ポルノとアート (1) それはどう違う?

芸術家の人がわいせつ物頒布かなんかで逮捕されたりして、わいせつと芸術、みたいな古い感じの話がネットで話題になっているようです。あとバルチュスっていう有名な画家さんの展覧会を見て、「児童ポルノだ!」みたいに言ってる人たちもいた。実はあんまり興味ないんですが、まあいろいろあって気分転換にちょっとだけ。そういう問題の本筋にかかわる話ではないです。

日本の「わいせつ物」ってのは(1) 徒らに性欲を刺激・興奮させて、(2) 普通のひとの正常な性的羞恥心を害して、(3)善良な性的道義観念に反するものだ、っていうのが反例とかで出てるらしいですね。わたしはこの条件の最初の「徒らに(いたずらに)」っていうのが好きです。よく知らないんですが、この「いたずらに」っていうのは「無駄に」とかそういう意味だと思うんですが、性欲っていうのは無駄に刺激されたりするものですからね。ははは。

このように日本の法律上では、猥褻かどうかっていうのは芸術かどうかとはあんまり関係がない。でも猥褻か芸術か、みたいな話になってしまうのはわからんでもないですね。米国の反例なんかだと猥褻物というのは、(a) その作品が、平均的な人が、共同体のその時点の標準を適用して、全体として、好色な興味に訴えるものだと思うようなものであり、(b) 不快なしかたで州法でさだめる性的な活動を描いていて、(c) その作品が、全体として見て、文学的・芸術的・政治的・科学的価値をもたないもの、のように言われています。これは文学的・芸術的・政治的・科学的な価値がある場合は猥褻物として法的に規制したくないからこういうのを定義に入れちゃってるわけですわね。日本の法律はそうはなってないけど、芸術的価値のあるものは性的なことをばっちり描いちゃってても規制しないでおこう、みたいな考え方は常にあるわけです。

まあとにかく気晴らしにArt and Pornographyって本を読んでて、Hans Maes先生という方がポルノと芸術(アート)を二分することができるかっていう話をしてます。答は「そんな簡単にはできない」みたいな感じですが、とりあえず候補として、よく言われているポルノとアートの違いみたいなのを挙げているのがおもしろかったので簡単に紹介しています。ここで言われているアートはアートのなかでもエロティックアートとか呼ばれる、まあエロチックな、エッチな、セックスとか裸とか出てくるような、そういうやつわね。まあ私には美術作品の半分くらいはエッチに見えます。あれ、むしろエッチじゃないのは美術作品として観賞することができてないだけか。

ポルノとアートは違うぞ、って言ってる人びとは、どういう違いがあると言っているのか。

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1. 表現の内容

ポルノとアートは内容が違う。

ポルノ:性的に露骨、暴露的。解剖学的に詳細。まあアダルトビデオとか、その部分のクロースアップとか好きですよね。女性はそんなもの見てなにがいいんだ、って言うことが多いみたいですが、なんか男性は気になるらしいです。
アート:示唆的。その部分はぼかしたり隠したりすることも多い。体の部分より全体を描く。モデルの個人性や、その描かれている人物の主観的経験なんかを描写しようとする。恥ずかしがったり、恋のとりこになっていたり、夢見てたり、よいアートはその描かれている人の複雑な内面を想像してしまいますね。

内容的にもうちょっとふみこんでみると、

ポルノ:攻撃的。情感に乏しい。即物的。単なるF**K。そもそも「ポルノグラフィ」ってのは「売春婦(ポルネー)の記録」だ。汚ない、っていう人もいるっしょね。
アート:愛、情感。情熱。参加者は平等に求めあったりしている。エロティックっていうのは「エロース」=「愛」から来てるわけだからして、愛を含まないのはエロチックじゃないぞ。それにプラトン的にはエロースってのは美に向かうものだからして。美しくないのはエロくない。

2. 道徳性

これはポルノっていうのはいろんな表現のなかでも道徳的に劣ったもの、あるいは道徳的に悪いもの、不正である、っていう立場の人がとりますね。第二派フェミニズムが問題にしたやりかたです。

ポルノ:不道徳。粗野、野卑、下劣。degrading=登場人物をおとしめる。虐待的。有害(制作の被害、視聴の被害、性暴力、性犯罪、性差別の誘発)。ヘイトスピーチとして、女性の声を奪い女性を従属させる。疎外。モノ化(人間をモノとして扱う)。性差別的、性暴力的。

