大学での学習・研究の基礎体力をつけよう

(もうすぐ出る某新入生向けテキストの1章。字数の問題でコンピューター・ネット関係削られてしまいました。)

大学は、人類が築きあげてきた学問の成果を学ぶとともに、社会や生活を改善するための知的な活動の方法を学ぶ場所です。ここではまず大学での学習のための心がまえと各種の基本的な知識について確認します。

大学生活の目的と心がまえ

皆さんは、企業に就職する、大学院に進学し学問的真理を追求する、社会に貢献する仕事をする、あるいは企業する、政治家になるなど、それぞれ様々な目標をもって入学してきたと思います。高校までは大学入学試験を通過するために画一的な教科を学ぶことが中心だったでしょう。しかし大学は違います。大学では、お仕着せの教科から進んで、社会学、政治学、経済学といった各種の本格的な学問を学ぶと同時に、社会人として、市民として本格的な知的な活動する訓練をおこないます。

「大人」になるとは、なにより、他人にまかせずに自分で的確に判断できるようになるということです。日本の法律では、二十歳を越えれば誰でも、大金のかかった契約や結婚などを、すべて自分の判断でおこなうことができる大人になります。また、近代社会における民主主義は、そうした啓蒙によって、つまり教育と学習によって、自分で判断し行動できるようになった「市民」が、さまざまな意見を寄せあい批判しあい議論するなかで立法・行政活動がおこなわれることを前提としています。

「大人」や「市民」になるためには、もちろんこれから大学で学ぶような幅広く深い知識を身につけることが重要なのですが、実は、大学で学ぶ知識そのものよりは、むしろこれから一生を通じて自発的に学習し行動する能力を高めることの方がはるかに重要です。高校までは勉強の目的は、とにかく試験問題に正しく答えることだったかもしれません。しかし、今後あなたが大人として、市民として答を出さなければならない問題に「正しい」答があるかどうかはわかりません。あなたがどういう人生を選択するかという問題を正誤問題にして採点してくれる人はいません。また、原発を再稼働するべきかどうか、人種差別的発言を法的に規制すべきかといった現在議論されている社会問題をマークシート問題にしてくれる人もいないのです。

たった4年間の大学生活で学べる知識はたかが知れています。また、大学で学んだ知識の少なからぬ部分は、学んだ時点では最新のものであったとしても、10年、20年経つうちには、たちまち古い知識、役に立たない知識、場合によってはまちがった知識になってしまいます。重要なのは知識そのものというよりは、正しく信頼できる知識を求め続け発展していく「学問」(科学)という営みの基本的な態度と、新しい知識を収集し整理し活用する力、そうした知識を常にアップデートしつづける力、そして自発的に学びつづけようとする習慣です。

実際のところ、大学卒業後に社会人がおこなう知的活動は、企業活動であれ、市民活動であれ、個人的・家庭的活動であれ、大学で行うこととまった同じ構造になっているのです。ある目標を定め、レクチャーを受け、アイディアを練り、データや資料を集め信頼性を検討し、計画や企画書を作り、会合で自分のアイディアをプレゼン(提示)し、仲間や論敵と話しあってアイディアや計画を改善し、決断し計画を実行し、その結果を評価し、次の活動につなげます。現在企業が求めている人材も、まさにそうした能力をもっている人々です。企業への就職活動で、あなたはまず自分の責任で企業の資料を収集し就職活動の見込みのある計画を立てねばなりません。課せられる「面接」はあなた自身のプレゼンの場所であり、「グループディスカッション」は、あなたが積極的に他の人と議論をして全体に貢献できるかどうかを判断するためのものです。

こうしたさまざまな活動のための知的な訓練は、おそらく自発的なものでなければ効果がありません。知的な活動の能力は、自分で考えて考え、自分で選択してみることによってしか身につけることができないのです。

まずは大学ガイドブックから

そこでまず心がけてほしいのは、常に自発的に情報を探しつづける習慣をつけることです。世の中にはさまざまな情報があり、よい情報を入手することができればそれだけうまく活動しうまく生きることができるようになります。

