ナカニシヤ出版「愛・性・結婚の哲学」を読みましょう (5)

性 (愛・性・家族の哲学 第2巻)
藤田尚志 宮野真生子
ナカニシヤ出版
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筒井晴香「「脳の性差」と「自然」: 「男脳」「女脳」って?」

タイトルの通り「脳には性差があるから〜はしょうがない」「〜に気をつけよう」みたいな一般メディアでの言説を批判する、っていう趣旨だと思います。趣旨には賛同。

ただしまずこれ、筒井先生がよく参照しているカプラン&カプラン先生の2010年翻訳の『認知や行動に性差はあるのか―科学的研究を批判的に読み解く』っていのはものすごく古いのが不満。初版は1994年でもう20年以上前のもので、内容も当時発展しつつあった脳科学や性差心理学みたいなのに不当に批判的で、なぜ2010年に翻訳したのかよくわからない。もうひとつよく使われているエリオット先生の『女の子脳 男の子脳:神経科学から見る子どもの育て方』は2009年のもので翻訳すぐ出て良書だと思いますが、この手の話はやっぱり最新の心理学のハンドブック等を参照したいところ。心理学関係は10年古いと相当古いと思いたい。

「効果量」の話は、もしするのであればもっと詳しくせねばならないと思う。たとえばこの論文を学生様に読ませる場合、「効果量が1を越える」(p.114)っていうのはどういうことかわからないと、読んでも結局わからないと思う。でもまあこういうのはしょうがないっすかね。うまくわかるように書くのはかなりの腕が必要な気がする。でも「大きい」「小さい」じゃわからんしねえ。

筒井先生のオリジナルな議論としては、なんかの性差や性差に付随した能力差があるとしても、それは生得的な要因と環境要因の結果だし、個人差の方が大きいし、と。これはもちろんOK。男女のグループに対して教育とかする場合にはなにを求めるかとか、どういう教育をするかとか影響があるかもしれないけど、いつも「女子はこれが苦手だからやらせないようにしよう」 とかってことにはならない。むしろ女子はこれが苦手だから力点をおいて訓練しよう、みたいな判断が合理的な場合もある。筒井先生が気にしているのは、こういうのはわかった上で、やっぱり「男だから〜なのだ」「女だから〜なのだ」っていうのが個々人にとってうまくいかないときの理由付けになることによって慰めになるかもしれないくて、それは重要かもしれない、ってことだと思う。ただ、これが行きすぎてしまうと、自分の可能性を閉じてしまうことにつながるかもしれないので注意しましょうね、ということだと思う。これもOK。まあ常識的で健全な感じだとおもうです。

ちょっとだけコメントすれば、各種の脳の機能の差についての知見というのはやっぱり役に立つことがけっこうありそうで、特に各種の発達障害の人なんかは「〜という診断がついた」のようなのにある納得を感じているように見える。それは当人には得ではないけれども、ある種の力づけになる。いったん原因がわかれば、対策も立てられるわけだし、脳神経的な原因があるのならば、薬物その他の対応もいずれ可能になるかもしれない。そういうんで、脳科学は別段恐れるべきものではないし、我々の生活を積極的により豊かにする可能性もある。男女の心理的性差や、その原因となる脳の性差とかについても(そんなものは認知的なものについてはたいしてないだろうけど)よく知られるようになれば、いろんな問題への対処方法に応用できるかもしれない。もちろん、一般メディアでの「脳」とかについてのばかげた言説はどんどん批判してかまわんと思うしがんばってほしいし、まともな人々の研究は(一件すると不都合な結果が出ようとも)応援したい。がんばれー。


相澤伸依「ピルと私たち:女性の身体と避妊の倫理」

女性にとっての避妊の重要性と、避妊ピルがなぜ日本で一般的になってないのか、っていう話。副作用に対する懸念とか、ウーマンリブ団体のウルフの会がピルの使用に消極的だったこととか。基本的に(1) ピルのを飲むと「自分」らしくない感じがするってのと、(2) 避妊は男性にやらすべきだ、っていうのがそういうのの理由だったようだ、という話。相澤先生自身は、避妊の確実性も高いし、自分の体コントロールできるし、女性自身が選択できるものだからぜひ使いましょう、っていう立場で、過去のウーマンリブの主流に批判的。これも全体としてOKだけど、ピルが避けられる理由は他にもあるんちゃうかな、みたいな印象はある。

以下は私のただの妄想。最近、女性の排卵周期が女性の性的な心理にけっこう影響を及ぼしていることが知られていて、排卵日周辺は男性に対する好みや性的な衝動性が違うとかっていうのがあるらしい。着るものもどうも変わるらしい。ジェフリー・ミラー先生の有名なストリッパーの調査によれば 1)ミラー先生が個人的にもストリップ好きなのかはわからない。 、排卵日に近いストリッパーは、それ以外の時期よりチップをかなり多く稼ぐ 2)日本にはないタイプのストリップだと思うけどよくわからない。 。まだなにがそれに直接に寄与しているのかわからないけど、とりあえずそういうことだと。ピルを飲んでいる女性は自然な排卵周期の女性より稼げない傾向があり、またチップの上下もない、とかそういう話。ストリッパー自身はそういうのは自覚していないとか。こういうのは女性の生理周期や性欲や性感やモテ具合みたいなのに影響しているかもしれないっていうのを示唆していて、私自身は相澤先生があげているウルフの会のメンバーの「自分ではない」感じっていうののいくぶんは、そういう意識的/無意識的な性心理的なものに関係しているんじゃないかと思う。さらに一部の女性にあると想定されている排卵周期に付随する一時的なカジュアルセックス欲求からすると、女性にはチャンスがあればいつでも妊娠できる状態になっていたいという欲求さえあるのではないかとも妄想している。

まあここらへんは男性にはよくわからんわよね。エロオヤジのただの妄想。でも「女は何を欲求しているか」っていうフロイト先生を悩ませた謎はいまだにさっぱり解明されていない。まあそういう心理学的な知見がもっと知られれば、ここらへんのピル嫌悪みたいな話はもっとおもしろくなるんちゃうかと思うんですが、まだデータが足りない。セックス心理学者の人々かんばってほしい。私も若ければ性科学とかエッチな科学やってみたかったなあ。

女性のセックス心理についての最近の知見は以下の本を見るとよい。特に最後のヤング&アレクサンダー先生の本は、最新な感じで、哲学・思想・文学への言及も多くて、上の藤田・宮野先生たちの本を手にとった人もけっこう楽しめると思う。

恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (1)
ジェフリー・F.ミラー
岩波書店
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科学者が徹底追究! なぜ女性はセックスをするのか?
シンディ.M・メストン デイヴィット.M・バス
講談社
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性と愛の脳科学 新たな愛の物語
ラリー・ヤング ブライアン・アレグザンダー
中央公論新社
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References   [ + ]

1. ミラー先生が個人的にもストリップ好きなのかはわからない。
2. 日本にはないタイプのストリップだと思うけどよくわからない。

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