このタイプの議論をした人としては、法学者のキャサリン・マッキノンと文学者のアンドレア・ドウォーキンのコンビの一連の運動が有名ですね。他にも有力フェミニストの多くがこの立場をとる。彼女たちは、性表現を、こういう道徳的に人(特に女性)を貶めるような「ポルノグラフィー」と、無害な「エロティカ」に分けて、エロチカはぜんぜんかまわんがポルノグラフィーはなんかのしかたで規制しないと男女平等な社会はできないよ、ってなことを主張してます。この「ポルノ(グラフィー)」という語を定義しなおしちゃったのはいろいろ混乱を招くので私自身はよくなかったと思いますね。「性差別的ポルノ」と「平等ポルノ」とかにすりゃよかったのに。まあもっとも、「ポルノグラフィ」が含んでいる「ポルネー(売春婦)」の語源も性差別的で気にくわないところがあったのだと思います(ただし直接その指摘を見たことはない)。

3. 芸術的質

まあアートはもちろんアートとして質の高いものだけど、ポルノは単なる道具。

ポルノ:芸術的質をまったく欠いているか、低い。一元的。性欲を刺激するという単目的。クリシエ的。定型、紋切り。姿勢やジェスチャーは限定的。AVについての話を見ると、きまりきったことをきまりきったように描いていて、見る人は自分の好みのジャンルを延々見つづけるようですね。せいぜい新しくて魅力的なモデルが変わる程度。
アート:複雑、多層的。多様な解釈や視点の可能性がある。オリジナリティが重要。有名絵画の解説本なんかを見ると、細かい点にもすごく気をつかっているのがわかりますね。

ポルノ:工業製品、大量制作、大量生産。1人のAV監督が1年に何本取るのか知らんけど、まあチーム作業で1日1本とかでばんばん撮影しているんだと思います。素人が作ってもポルノになる。
アート:制作にあたって高度な技術や修練を要する。デッサンしたり習作制作したりして長年の修練をつまないとアートにはならんですね。

ポルノ:naked、単に「服を剥がれた」状態。とにかく裸ならいい。
アート:nude、身体は理想的な形に装飾される。腰まきとかつけちゃったりしてよりエロく。(この区別はおそらくケネス・クラーク先生だと思う)

ポルノ:純粋なファンタジー。消費者が求めるように描く。消費者は自分の好みしたがって好きなジャンルやモデルを選ぶだけ。見てもなにも変わらない。
アート:読者視聴者の想像をかきたてる考えさせるファンタジー。視聴者が求めるように描くのではなく、我々が生きている現実についての認識を提供し、現実の理解を深めてくれる。鑑賞者を教育してくれる。

4. 目標とされる視聴者の反応

それを見る人になにを求めるか、ってことですね。

ポルノ:性欲の刺激。視聴者の想像活動を邪魔する。視聴者のかわりにポルノ作者が想像してくれる。享受する者は「消費者」。作品を使い消費する。作品は道具として(有用なため)価値がある。性的欲求は観賞contemplationをむしろ不可能にする。まあ刺激されて「使用」して、使用がおわればポイっとすてたりプチっと再生をやめたりするわけですね。

アート:視聴者の想像を喚起する。享受する者は「読者、鑑賞者」として作品を観賞し評価する。作品は内在的に価値がある。エロチックな興奮を呼び起こすこともあるが、作品自体の美的価値を観賞することもできる。

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こんな感じみたい。まあぱっと見て、こういう二分法がうまくいきそうにないのは見てとれますね。でもいくつかは芸術というのもについて興味深いことを示唆しているとも思います。まあうまく行きそうもないものをいろいろ理屈こねてみるのも哲学ではあります。

この記事はおそらく続きません。続くとしてもずっと先。もっとも「疎外」とか「モノ化」とか「degrade 格下げする、さげすむ、おとしめる」っていう概念については考えてみたい。

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「芸術とはなにか」とか「芸術は道徳的でなければならないか」みたいなのを考えたい人は、まず『分析美学入門』読むといいと思います。訳者の先生ががんばって注とかつけてくれているので哲学入門としても読める。偉い。

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クラーク先生のは超有名本なので読んでおくべきです。

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でも楽しいのはやっぱりカラー画像がはいってるやつですよね。

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平松先生が一連の美女画の解説本出してて、とても楽しい。なんか一部からは不評らしいけど。でも美術作品のよさは実はエロにあるのではないかと思っています。

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そういや、こういう絵画は原題を書いておいてほしいですよね。カタカナだとネットで効率的に検索できなかったりするから。美術作品の画像も、図書館に行かなくてもネットでなんでも手に入るよい時代になりました。


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