私が大学入学の時点で読む習慣をつけることをお勧めしたいのは、実践的なガイドブックです。

なにをするにもうまい方法があり、そのためのガイドがあります。ガイド情報へのガイドもあります。地図をもたずに登山すれば運が悪ければ遭難するでしょう。健康と美容のためにダイエットしたいと考えたときに、いきなり1ヶ月で5キロ痩せようと思いつきで決め、食事を抜けば痩せるはずだ、と考えて無理なダイエットを実行しても必ず失敗し、一見成功したように見えてもすぐにリバウンドするでしょう。しかし最新のダイエットのガイドブックを見れば、無理のない適正な体重を目指した計画を立て、食事と体重の記録をつけ、筋肉をつけるエクササイズをするべきであること、その実現のための詳しいノウハウやティプス [1]「ティプス」tipsは「ちょっとしたコツ、秘訣」です。 を知ることができます。

同じように、大学に入学はしたもののなにをしたらいいかわからない、時間割の組み方がわからない、勉強の仕方がわからないといった壁にぶつかったときには、とりあえず数冊ガイドブックを読んでみればよいのです。サークル活動や人間関係で悩んだときも、就職活動をはじめるときも、まずはガイドブックで基本的な考え方をおさえてから活動すれば苦労が減ります。もちろんガイドブックを読んでその通りに行動しても自動的にうまくいくことはありませんが、本当に自分で考えるための参考にはなります。

最近は、大学での勉強法についてのよいガイドが数多く出版されています。そのほとんどが、講義の聞き方、ノートの取り方、レポートの書き方、図書館の使い方、よいプレゼンテーションの方法など、大学生活に必要なことを事細かに説明してくれています。ガイドブックを読むコツは、同じ種類のものを複数冊目を通すことです。1冊だけだと、もしかしたらその本は偏った本かもしれませんし、オリジナルすぎる考え方をしているかもしれません。3冊程度目を通せば、おそらくどの本でもだいたい同じようなことが強調されているでしょう。それはおそらくその分野についての非常に基本的な知識です。そこを押えれば、あとは必要ならば気にいったものを購入し、自分の新しいアイディアで試行錯誤すればよいでしょう。

具体的に推薦できる書籍を章末のブックガイドにあげておきました。こうした本は大学図書館に数多く収録されていますので、早めに目を通しておくのがよいでしょう。インターネットにも多数のガイドがあります。特に「名古屋大学新入生のためのスタディティプス」(http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/stips/)は定評がありますので一見の価値があります [2] … Continue reading

この文章を読んでいる人が、そうした本を自発的に手にとってくれれば、実はこの文章の目的は完了しています。以下はポイントだけを述べておくことにします。

大学教員という人々

ここで、大学教員という人々について簡単に説明しておきます。大学教員は大学における教育者であり「先生」です。しかし多くの大学教員はむしろ、その専門分野の「研究者」「学者」を自認しています。専門分野の研究者・学者として、大学教員は、より新しい知識、より信頼できる知識、より優れた意見を生産することが求められています。大学教員は各専門分野の研究のプロフェッショナルですが、中学・高校の先生たちとは異なり、実はほとんどの教員は、専門的な「教育」の訓練は受けていません [3]もちろん最近ではFD(ファカルティ・デベロップメント)として大学教育の改善のための取り組みがおこなわれ、多くの教員がとりくんでいます。 。また、高校の教師は教育委員会や先輩教師から授業内容や指導法などを細かく指導されているでしょうが、大学教員は基本的にはすべて自分の責任で、授業内容から授業方法、成績評価をとりしきります。したがって、同じような科目名の授業でも、内容は担当する教員によって千差万別になります。

高校の授業で学んだことは、多くの人々によって承認された基本的な知識でした。大学ではもっと新鮮な知見、現在発見されつつある知見、あるいは新しい問題に対する検討や解決策を紹介し、授業のなかで検討することが期待されています。学生に教えるべきことが定まっていた高校とは違い、大学の講義内容は原則的にその教員に完全に任されており、必然的にその教員の専門的な研究と研究上の立場を反映したものになります。「○○学入門」のような科目名の授業でも、教員は常に新しい知見を取り入れ紹介していきます。大学教員は、授業をおこないながら同時に自分の最新の研究をおこなっているのであり、授業のなかで新しい知見を検討し試行錯誤しながら、自分の研究を磨いているのだと理解してください。

