杉田聡先生の考えるあるべきセックスの姿

国内で売買春やポルノグラフィを猛烈に批判している人の一人に、杉田聡先生がいます。

杉田先生によれば、本来セックスは双方が「自発的な意思」によって「自主的に興奮」し、双方が「性的快楽」を味わうことができなければならない。売買春は一方だけが性的興奮や性的快楽を得るものなので不道徳だ、それはもはやセックスではなく性暴力と等しい、と言いたいようです。セックスに金銭をはさむな、そんなのはセックスではないと。

売春は女性の望まない性行為を模し、「強制わいせつ」を模し、「強姦」を模している。要するに売春は性的侵害を模している。……売春が、抱擁・性交・射精などを含む点においてセックスを模した営みと見えたとしても、それが経済行為・サービスとして金銭を媒介に行われるとき、そこで行われる営みはすでに愛し合う者同士の、あるいは互いに性行為そのものへの自発的な意思を有する者同士のセックスでないのはもちろん、それを模してもいない。金銭を媒介にしているという事実、したがって売春者にセックスそのものへの欲求と同意がないという事実は、その性的営みそのものに投影されざるをえない。金銭的動機にもとづく性行為においては、セックスにあるべき女性の自主的な興奮も反応も、それに伴う性的な喜びも存在しないのである。(杉田聡、『男権主義的セクシュアリティ』、青木書店、1999、pp.172-174)

まあなかなか説得力がある。

しかしこれってどうなんですかね。

「自発的な意思」ってのは相手の身体、あるいは身体との接触に対する性的欲望と考えていいんでしょうか。

まず気になるのは、本当に売買春においては性的欲望や性的快楽が一方にしか存在しないのかどうか。なんか男性誌とかAVとか掲示板とか見てると、男性客ってのはいかにして女性に性的快楽を味わってもらったり性欲を喚起するかをいっしょうけんめい考えたり試したりしているように見えますね。

第二に、通常の愛ある人々の間のセックスにしても、お互いが同時に自発的に開始するものなのかどうか。ふつうの人のセックスっていうのは「見あって見あって、はっきょい、のこった」みたいに始まるものなのかどうか。それに多くの男性は女性の歓心をひくためにおもしろい話したりプレゼントしたり指名でお金つかいまくったり、もういろんなことするわけでねえ。セックス産業でもそういうのは多いんじゃないかな。

まあ性産業にしてもキャバクラにしても上から目線っていうかお客だから接客しろ、とか、「キャバ嬢は江戸時代も知らないバカ」とか言っちゃう人もいるみたいだけど、そういうひとってのはたいていモテないことに落語の世界でもなってる。お金払って、さらにもてようとするのがまあそういうのが好きな人々なんじゃないっすかね。

性的快楽もなかなかあれだ。片一方に性的快楽がないと不道徳なセックスなんて言われると、ヘタな人はセックスするのは禁止しないとねえ。まあいろいろ考えちゃいます。

女性の自主的な興奮や反応なんて言われると、「自主的」ってどういうことだろうなあ、と思いますね。どうすると女性は自主的に興奮するんだろうか。男だってどうすりゃ「自主的に」興奮するのか。自主的ってどういうことだろう。まあお金払ったら興奮する人がいるとは思えないけど、あまりにもお金使わないと興奮しない人はいるような気がする。ははは。

またたしかに愛のあるセックスの方が強い性欲をいだくことが頻繁だろうし、性的快楽も多いだろう。愛のあるセックスの方が非道徳的な意味で「よい」セックスな場合は多いかもしれません。愛のない金銭セックスがそんな不道徳かどうかはまだわからない。

それに必ずしもお金払ったりもらったりしたら快楽の点で劣るセックスになるかどうか。愛だの親密さだのを考えないセックスが快楽などの点で優れている場合ももしかしたらあるかもしれんし。

互いの快楽を追求するのがセックスの本来の/あるべき姿だ、みたいなのはそうなのかな、と思うわけですが、お金払ったセックスがそれを目的にしてないのかどうか。けっこう重なりあってる部分もあるんじゃないですかね。わからんですが。ゴルゴ13だって、よくお金払ってセックスしてるけど性の達人ってことになってますからね。ははは。「当店では嬢の自主的興奮と性的快楽を最重視いたしますので、お客様のそのようにお心得ください」みたいな店もけっこう流行るのではないか。

でもまあ杉田聡先生は独善的なところも感じないではないが、哲学者らしいキレ味の議論を提出しているので、売買春やポルノ、性暴力などを考えたい人は必ず読んでみるべきです。上野千鶴子批判とかもなかなか迫力がある。

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杉田先生はもとはドイツの哲学者カントの研究者のはず。私とってはH.J.ペイトン先生の『提言命法』(行路社)を訳してくれたひと。これは手に入りにくい名著。amazonには古本でもないね。あとポルノ批判・売買春批判の他に、自動車批判でも有名。まあ筋金入りの反資本主義左翼。けっこう説得力があるので一読してみるとよい。

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