男性の買春経験率が51.7%ってことになってる。サンプルがどういうものかは私はわからない。これはまあたしかにけっこうな数ね。ただしこの調査は松沢呉一先生あたりが厳しく批判している。坂爪先生も知ってるはず。有料だけど、この手の話について松沢先生は言わずと知れたエキスパート。

松沢先生によれば、この調査の売買春には「キャバクラ」とかまで入ってるらしく、先生は少しはまじめに調査しろと怒ってるです。

坂爪先生はこんな感じ。

本調査の結果は、「日本人男性の半数が買春をしている!」というセンセーショナルな語り口で、女性団体が「買春に寛容な日本社会」を糾弾する根拠として用いられたが、アンケートの回収率が低く、かつ質問項目自体が女性団体のグループによって作成されており、結論ありきの誘導的な項目になっているなどの問題点を指摘する声もある。

と。坂爪先生は松沢先生の見てるんだろうから名前出したげたらいいのに。一般に坂爪先生は典拠をしっかり出してほしい。まあ新書だからしょうがないってのはあるんだろうけど、がんばれ。

 

んでまあ本論。坂爪先生が1990年代後半の買春男性についての記述の典拠にするのは二つの調査。まずこれをチマチマ確認しておきたいですね。

1999年に行われたNHKの調査を収録した『データブック日本人の性行動・性意識』(2002年・NHK出版)によると、過去1年間にセックスをした人数は、20〜60代の男性の約8割が「一人」と回答している。」

この調査はさすがにサンプリングなど立派なもので、かなり信用できる。質問項目の立て方とか私はちょっと批判的なんだけど、それでもまあ数少ない信頼できる調査です。ていうか継続的にやってほしかったでうすね。せめて20周年でもう1回やってくれないだろうか。

16−19は男女ともに暴れている人々がけっこういますね。20代30代もモテてるのかなんなのか、性的に活発な人がいる。女子はおさまってる感じ。まあ20年近く前の話で、いまどうなっているのかは別の調査見ないとなりません。

 

「そして約7割の男性が、過去1年間にソープランドなどの風俗店を利用したことは「一度も無い」と回答しており、」

これです。この坂爪先生の記述はちょっと微妙なところがあって、たしかに「してない」は男性全体の67%、約7割っていうのはまあ正しい。過去1年間にセックスしたことがあるひとのなかの割合であることにも注意。ただし、30代男性なんかだと、「してない」は54%しかなく、さらに無記入が23%あるのも気になるところではある。

「同じく過去1年間に風俗店以外の場での金銭の授受を伴うセックス(援助交際や愛人契約など)をしたかどうかについては、約8割の男性が「しなかった」と回答している。」

これは店舗じゃないかたちの売買春、いわゆる当時流行ってた愛人とか援助交際とかそういうのの数をみたかったわけですね。先の店舗風俗の利用とは独立なので、重なっている人々も少なくないかもしれない。これも無記入が30代・50代男性で1/4ぐらいある。坂爪先生の記述は間違ってはいないけど、但し書きつけてもいいんじゃないかというのはある。 無回答の扱いはどうするのが社会科学的に正しいのか、私はよくわかりません。

「買春に対する許容度については、約6割の男性が「よくない」「どちらかといえばよくない」と否定的な回答をしている。」

この「よくない」や「かまわない」が道徳的な意味でよくないなのか、それ以外、非道徳的な意味で、つまりたとえば、単に法に触れるとか、お金払う本人にとって合理的でない、経済的でない、男として恥ずかしい、かっこ悪い、美しくない、不衛生である、などの意味で「よくない」なのかはちょっとわからない。下の「もらってセックスをする」も同様。

まあNHKの調査についてはこんなもん。


坂爪先生のもう一つの典拠は、2000年の厚生省研究班の『日本人のHIVSTD関連知識、性行動、性意識についての全国調査』。これもオリジナルのは手に入れてないけど、要約の魚拓のようなものがある。

「2000年に厚生省研究班が発表した『日本人のHIV/AIDS関連知識、性行動、性意識についての全国調査』によれば、18〜49歳の男性の中で、過去1年間に買春を経験した人の割合は13.6%。全男性の一割強だ。」

坂爪先生がオリジナルの報告書を手に入れているかどうかわからないけど、この表30にでているものだろう。

日本1999年に、過去1年間に売買春を経験した男性は13.6%。この「国際比較」がどの程度信頼できるのか、っていうのが興味ある。北原先生があげている、西村由実子・日高庸晴先生たちの「日本の就労成人男性におけるHIV/AIDS 関連意識と行動に関するインターネット調査」でこの2000年の調査結果の表を鵜呑みにしているのは、私には疑問。この点は次回以降。


坂爪先生の結論はこう。

「以上のデータから推測すれば、90年代後半に買春をしていた男性の割合は、多く見積もっても全体の1〜2割程度だと考えられる。買ったとしても一度きりでやめる男性や、買うのは1〜数年に1回程度という男性も多いため、日常的・習慣的に買春を行っている男性の割合はさらに少ないと予想される。「買う男」は、あくまでマイノリティなのだ。」(p.32)

私のコメントとしては、だいたいそんなものかなっていう感じ。ただし無回答みたいなのを入れると、もう少し高いん可能性があるんちゃうかという疑いはある。

北原先生が噛み付いているのは、ここで「マイノリティ」っていう言葉をつかっているのがどうかって話よね。単に多数派/少数派っていう意味での「マイノリティ」を使ってるんだろうけど、「あくまでマイノリティなのだ」の「あくまで」みたいなのがちょっと微妙ねえ。男性全体の2〜3割ぐらいいるとたしかにマイノリティはマイノリティだろうけど、それほどマイノリティでもないだろう、ごく普通に行われている慣習的行動だ、みたいな北原先生の指摘に一理ある感じもありで微妙。性行動、特にスティグマ貼られている行動・活動の調査はかなり難しいですわね。

でもとりあえず、今のところ、坂爪先生の側で典拠の示し方や但し書きが若干足りなかったとしても、資料を示しにくい一般向け新書という枠のなかで、一定の典拠にもとづいて論を展開しているので、特にゲス呼ばわりされる筋合いはないように思う。北原先生がどういうつもりで「ゲス」呼ばわりしているかはわからんけどね。

続きます。

 


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