そうした新しい知識や見解は日々更新されるものであり、また常に批判され議論されているものでもあります。A教員が賞賛していた見解をB教員が否定する、C教員がけなしていた本をD教員が推薦する、ということを見ることもあるかもしれません。これは当然のことなのです。大学の教員はまずはその分野の「研究者」であり、現在の最新の研究成果にもとづいて意見を戦わせて、可能なかぎり真理に近いものや信頼できる意見を探しもとめています。高校生の勉強はすでにできあがった知識の体系を学ぶこと(そしてその達成度を大学入学試験などでテストすること)を目標にしていたわけですが、大学生になるということは、そうした知識と学問が刷新され磨きあげられていく場に居合せ、いっしょに研究することだと考えてください。したがって、大学教員の言うことをすべて正しいと考える必要はありません。むしろ批判的にいっしょに考えるという態度をもってほしい、一方的に学ぶだけの「生徒」から、若い「研究仲間」に成長してほしいと教員は願っています。

講義の聞き方

大学では、講義形式の大人数授業も数多く受けることになります。講義は教員のレクチャーを通して、本を読むだけでは知ることのできない知識を獲得することができます。生身のトークによるレクチャーは、本を読むよりもインパクトがあり記憶に残りやすいものです。また、意外な豆知識、裏話、教員自身の考え方などを知ることができるのも魅力です。

また、講義では知識を吸収するだけでなく、各分野の研究者としての教員を観察してください。教員の上手でわかりやすいプレゼンテーション(プレゼン)のコツ、教材(レジュメ)の作り方、発音・抑揚・間の取り方などの話し方、力点の置き方、教壇での姿勢、板書する姿勢等を観察しておけば、いずれ自分がゼミなどでプレゼンするときの参考になるでしょう。

講義で聞いた知らない単語、理解できない専門用語などを放っておかないようにしてください。もしわからない言葉があったら、辞書をひく、教科書(テキスト)をチェックしなおす、各種の事典などを参照するなど工夫して、理解できないことをそのままにしない、という癖をつけてください。

授業中の約束事

ごくあたりまえのことですが、授業には約束事があります。常識で考えればいちいち列挙する必要はないでしょうが、あえていくつか挙げておきます。

  • どの授業でも、私語は厳禁です。私語は他の人の集中を妨害します。遅刻・途中退席も原則的に禁止です。一部には、講義をしている人が、テレビのなかで話をして自分たちの行動とまったく関係のないかのように行動する人がいますが、そうしたことは許されません。
  • トイレや体調不良のときは教員に軽く会釈するなど、それらしき合図して退席してください。再度入ってくるときも邪魔にならぬように。
  • 授業中の飲み物については、いまだに意見が分かれていますので、教員に個別にOKかどうか確認してください。ガムなどで口をもぐもぐ動かすのはみっともないのでやめましょう。机につっぷしての居眠りなども子どもっぽく醜いものです。
  • スマートフォンなどは授業中にも辞書やメモ等に使えて便利なことがありますし、積極的に使用を促す授業もあるようですが、気が散ることを気にする教員が大半です。特に許可のないかぎり、基本的には電源を切りカバンに入れてください。
  • イヤホンで音楽聞く、雑誌や旅行パンフを読むなどはもってのほかです。雑誌を読み音楽を聞くなら、教室よりももっとよい場所があるでしょう。
  • 一番の基本的なことは、自分を透明人間だと思わないことです。人数の多いに授業に出席していると、つい自分は誰にも気にされない透明人間だと思いこんでしまいます。しかし、どんな場所でもあなたの行動や表情は他の人に見え、影響を与えていることを意識してください。

メモとノート

メモやノートをとることは知的活動の一番の基本技術です。基本的に将来のための職業訓練だと思ってください。人間の記憶力などというものはまったく信頼できないものです。研究者であれ、ビジネスパーソンであれ、ジャーナリストであれ、秘密探偵であれ、なにをするにしてもメモをとる癖がついていなければなにもできません。

