クリストファー・ピーターソン『ポジティブ心理学入門』の訳の問題

ちょっと学生様に読ませるためにメモ。
クリストファー・ピーターソン先生の『ポジティブ心理学入門』の「ポジティブ思考」のところをつかってゼミで発表してくれた学生様がいるんですが、なんか本人もよくわからないものになってしまって、原因はなんだろうと訳見たらやっぱり翻訳の問題だってござる。
ピーターソン先生が、ハーバード大の学生の追跡調査をつかって楽観性について研究したのがある。『ポジティブ心理学入門』でもそれが紹介されているんだけど、その翻訳に問題があって読めないものになっている。
っていうか、宇野先生の訳についてはamazonですでに文句つけてて(1)(2)、一部の人には不評だし、商売の邪魔してるみたいで申しわけないんだけどこまるのです。
ピーターソン先生が注目したのは悪い出来事、つらい出来事があった場合、その原因をどういうふうに説明するか、っていう説明スタイルの問題なのね。これはセリグマン先生が『オプティミストはなぜ成功するのか』の中心的な研究対象でもあった。ピーターソン先生は、ハーバード大から在学中あるいは卒業後に従軍した人々の手記を分析したのね。まず、訳書は飛ばし飛ばしで訳されてるから文脈がわかりにくい。まあそれは目をつぶることにして、原文はこう。
I read the essays of a randomly selected 99 young men — which were usually several hundred words long, uniformly sincere, often eloquent, and (I must say) highly legible—on the look out for descriptions of bad events: setbacks, failures, frustrations, and disappointments.  Everyone of course reported such events, but my attention was directed at how each writer explains their causes.  (Peterson 2006, pp.108-109)
私はランダムに選び出した九九人の青年の文章を読んだ。たいていは数百語程度の長さのもので、一様に誠実であり、しばし雄弁で、挫折や失敗、欲求不満、失望といった悪い事柄に関する記述には注意が払われており、極めて読みやすいものであった。もちろん、全員がそのような事柄について報告したのだが、私は各々の書き手が、悪い事柄の原因についてどのように説明するのかという点に注目した。(宇野訳p.118)
ここはOK 1)実はOKじゃなくて、「悪い経験を探して若者たちのエッセイを読んだ」「とても読みやすくて、挫折や失敗、欲求不満、失望といった悪い出来事をさがすにはうってつけだった」「悪い経験を探して若者たちのエッセイを読んだ」みたいな感じのようだ。。問題はその次。
Did he so by pointing to inherent flaws within himself and to factors that were chronic and pervasive? If so, I scored his essay at the pessimistic end of thinking.  “I was not happy in the service [because my] . . .  intrinsic dislike for the military.” Or did he explain bad events by distancing himself from their causes and circumscribing them? “I was in danger during the military attack [because] . . . I was not assigned a specific task that kept me in a single position.” If so, I scored his essays at the optimistic end of thinking.  Appreciate that these ratings capture whether a person believes the future is something that can be different from the negative past (optimism) or simply its relentless reincarnation (pessimism). (Peterson 2006, pp.108-109)
宇野先生の訳ではこう。
「学生は、自分に固有の欠陥についてどのように説明したのだろうか?次のように、慢性的で、広範囲にわたる要因を指摘しながら説明した場合、私はその文章を悲観的な考え方として評価した。「私は従軍が楽しくなかったo[なぜならば私には]……軍隊に対する生来の嫌悪感があるからだった」あるいは、悪い事柄について、それらの原因から距離を置き、限定する形で説明した文章もあった。「私は軍事攻撃中、危険な状態にあった°[なぜならば私には]……―つの場所にとどまる特定の任務が与えられていなかったからだ」このような説明の場合、私はその文章を楽観的な考え方として評価した。未来が、ネガテイプだった過去とは違うものになると信じているのか、または、未来は、ただネガティプなことの容赦なきくり返しであると信じているのかによって、それぞれを楽観と悲観として評価した。」
私も訳してみます。
「その人は、悪い出来事の説明をするときに、それを自分自身の生まれつきの欠陥や、永続的で全般的な要因のせいにしているだろうか? そうしている場合、私はその人のエッセイを極端に悲観的なものとしてカウントした。たとえば次のようなものである。「私は従軍中幸せではなかった。(なぜなら)私は生まれつき軍隊が嫌いだからだ。」あるいはその人は、悪い出来事を説明するとき、その原因から自分自身を切り離して、自分自身からは離れたものとして説明しただろうか?たとえば次のようなものである。 「私は攻撃中危険な状態にあった。(なぜならば)一箇所にとどめてくれる特定の任務を与えられていなかったからだ。」こういう場合、私はその人のエッセイを極端に楽観的な思考としてカウントした。こうして評価すると、その評価は、その人物が、将来は、ネガティブな過去とはちがったものになりえると信じているのか、あるいはネガティブな過去はえんえんとくりかえすものだと信じているかをうまく捉えてくれるのである。」
ピーターソン先生やその協力者のセリグマン先生たちよれば、悲観主義ってのは、悪いことの原因が自分のなかにあり、いつも、そして全部のことについてそうであると考える傾向で、楽観主義ってのは悪いことが起こってもその原因は自分ではなく、外的な要因であり、また一時的なもの、部分的なものであると信じる傾向なんよね。上のピーターソン先生があげてる例は、悲観的な人は「俺は生まれつき軍隊嫌いだから不幸だったし、軍隊にいるかぎるずっと不幸」「いつもそうだ」「なんでもそうなんだ」って考えて、楽観的な人は「不幸だけどそれは任務の運が悪かったからその時は不幸だった、でもそれは俺自身の問題ではなく、司令部が悪かったり、運が悪かったからだ。別の任務与えられたらうまくいったろうし、将来はうまくいくだろう」「今回はだめだった」「次はうまくいく」みたいに考えるってことなわねね。宇野先生の訳は「生まれつきの欠点」inherent flaws within himselfとかdistancing himselfとかの「自分」ってキーワードを訳出してないからよくわからないものになっている。

まあこれ書いてから、尊敬する先生に「いやそこちがうよ」って直してもらったんですが、そういうことしてもらって感謝すると同時に、「私他人の誤訳とか指摘しておきながら、自分もまちがってるし、能力足りないのに余計なことしてダメな男だよな、これって私の能力不足と生まれつきの性格の問題で、どうにもこうにもなおらんよな。これからもずっとそうなのだ、まだまだ同じことをくりかえすだろう」って思ってしまうわけで、これが悲観主義っすわ。ははは。下のセリグマン『オプティミストはなぜ成功するか』読むといい。セリグマン先生があれを書いたとき、悲観主義な人もがんばれば楽観主義になれる、って主張してたんですが、最近の『ポジティブ心理学の挑戦』あたりではなんかもうあきらめちゃってる感じで、「いろいろ勉強して楽観的になるテクニックはぜんぶ知ってるけど、気を抜くとすぐに「俺は負け犬だ」みたいに思っちゃう」みたいなこと書いてて笑えました。まあ社会学者は社会がわからず、倫理学者は倫理がわからず、心理学者は心理がわからん、みたいなのはよく言われるんですが、ポジティブ心理学研究する人はポジティブじゃないんしょね。


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References   [ + ]

1. 実はOKじゃなくて、「悪い経験を探して若者たちのエッセイを読んだ」「とても読みやすくて、挫折や失敗、欲求不満、失望といった悪い出来事をさがすにはうってつけだった」「悪い経験を探して若者たちのエッセイを読んだ」みたいな感じのようだ。

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