性的倒錯入門

性的倒錯とか変態とかってのはいろいろあります。 Wikipediaの性的倒錯の項 goo.gl/v5eOFとか見ると圧倒されますね。人間生活は多様だ。

露出症、フェティシズム、接触性愛、小児性愛、サディズム、マゾフィズム、服飾倒錯、窃視症、動物性愛、部分性愛、屍体性愛(ネクロフィリア)、オートガイネフィリア……同性愛やオナニズム、オーラルセックスなんかも変態や倒錯とみなされいた時代があるし、いまでもそう思ってる人はいるだろう。同性愛運動の成果でアメリカ精神医学会の診断基準DSM-IIから同性愛が倒錯でなくなったは1973年ぐらい。

どんな性欲や性的活動は正常でどんなものが倒錯なんだろう? こういう疑問に対しては、国内では「正常/倒錯という見方自体がなんのかんの」とかそういう話になっちゃうわけですが、本当かな?私は全然納得してない。

まあ同性愛とかずっと昔からかなりの人が好んでいるわけだし倒錯的とか言う必要はないわけですが、人間よりモノが好きとかってフェティシズムや、死体じゃないと興奮しないとかってネクロフィリアとかになるとなんかたしかに変態的と言いたいところがあるです。サディズムとかも(プレイやファンタジーじゃなくて本気のは)恐いし、どっかおかしいんではないかと言いたくなるものです。

単に統計的にマジョリティはこうで、マイノリティはこれくらいいる、とかって調査も大事ですが、哲学者はイスに座っていろいろ考えてみる。

この文脈の記念碑的な論文がトマス・ネーゲル先生の「性的倒錯」(1969)です。『コウモリであることはどのようなことか』に収められている。とにかくネーゲル先生は偉大な人で、数多くの分野でその後長く続く論文を提出している。”seminal paper”とかってされるものを10本ぐらい書いてる。応用哲学って分野を一人ではじめた感じがあるくらい偉大。けっこう評価されているけど、もっと評価されるべきだと思う。セックスの分析哲学はネーゲル先生がはじめたって言ってもいいくらい。(もっともネーゲル先生に対するサルトルあたりの影響も哲学史的にはおもしろい)

なにが倒錯かっていうのは「倒錯」って言葉をいくら分析してもなかなかわからない。だってまあ「本道」があってこその倒錯だろうしね。だらか本道のセックスなり性的欲望はどんなものか、ってのを示さないとならん。ネーゲル先生は性的活動や性欲のパラダイムケースみたいなのを提示してみよう、正常な人間の性欲と性的活動はどういうふうにおこなわれているんだろうか反省してみよう、ってわけです。

ネーゲル先生はモノに対する性欲とかやっぱり異常だろうって思っている。んじゃ正常な大人の性活動ってどんな感じよ。

ロメオとジュリエットがパーティー会場で出会ったとして、そっから先正常/典型的にはどういうふうに話が進行するか。ジュリエットがロメオに気づいて、ロメオもジュリエットに気づいて、おたがいに気があることを感じる。つまりジュリエットはロメオが自分に興味をもっていることに気づき、そして自分がロメオが気づいていることに気づく。逆も同じ。そして自分がロメオに関心をもっていること、興奮を感じていることに気づく。空間的に近づいたり、話をしたりするうちに相手が性的欲望をもっていることに気づき、自分の性的欲望を相手が気づいていることにも気づく。自分が性的に興奮していることに気づき、相手が自分に対して性的欲望をもっていること、性的に興奮していることによって余計に興奮し……

みたいな感じ。あんまり正確じゃないけど、典型的な性欲や性的活動は相手の性的欲望や性的興奮に対する欲望、なのかもしれないとかそういう話。これはけっこうおもしろい。

同性愛なんかはまあお互いもりあがるんだろうから、ロメオとジュリエットをパラダイムとすればまあ特に違うところはない。

一方、我々が典型的に倒錯的と感じるいくつかの欲望や活動は、相手の性的欲望や性的興奮に無関心なんよね。ハイヒールは私に興奮したり性欲を抱いたりしないっしょ。ヤギも私に興奮しない。死体も。レイプや本気のサディズムを好きな人とかってのもやばいと感じられるのはそういうところにあるのかもしれない。

まあこういう「倒錯」はそれ自体は道徳的概念ではない。「倒錯だから悪い」とかってことはないってことね。ネーゲル先生は「どんなセックスでもないよりはまし」みたいなことを言っているです。ないよりはましっすよ。でも人に迷惑かけるのはやめましょうね。

まあこういうネーゲル先生の議論あたりからふつうの “plain sex” ってどんなだ、とかそういう議論がはじまることになるわけです。

セックスの哲学だけじゃんなくて、哲学に興味ある人は必ず読みましょう。

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永井先生の訳は注意深く正確ですてき。でも英語版でも読みたい。

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大正期に「変態」という言葉がどういうふうに輸入され一般的になっていったのか、って話は菅野先生ので。ちょっとつっこみが甘いとは思うんだけど。

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