しかし実際には、メモの取り方・ノートの取り方といったことはあまりにもその人の知的活動の核心部分に近く、プライベートなものでもあるため、実際に書いたものを見せてもらうことは少ないものです。職業上の秘密、秘訣に近いものなので、赤の他人には簡単には教えられないのです。私自身、他の研究者がどういった研究ノート・アイディアメモをとっているかを見たことはありませんし、見せたこともありません。またその手法も非常に多様で、このやり方が一番だ、と言えるものがあるのかどうかもわかりません。知的活動をおこなっている人々は、常によいメモの方法を探索しているといってよいと思われます。

とりあえず言えることは、講義にかぎらず、ノート・メモをとる目標は、話の基本的な組立を再現できるようにすることだ、ということです。大学教員は高校までのように学生がノートを取りやすいように板書してくれたりすることはありません。多くの教員にとって黒板はただのメモ帳です。現在話していることのキーワードを殴り書きするだけの教員も少なくないでしょう。あまりほめられたことではないでしょうが、教員が黒板に書いたことよりも、黒板に書くことを忘れて夢中になって話している内容の方が重要なこともしばしばです。こうしたタイプの講義で、板書されたキーワードだけをノートに写してもなんの意味もありません。また、大学以降の社会で話を聞くことになる人々は、必ずしも話をしなれた人ばかりではありません。要点がわかりにくい話のなかから要点や事実を探しだすことが必要になることも多いものです。そうした場合には、なにが「重要な点」であるかということは自分で判断するしかありません。

したがって、知的訓練として、できるかぎり教員の説明を自分で文章にしてノートにする習慣をつけるべきです。また、板書せずに口頭で説明されたこともできるかぎりノートしてください。余裕があれば、特に重要だと思われることや疑問も簡単でいいのでメモしておきましょう。また、話の内容をコンパクトにまとめた文章を作ってみてください。こうした地道な自発的学習のつみかさねが知的な能力の向上につながります。

典型的なノートの取り方の詳しい手ほどきは、ブックガイドにあげた書籍を参照してください。とにかく最初は「なんでも書きつける」という態度で1時間集中して書いてみればよいでしょう。思考錯誤して自分なりの方法を見つけてください。この章のブックガイドにあげている書籍でもノートの取り方をそれぞれの方法で説明しています。さまざまな流儀があることがわかるでしょう。

またペンやノートの文具は基本的な装備なので書きやすいものを探してこだわりましょう。

ゼミ・少人数授業では積極的に発言する

少人数授業や「ゼミ」こそが、大学教育の核です。自分で調べ、考え、プレゼンし、議論することを学ぶには、やはり少人数の方が効果的です。

一番大事なのはなんらかのしかたで「みんなと協力する」という態度です。積極的に発言しましょう。教員や他の受講者の言うことがわからなかったら、すぐに疑問をぶつけ、また話題を提供しましょう。若いうちは人前で話すことがはずかしいと思ったり、「私がだめだからよくわからないのだ」「私のアイディアや疑問なんか価値がない」と思ってしまって黙りこんでしまったりすることがありますが、そうした思いを捨ててしまいましょう。実社会でのミーティングや会合では、単にその場にいて話を聞くだけでなく、アイディアを出し、疑問を明らかにして、その場にいる全員がなにかをしっかり理解すること、新しいアイディアや知識を身につけること、協力してなにかを発見することが期待されているのです。単に誰かの話を聞いてその通りに行動するだけなら、少人数での会議やミーティングの必要はないのです。アイディアや疑問を共有することこそが学問や共同作業の中心部分であり、ゼミや少人数授業はその技術を学ぶ最善の機会なのです。ポイントを簡単にあげておきます。

    • 必ずなにか発言することを心がけること。なにも発言しないということは、その会合のテーマや、その場にいる人びとに対して関心がないということを意味してしまいます。
    • 人の話を聞く態度や話をする態度や姿勢は非常に重要です。他の人が話しているときはその人の表情や口調、姿勢、その他に注目し観察すること。
    • 自分は内容がよくわかったので質問すべきことがないと思ったときでも、「質問はないです」ではなく「〜ということですね」と確認する。意外に自分が理解したと思っていたことは正確でなかったり、重要なポイントが違ったりするものです。

「本」には気をつけよう

いつの時代も、信頼できる情報を与えてくれるのは書籍・論文です。図書館にも書店にも書籍は大量にあります。しかしすべてがよい本であるとは限りません。なかには、政治的に極端な意見や、明らかにまちがった「科学」情報をどうどうと掲載している本や雑誌もあり、政治や人々の健康などに与える影響が懸念されています。また、ゼミなどで課題を出すと、時々いわゆる「トンデモ本」を参考にしてレポートを書いてしまう人がいます。そうした学生さんに、「その情報はどこから手に入れたの?」と聞くと「本に載っていた」という答えをよく耳にします。本はたしかに知識を与えてくれますが、本もさまざまでああって本として書店で売られているからいるからといって信用できるというわけではありません。

まず、その「本」は誰が書いたものかを常に意識してください。文章は必ず誰かが書いたものです。その「誰か」が信用できる人なのかどうかを確かめながら読まなければなりません。そのために役に立つのが、本の奥付(最終ページ)にある筆者の経歴や業績です。なにが専門分野なのかどんな学歴や職歴なのかを確認してください。たとえば、経歴や職業が医学や保健学となにも関係がない人が書いたダイエット本は、単なる筆者の個人的な経験にもとづいたものでしかない場合があります。そうしたダイエット法は、むしろ不合理で危険なものかもしれません。この『現代社会を読み解く』に掲載されている論文の参考文献を読んでもわかるように、学術的な書籍・論文に付けられる必ず筆者が先頭に表示されます。これは学問の世界では「誰の意見か、誰のデータか」ということが最も重要な情報だからです。先の「その情報はどこから?」という質問に対して教員としては、「○○学者の××が書いた『〜』という本を読んだ」と答えてほしいわけです。そしてその筆者が人びとからどんな評価を受けているのかも意識してほしい。

出版社にも注意してください。当然のことながら、しっかりした出版社はしっかりした本を出す傾向があり [4]世間的に有名でない出版社の本の質が低いということではありません。 、しっかりしたシリーズはしっかりしたシリーズ編集をおこなっていてしっかりした本が収録されている傾向があります  [5] … Continue reading 。また、一般向け雑誌や学術雑誌にも格付けが存在しています。学問の世界では、一流の学会が発行している雑誌に掲載されている論文は、「査読」という批判的な目にさらされ評価されたものなので、最も信頼がおけるとされています。こうした出版社や雑誌に関する知識は一度には身につきません。どの出版社がしっかりした出版社であるか、といったことは常に情報を集めつづけなければわかりません。

また出版年にも注意してください。新しければよいというわけではありませんが、学術的な情報は常に刷新されているので、たいていの学問領域では20年前の書籍・論文は20年前の時点での知識や意見として受けとめねばなりません。

脚注や後注、書籍の後ろにある参考文献リストや索引がしっかりしている本は内容もしっかりしていることが多いもので、一応の目安になります。

一番簡単なのは、専門の教員に推薦や評価を求めることでしょう。大学教員は研究のプロですので、自分の専門分野について勧める本は基本的に信頼してかまいません。どの本がよい本であるかということは、大学教員たちの一番の関心事であり、専門分野については常に情報交換し評価づけをおこなっています。また、オンライン書店や書評サイトの記事は玉石混交ですが、参考にはなります [6] … Continue reading

図書館を利用しよう

教員と学生にとって、大学施設で最も重要なのは図書館です。大学生と高校生との一番大きな違いは、なんといっても自由な空き時間があることでしょう。読まねばならない本、読みたい本やDVDを自分で購入するのはたいへんな負担ですので、ぜひ図書館を有効に利用してください。学生生活のはじめのうちに、場所を確認し、書架や雑誌室をひとまわりして、どこにどんな本があるかざっと見ておくとよいでしょう。

大学図書館には高校とは比べものにならない大量の本が収蔵されており、その大半は直接本を眺めることのできない閉架書架や学外書庫に納められています。そのため、実際にはOPAC(オンライン蔵書検索)等で検索して利用することになります。使い方は大学の「利用の手引き」等で確認してください。章末の図書ガイドでも図書館の利用方法について詳しい説明が掲載されています。

大学図書館は視聴覚資料も充実しています。また、府立図書館や市立図書館など公共図書館の場所もチェックしておきましょう。一般向けの軽い小説、一般生活のハウツー本などはそうした図書館の方が充実しています。また大学図書館も公共図書館も、「購入希望」「リクエスト」等を受けつけています。あなたが他の人にも有益であろうと判断した本については、積極的にそうした要望を提出してください [7]もちろんその図書館にふさわしい書籍でなければなりません。

また、必要な図書を探すために図書館カウンターの「リファレンスサービス」を利用することもできます。ある程度自分で調べてわからないことがあったり、どうすれば情報を見つけることができるか見当がつかなかった場合には、専門家が本探しを手伝ってくれたり、探し方をアドバイスしてくれるはずです。教員もしばしばお世話になっていますので利用してください。しかしなにも調べずに相談するのは避けてください。まず図書館の「利用の手引き」を熟読して、何を探したいのか、自分はどこまで調べたのかなど、しっかり質問すべきことを考えてからから訪問しましょう。

また、図書館の各種のルールは守ってください。基本的に講義と同様に私語は厳禁です。

インターネットの利用

メールの書き方

大学生になると、メールを送る相手は親しい友人だけではなくなります ので、マナーに注意してください。特に携帯電話・スマートフォンからのメールは失礼になりやすいものなので注意してください。携帯などではメール相手の友人をアドレス帳に登録しているために相手が誰かすぐにわかりますが、友人以外はあなたが誰だかわからないことがほとんどです。基本的に友人以外には携帯・スマホでのメール連絡は避けた方が無難です。

細かいマナーについては、現在、「メールの書き方」等でサーチエンジンで検索すれば適切なマナーや例文が上位に表示されているようですので参照してください。大学教員に対するメールでは、(1)自分の氏名を正しく設定する、(2)必ず「件名」をつける、(3)学部・学籍番号等を明示する、等に注意してください。

検索エンジン・Wikipedia

Google検索 (http://www.google.co.jp/)などの検索エンジンは便利なもので、多くの人が使っているでしょう。Google Scholar (http://scholar.google.com)はネットに大量にある情報のなかから、論文などアカデミックな形になったものだけを収集したものでGoogle本体より効率よく学術情報を探すことができます。日本国内の論文についてはCiNii Articles (http://ci.nii.ac.jp/)も使いやすいでしょう。

Google等の検索エンジンで検索した場合に、上位に表示されるのは一般に、人々が好んで見ているページであるとされています。その表示順番の決定の方法は、一般には明らかにされていません。また、そのページが本当に正しい情報を含んでいるのか、学問的・政治的に見て偏りがないものか、ということはまったく保証されていないことは常に意識してください。まずは書籍と同じように、誰が書いた文章なのかを意識することが最も重要です。匿名の筆者による情報、詳細がわからない企業による情報などは、基本的に信頼することができません。

Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/)もすでにほとんどの人が利用していることと思います。私自身も非常に頻繁に利用します。ただし記事の品質はさまざまですし、誤情報も少なくないので注意してください。くりかえしますが、情報の質を判断する一つの基準は、その出典(ソース)がしっかりしたものかどうかを確認することです。出典のない記事 [8]Wikipediaでは出典がない記事は「独自研究」として批判されます。 は信用することができませんし、出典がついていた場合にも、その出典自体がどの程度信頼できるものかを考える必要があります。

ネットでの情報の信頼性をどう扱うかということは、現代の我々に課せられた大きな課題です。デマや誤情報、偏った意見などに惑わされることなく、情報を批判的に吟味することを学んでください。

SNS、ウェブサービス

他に、ネットではさまざま便利なサービスが提供されています。現代の大学生はそうしたサービスを効果的に利用することも意識しておかねばならないでしょう。私自身が頻繁に利用しているものを簡単に紹介してみましょう。

2014年現在、私はMediaMarkerという蔵書管理サービスを使っています [9]「ブクログ」や「読書メーター」といった類似のサービスも多くあります。 。これはオンライン書店のAmazonの情報を登録し、感想コメントや読書メモなどを記録しておくことができるサービスです。他の人々のコメントを参考にすることもできますし、同じような本を読んでいる人を「フォロー」すれば、近い関心をもっている人がどんな本をどう読んでいるかがわかり興味深いものです。興味をもった本は「ウィッシュリスト」に登録しておいて、あとで図書館に蔵書があるか探したり、まとめて発注したりしてします。もちろんAmazon自体も書籍の検索や評価を知るために頻繁に利用しています。

近い分野の研究者、ブログではおもしろい時事評論を書く人、優れた書評記事を書く人々などのブログ、ウェブニュースサイトなども研究の参考になることが多いもので、50〜100件程度、RSSリーダー(Feedly)を使って巡回しています。

各種のメモや思い付き、参考になるウェブサイトの記事の保存などは、Evernoteというサービスを利用しています。また大学と自宅のPCのファイルを同一のものにするためには、DropboxGoogleドライブというサービスを利用しています。

TwitterやFacebookなどの SNSでも近い分野の研究者どうしでフォローしあい、研究に必要な文献の情報やテキストの解釈などをカジュアルに議論することも少なくありません。独り言をつぶやき、日常的な些事について話しあうのも楽しいものです。しかし、SNSなどで発言することは、自分のプライバシーを公開することにつながります。また反社会的な言動などがネットで話題にされ「炎上」することも少なくありません。仲間うちでのネットでのいじめも社会的な問題になっています。ネットは便利であると同時にさまざまな危険もあります [10]江口聡 … Continue reading  。

こうしたネットやPCについての情報や知識、ノウハウもすぐに古いものになるものですから、自分の使う道具やサービスについての情報は常に集め判断し工夫しつづけなければならいわけです。

おわりに

これまで書いてきたような「お説教」のほとんどは、大学に入学したてのときはありがちなお説教として聞き、強制的に読まされても実は身につくものではないでしょう。結局私たちは、自分がなりたいものにしかなることができないのです。大学での勉強や研究も、もしあなたがそれを望まなければなんの役にも立たないでしょう。

しかしもしあなたが自発的になにかをし、何者かになろうとしているならば、大学が提供できることはたくさんあります。あなたによって有意義であると思われる4年間を過ごせるように、常に情報にアンテナをはり、試行錯誤を繰り返してくれることを願っています。

ブックガイド

    • A. W. コーンハウザー (1995) 『大学で勉強する方法』、玉川大学出版部。アメリカの大学向けですが、大学生の心がまえの本として定評があります。薄くて読みやすい。
    • 筒井美紀 (2014) 『大学選びより100倍大切なこと』、ジャマンパシニスト社。これも大学生のこころがまえについての本です。高校での勉強はプールで泳ぐようなものであり、大学からは海で泳ぐようなものです。
    • 佐藤望(編)(2012)『アカデミック・スキルズ』、第2版、慶應義塾大学出版会。ノートの取り方、レポートの書き方、図書館での調査などがコンパクトにまとめられています。
    • 学習技術研究会 (2011) 『知へのステップ』、第3版、くろしお出版。内容は上の『アカデミック・スキルズ』と同様ですが、ノートの取り方等はより詳しく説明されていて参考になるでしょう。
    • 田中共子(編)(2010) 『よくわかる学びの技法』、第2版、ミネルヴァ書房。これも事細かにノート、図書館、ネットでの調査などを解説しています。

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References

References
1「ティプス」tipsは「ちょっとしたコツ、秘訣」です。
2同じ名古屋大学の「成長するティプス先生」(http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/tips/)は大学教員のためのティプスですが、学生とは逆の教員の側から大学を見てみるのも興味深いでしょう。
3もちろん最近ではFD(ファカルティ・デベロップメント)として大学教育の改善のための取り組みがおこなわれ、多くの教員がとりくんでいます。
4世間的に有名でない出版社の本の質が低いということではありません。
5私見では、たとえば新書ならば中公新書は非常に高い評価を得ています。また岩波ジュニア新書は非常に良質でどれも読む価値があります。ただしこうした評価も年とともに変わりますし、先に述べたように書籍やシリーズや評価について研究者の意見が食い違うことは多々あります。
6しかしたとえばAmazonブックストアでぜんぶ最高評価、という本は私ならばあまりに評価が高すぎて関係者や「信者」による「自作自演」を疑います。
7もちろんその図書館にふさわしい書籍でなければなりません。
8Wikipediaでは出典がない記事は「独自研究」として批判されます。
9「ブクログ」や「読書メーター」といった類似のサービスも多くあります。
10江口聡 (2010)「ウェブ炎上・匿名・プライバシー」(加茂直樹・初瀬龍平・南野佳代・西尾久美子編,『現代社会研究入門』、晃洋書房)を参照してください。

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